僕は嘘を吐く
でもきっと 紙一重のそれは完全な嘘じゃない


018 一番心に望むもの 

 日番谷、玄、カナタの順で十番隊付属の鍛錬場へと出る。鍛錬をしていた人々が何事かとこちらを振り返るものの、師範らしき人に一喝されて各々の訓練へと戻っていった。そのまま目線の中を通って、二人はその奥にあった扉の中へと入っていく。そこまで来て、カナタはついてきて良いものかと逡巡した。
 だって、斬魄刀の能力だ。その能力が知れることは自分の手の内が知れ渡ることと同義。玄だからそんな心配は要らないのかもしれないとも思ったが、手札は多い方が良いのではないか。
 そんなこと考えていると、扉の向こうへ消えていった玄が戻ってきた。
「カナタ。来ないの?」
「え、だって…」
「もしかしてなんか心配してる? 別に何も心配すること、ないよ?」
「そうなの?」
「うん。いざとなれば斬魄刀の力なんて使わないし」
やっぱりそういう話になるのか。
 心配するだけ無駄だったな、と思いながらついていくことにした。玄は、自分のことは自分でちゃんと考えられる。カナタが彼女のために出来ることなど、きっとないのだろう。
 扉の向こうは裏庭のようになっているらしかった。草履を持って入ったのは此処へ出るためだったのか、とカナタは草履を履き直す。
「さて、カナタも来たし」
やろっか、と玄は笑った。日番谷が頷く。
 しゅり、と玄が刀を抜いた。その刀身を見て、カナタはほう、と息を吐く。美しい刀だった。実践になんて、使えそうにないほどの。
 透き通る水色をした、硝子のような刀。一振りで壊れてしまいそうなそれは、きっとこの世界だからこそ刀として通用するのだろう。
「騙れ、水宝(ゆとみ)」
静かな声が、その名を呼ぶ。
 きらり、太陽の光に反射して、刀身が輝いた。玄は真剣な顔で、すっとその刀で空気をゆっくり一線する。
「陽炎(かげろう)」
立ち上がる水の壁、それはこちらへ迫ってくることもせずにそこに佇んでいる。後ろの風景を遮断して、そこに世界を作り上げるかのように。
 カナタはそれを真正面から見据えて、そして、息を飲んだ。
 玄が充分だろうと言わんばかりに刀をゆっくりとおろした。それに呼応するように壁も消えていく。壁が空気に飲まれ切ったのを見届けてから、玄は日番谷を見た。
「…何が、見えた?」
「…お前の姿だ」
その答えに玄はほっとしたような、でも何か含むような、そんな顔をした。
「…そう」
しゅり、とまた音がして刀がしまわれる。周りに満ちていた水の気配はそれで消え失せて、カナタはそこで自分が息を詰めていたことに気付いた。
 息を吐く。玄はまだ微妙な表情を呈していた。
「あれは、何だったんだ?」
「陽炎、この技が見せるのはね、心が一番に望むもの。それで、敵を惑わすんだろうね。でもこれ、虚に効くのかな。アジューカス以上ならどうにかなるのかもしれないけど」
玄と日番谷が話しているのを、ぼんやりと聞いている。
 カナタの目に映ったのも、虚口玄の姿だった。

  

20160923