此処は私の故郷じゃない
此処に私は骨を埋められない


017 居場所 

 問題はお前だ、と日番谷が目で示したのはやはり玄だった。
「僕?」
「他に誰がいるんだ」
示された玄が、ごくり、と茶菓子を飲み込む。
「お前のことだから始解くらいは出来そうだが」
「…あれ、前使わなかったっけ」
「お前結局棒切れ振り回してただけだろ。その辺に落ちてる棒切れ」
「そうだったっけ…?」
「確か、間に合わなかったって言ってたと思うが」
「………ああ!」
思い出した、というように玄が手を叩く。
「そうそう、間に合わなかったんだよ。あの時どうしても緊急でこっちこなくちゃいけなくてさ〜。いやー思い出すなー、何の準備もなしに軸が合ったからって言って突き落とされたの………」
どうやら本気で上司に恵まれていないらしい。準備整ってないから衝撃派飛ばすくらいしか出来ないしさあ、虚には襲われるしさあ、ぐちぐちぐちぐちと続けながら、どんどん玄は机に沈んでいく。余程ヘコむ思い出のようだった。
「まぁそれがあったから冬獅郎に会えたと言ったら、そうなんだけどね」
それを言ったらまた、ほらよかったじゃんとか言われてさあ。ついでにこの世界の担当は玄ちゃんね、とか言われてさあ…。どんどん玄が沈んでいく。この世界って数ある世界の中でも結構規模の大きいところなのにそこを担当一人にした挙句、他のとこも兼任させるってどうなのホントマジ班長一回豆腐で頭を打って欲しい…とぶつぶつと繰り出される呪詛は聞かなかったことにする。
 ともあれ、先ほどのやりとりで玄は始解が出来るということは日番谷に伝わったらしい。
「使い物になるんだな?」
それは断定の色をしている。
「もっちろん!」
 此処へ来た時も玄は斬魄刀を振り回していたが、それとはまた違うのだろうか。日番谷がその場面を見ていないと言われたらそうなのだが。
「…卍解、は出来るのか」
「名前は、知っているよ」
その答えに目を見開く。そしてすぐに、言い方に引っかかりを覚えた。名前は、知っている。卍解などしたことがないから知識しかないが、そもそも名前を知るというのは彼らの力を知る、ということになるのではないだろうか。主として認めたその証として、名を差し出す。そういうものだと、カナタの中の知識は言っている。
 日番谷も同じように感じたのか、目線だけで続きを促した。玄が小さく唸ってから続ける。
「世界に入る前にね、一応僕らは設定を作るの。その世界に適応出来るように、その世界で生きられるように。だからね、名前だけは知っている。でも、それだけだ。世界から貰うその力を、完全に理解することはいつだって出来ていない」
僕らの魂は、何処にも居場所がないんだよ、と玄は笑った。何でもないことのように、それが当たり前だと言うように。
 じっと押し黙ってしまった二人に思うことがあったのか、でも、と明るく玄は続ける。
「始解なら練習して来たから出来るよ」
見る? と問うた玄は、何処か寂しげにも見えた。

  

20160923