第三話 まずやることは事実確認
「さて―――」
お決まりの台詞を今吉が吐き出す。
にこにこと楽しそうにうろうろ歩きまわるその不審な中年男を、
花宮以外の人間が困惑、もしくは嫌悪をもってして見つめていた。
「まずは最初っから追ってみましょか。ワシらがこの屋敷に来た時から」
怪訝な顔をした善知鳥に花宮はすみません、と小さく謝る。
謝ることなど何もないのだが、此処で今吉が機嫌を損ねて謎解きを中断してしまうのは困る。
「ワシらがこの屋敷に着いたのは十時十五分頃。
この来訪のことを知っとったのは、原澤長官にこれを相談しとった善知鳥さん、
その秘書の剣路(けんじ)さん、あとはいらっしゃいます?
厨房にいてはった戸田(とだ)さんはどうですか?」
「私、ですか?」
名を呼ばれた戸田が首を傾げた。
戸田はこの家の厨房を取り仕切る人物である。
料理長、とでも言えば良いのか。
「私はお客様が二人いらっしゃるとは聞いていましたが、探偵さんだとは知りませんでした」
「ほう、それは厨房の他の二人も知っとったっちゅーことで良えですか?」
「はい。野束にも立古(りゅうこ)にも私から来客のことについては伝えておりました」
なるほどなるほど、と今吉は嬉しそうに笑った。
笑った、と言っても元々の顔が笑っているようなものなので、
傍目から見たら大した変化はないだろう。
「あの…?」
「あーすんません、ちょーっとした脱線ですわ。
ちゃんと謎解きは続けますんでご安心を」
今吉がぽん、と戯れのように戸田の肩を叩くと、善知鳥がまたぐっと顔を歪めた。
すみません、と小声で謝る。
長いですが本当にちゃんと謎は解く人ですから。
ひたすら低姿勢な花宮を気にすることもなく今吉はちょろちょろと動き回っていた。
少しだけ、殺意がわく。
「えーっと、十時二十分やったっけ?ワシらが此処についたん」
「十五分です、ご自分で言ったことくらい覚えていてください」
せやったせやった、と頷く今吉に吐きたいため息をぐっと堪える。
「十五分、着いたワシらは駐車場に車止めて、
この豪奢なおうちまでの道をとことこ歩いてきたんやったな。
あの道なっかなか素晴らしいモンでしたわ。
ワシそこまで庭の造形詳しくはないんですけど、
それでも立派なモンやってことぐらいは分かります」
確かに、庭は本当に見事なものだった。
花宮は頷く。
そういう人間らしい感性も彼に残っていたとは、知らなかった。
「そういえば藤棚、見事なモンでしたなぁ」
ふ。
じ。
だ。
な。
ご丁寧に一文字一文字区切って囁かれる言葉に、
花宮は善知鳥のこめかみに青筋が浮かび上がるのを見た。
そろそろ血管が弾けるかもしれないが、もうここまで来たら知らない。
弾けてこの探偵が殺人犯になれば良い。
「根本にネコちゃんたちがわらわら集まっとってなー可愛かったなぁ。やろ?花宮」
「ええ、猫団子が出来てるのが遠目にでも分かりましたね」
投げやりに返す。
それでも今吉に気にした様子はない。
「で?」
半眼になって催促すると、なんや?と小首が傾げられた。
中年男に不似合いなそんなきゃるんとした動作に鳥肌が立つ。
「それが、今回の事件になんの関わりがあるんです?」
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20141113