第二話 探偵という生き物
花宮真は腹を立てていた。
原因は言わずもがな、この前の善知鳥議員の件である。
勿論―――勿論、今吉が推理をしくじるなんてことがある訳がないので(残念なことに)
(残念なことに?)
(彼が非常に優秀な探偵であるということを、花宮は身をもって知っている)、
その点については何も言うことはないのだが。
「うわ、花宮どうしたん。カルシウム足りてないんちゃう?」
ほら、ニボシちゃん食い、と差し出されたお徳用パックを丁寧に押しのける。
「貴方の所為じゃないですか!」
「ワシィ?」
あくまで惚けるつもりらしい。
「惚けないでください!この間の善知鳥さんのことですよ!」
「えーアレ何か駄目やったっけ。ちゃんと事件解決したやん」
そう、それまで多くの人間が頭を悩ませたのが馬鹿馬鹿しいと思うくらいに鮮やかに、
彼はその妙ちくりんな事件を解いてみせた。
それが今吉翔一という人間であり、
名探偵という生き物だとは知っていてもやはり、腹立たしいことは腹立たしいのだ。
「あのあと善知鳥さんめちゃくちゃ怒ってたじゃないですか」
あれ上からの仕事だった、って分かってやってましたよね、と言えば、
そんなん当たり前やん、と呑気な声が返って来た。
思わず、机をダンッと叩く。
「なんやねん花宮…ほんまカルシウム足りてないんとちゃう?」
おおこわ、と肩をすくめてみせたその姿に、やはり反省など見えない。
「あのですね!」
ひりひりする掌をさすりながら、花宮は吠えた。
痛かったんか…なんていうツッコミなど無視だ。
「あの件は諏佐さんが上から―――原澤長官から直々に頼まれた依頼だって、
オレ、言いましたよね!?」
「言っとったなぁ。やからワシ、ちゃんと謎解きしたやん」
「しましたけどね!?」
そう、先ほどから言っている通り、したにはしたのだ。
だが、そこまでの道のりやら言い方やら、
つまるところの態度が最悪だった、花宮はそういう話をしたいのである。
花宮の言いたいことなど最初から分かっていたのだろう。
今吉は薄ら笑いを浮かべながら、その古ぼけたソファへと身を沈める。
「やって諏佐、くれぐれも無礼のないように、とは言わんかったんやろ?」
「…ッ。
………言いませんでしたけど」
「ならそれ、高くなっとる鼻へし折ったれ言う意味やから。別に良えんよ、アレで」
花宮が彼らに出会う前からの付き合いだと言われてしまえば、
花宮にそれ以上何を言うことも出来ない。
だけれども悔しさも相まって、でも、と言い募る。
「…それで諏佐課長の評価が下がったらどうしてくれるんですか」
わざと課長、の部分を強調したのは彼がその地位を、実力で取ったのだろうと思えるからである。
少なくとも、花宮には。
「下がらんよ」
にぃ、とその唇は弧を描いた。
「勿論、諏佐があの地位をもぎ取ったんは実力もあるけどな」
秘密の話をするように。
「アイツ、長官のお気に入りやから。そういうんは大丈夫なんよ」
楽しそうに、たのしそうにそう囀る姿に、花宮は盛大に顔を歪めてみせた。
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20140619