逆形の影歩き

読み:むかなり の かげあるき

海神信仰のある日本海側の離島で主に発生していた。大正7年を最後に観測されていない。

影が発生元を離れ一人歩きする現象のことで、「むかなりさま」と呼ばれることもある。「むかなりさま」はかなのみで表され、漢字はない。「逆形(むかなり)」は土地名*1であり、この現象が出てくる一番古い記録*2による。逆形の土地とむかなりさまの関係については不明。逆形の土着神には「水筆見(みかくみ)」様という海神があるが、こちらもむかなりさまとの関連は不明である。

水筆見様は、海から上がり参道を通って海を見渡せるだけの山に建てられてた社へと入り、翌日にはその体を山に埋め、再び海から上がってくるということを繰り返す。これは、水の循環を示したものとして研究されてきた*3。むかなりさまは、「むかえうた」(下記参照)に見られるとおり、人身御供を連想させるところから荒れた海の象徴かと議論されてきたが、決定的な記述は見つからなかった。

水筆見様とむかなりさまは同一のものではないか、という説も論じられたが結論は出ず、むかなりさまは記録上のみの存在となった。


むかえうた

さいのうつほに ひをたいて

そそぎくろぐろ のべのはま

わたにおくれし はなよめは

きざをふみぶみ はしわたり

つきのなるよる いたわしや

あちのかいなは こちのすね


さんのくりかた ととのえて

さかみなみなみ えんのまえ

わたにおくれし はなよめは

みそぎしずしず とりのふね

つきのなるよる かわいらし

こちののどぶえ あちのみな


さしのさかづき ほしあげて

ひやきはみばみ きのすはら

わたにおくれし はなよめは

はるけくりぐり みしろのや

つきのなるよる ときめかし

あちのみたまは こちのこつ


さいはいのいい うずたかく

さえておんおん すずのこえ

わたにおくれし はなよめは

あしたすいすい ねぶりおき

つきのなるよる にぎははし

わにのめだまは そちのもの


むかえうたは長く口伝のみであった。大正7年にむかなりさまが地元で取り上げられた時、一度だけ印字された。上記のうたはそれを記録したものであり、口伝にて継承した者による書き起こしではない。

その後、該当地域の元・世話役から聞いた話として雑誌に掲載される*4。儀式の際にうたわれる、とのことだったが、うたの正誤や儀式の内容については失われたものとしてこれ以上の情報は得られなかった。

*1新潟県
*2背之海島風土記 うしろのみじまふどき
*3ものもと社 新説 神々の変遷 2101年
*4さめのつの 12月号 1921年