君を、愛しています。
この世界の誰よりも。
君を、愛しています。
この地獄の果てまでも。


014 第一印象 

 カナタと松本に言ってしまってからと言うもの、というよりもそもそも隠す気などなかったのか、玄が日番谷から離れて動いているところをカナタだけではなく、きっとその周りにいるすべての者が見たことがない、という日々が続いていた。知識はあれど知らない場所、知らない人間―――いや人間ではないのだったけれども―――がいっぱいの場所で一人になるのは心細く、少しでも慣れるため、カナタは此処に来てからこっち、玄の金魚の糞をやっている。ついて回られる人数が増える日番谷には申し訳ないが、そうでもしないとそれ以上の迷惑をかけそうなのだ。
 「ア、玄やない」
隊長さんの出待ち? と影が被さったのに、玄は呑気にあ、ギンちゃん、と小さく手をあげて応えた。隊長羽織。いつ他の隊長を知り合ったのだろう、ああ隊首会の時か、ととりあえず縮こまるカナタを他所に、二人は世間話に花を咲かせる。ちなみに今日番谷は重要書類の提出中で、流石にそこにくっついて行くのはどうなのか、という常識も玄にあったのか、部屋の外で待機中なのである。
「そうだよー出待ち。冬獅郎ならこの中。なんか用だった?」
「うん? 特には。玄が見えたから何してんのやろーって」
「ざんねーん、特に何にもー。冬獅郎と一緒にいたいだけだよ」
「うわ〜オアツイ〜。仲良くて羨ましいわ〜」
「でしょでしょー?」
会話に割って入るのもなんだかだし、そもそも相手は何処の隊かは知らないが隊長であるのだし、玄とは違って何をしに来た訳でもない、強いて言うならば生きるためにこの世界に来たカナタにとって、そんなお偉いさんに話し掛ける理由など見つからない。
 私は空気、私は空気、そう言い聞かせながら二人の弾む会話を黙って聞いている。
「円満の秘訣とかあるのん?」
「うーん…」
「あるなら教えて?」
「もしかしてギンちゃん、秘訣とか聞いてどうするの? 誰かとお付き合いしてるの?」
「はは、まっさか。でも聞いといて損はないやろ?」
「まあ損はないかもねー」
でも多分参考にはならないよ、と玄は笑う。
「僕と冬獅郎の関係は普通の恋人関係にしてはチョット複雑だからね」
複雑、と聞いてやはりいろいろあるのか、とカナタは思った。
 片や世界を守る仕事をしている者、片や護廷十三隊の隊長。そもそもに出自世界が違うのだろうし、謂わばカナタの中に残る感覚で言えば異世界人間の恋愛となるのだろう。こんにちそんな物語は珍しくもなんともないけれどこうして目の前で展開されるとどうにも眩暈がする。
「というか、隠してないんやね」
「うん?」
「十番隊長さんとのこと」
「え、隠す必要もないでしょ」
なんで? と首を傾げる玄はその動作も相まってひどく幼く見えた。低身長だがそれでも十五歳程度には見え―――なくもない(だって自己申告だ)(しかも、「じゃあ十五くらいで良いよ」との投げやり具合)いつもと違って、その仕草は妙に胸をざわつかせる。
「やだなぁ、ギンちゃん分かってるくせに」
 まるで踏み込んで来い、と。
 そう、罠を張っているような。
「言った方が良い? 僕、女の子だよ」
「知っとるよ」
「ほらぁ」
けたけたと笑う二人の間に、冷たい空気は流れない。カナタが感じ取れないだけで水面下で何か起こっているのかもしれない。玄は此処に仕事に来ているのだ。猶予期間、なんて言っても、布石を打たない理由にはならないだろう。
「他にもいろいろ、大変やないの?」
「ギンちゃんの心配も尤もなんだけど―――そうだね、慣れてるからなんとかなるよ、って言っておこうかな」
どういう意味だろう。
 そのあとすぐに部屋から出てきた日番谷に、カナタの思考は遮られた。苦々しげに市丸、と呼んだ日番谷のおかげでカナタは彼のフルネームを知る。
―――市丸ギン。
まるで蛇のような人だな、と思った。
 それが、束左カナタの市丸ギンに対する第一印象だった。

  

20160923