知らないのなら知らないままで 憶えていないのなら 忘れたままで ヒトは知れば知る程に 災いを呼び寄せてしまうから
005 力
死覇装渡した時点で気付いてると思うけど、と前置きしてから玄は言った。 「向こう行ったら死神になるよ」 その言葉に慌てて待ったをかける。 「私、霊感とかないんだけど」 あの世界では霊力と言っただろうか、そういうものがカナタにはないことは明白だった。 理由は簡単、幽霊など見たことがないからだ。 あの世界に幽霊がいないのであれば話は別だが、残念ながらそういう話でもない。 そりゃあ勿論、死神になれるものならなってみたいが。 カナタにだって(たった今植えつけられた知識だとしても)斬魄刀に憧れはあるし、 あの中でそれなりの地位である死神になれたら今後の生活は安泰と言っても良いだろう。 戦うことに不安がないと言えば嘘にはなるが、やはり憧れる気持ちの方が強い。 けれどもやはり、基本の素質が抜けていたら意味はないだろう。 「ん、大丈夫だよ」 そんなカナタの心配を一蹴したのは玄だった。 「カナタには霊力に代わる力があるから」 予想外の言葉に思わずえ、と漏らす。 「アキ、A308-bはB164に自動変換効くんだよね?」 玄が部屋の奥に向かって問うた。 同じように目を向けると、モニターの並ぶ隙間に人影が見える。 其処に人がいたなんてまったく気付かなかった。 「はぁい、そーでぇす。自動変換、止められませぇん」 「だって。ね?」 ね、と言われても、と満面の笑みを浮かべた玄に曖昧に返す。 Aナントカって何なのか、そっちの方が気になってしまう。 「あー…でも、A300代って条件付きのやつかー…」 「条件付き?」 独り言のようなそれに思わず食いついてしまった。 「あ、いや、 手に入れるのに条件を満たさないといけないってだけだから、力が制限されるとかはないよ」 「へー何の条件か聞いても良い?」 途端、何とも言いがたい形に玄の表情が歪む。 しかし、すぐに笑顔を浮かべて言った。 「んー内緒。覚えてないなら思い出さない方が良いよー自分のためにも、ね」 今までと同じようなテンションで言われているのに、それは確実な領域示唆だった。 踏み込むな、と線を引かれたように。 その微妙な沈黙に割り入ってきたのは、玄、と呼ぶ声だった。 「そろそろ軸重なる」 モニターの向こうでさっきとは違う声が言う。 「はーい、了解。カナタ、準備は良い?」 「うん、大丈夫。いつでもどうぞ」 出現した扉に手を掛ける。 もう本当に戻れないのだと、少しだけ寂しさに似たものを感じた。   
20130326