蛇は笑う
飲み込めるか飲み込めないか その身を伸ばして測るように


012 咀嚼 

 では、そうしよう、との山本の言葉一つで隊首会は解散となかった。本当に玄のお披露目会というだけになってしまった。まぁそれでも良いけれど、と玄は思う。これから起こることを考えれば、その面々に顔が知れているのはなかなかに良いことだろう。目をつけられる、ことを除けば。
「正式書類は後日日番谷に届ける」
「はい、お願いします」
山本と日番谷が言葉を交わす。日番谷の顔に緊張が見えたのは気のせいではないだろう。
 山本が行ってしまってから、何か小言でも言おうとしただろう。
「…玄、お前なぁ」
その口が開いた瞬間、
「ええな〜十番隊長さん。羨まし」
影が掛かった。ついでに言葉も降ってくる。
「その子、ボクんとこに欲しかったんに」
蛇のような笑みが、ふわりと向けられた。
 気に入らない、というように眉を寄せる日番谷とは対照的に、玄は明るく声を上げる。
「ああ、ええと。三番隊隊長さん、ですよね」
「市丸ギン言うの。よろしくな〜」
好きに呼んで良えよ、と付け足されて、にこり、と玄は笑った。
「じゃあギンちゃんで。よろしく!」
「明るい子ォやなぁ。ボクは玄、って呼んでも良え?」
「いいよー。って、あ、タメ口きいちゃった。だめですよね、隊長さんですもん」
「なに、そんなこと。気にせんで」
「やったー!」
なんでもない風景であるように、双方が努めている。この遣り取りは予め決まっていたかのように、まるで息をするのと同等に。
 日番谷の眉が少しばかりつり上がったのを玄は見逃さなかった。これ以上の会話は今後の流れに差し支えるだろう。なにせ、日番谷は馬鹿ではない。実直で、その分扱いやすいと言われれば首は振れないが。
「じゃあ、改めてよろしくね」
だから、手を出すだけに留めておく。
 「ギンちゃん」

  

20160923