生きたいと望む、小さな鼓動。
六
いずみが門の手配や青年の捜索をしている間、涼水は悪魔と二人、居間に残されていた。
「その中に、赤ちゃんがいるんですね」
じっとその腹を見つめる。
とてもじゃないけれどもう一つ生命が宿っているようには見えない、ぺたんとした腹だった。
「そうですよ。人間とは違いますから、そうは見えないかもしれませんが」
悪魔というのは人間よりも小さく生まれてくるのだそうだ。
その分人間よりも成長速度は早いが。
「なんか不思議です」
「成長速度が?」
「いえ、此処に違う生命が宿っているということが」
自分にも備わっている機能ではある。
しかし、あまりにも涼水は子供で、まだそういったものが実感として沸かないのだ。
「自分にもこんなふうにお母さんのお腹の中に入っていた時期があって、
もしかしたら将来、私もこうしてお腹の中に、もう一つ生命を宿すかもしれなくて…」
こんなふうに愛しさのこもった手で撫でられたことがあったのだろうか。
こんなふうに混じり気のない愛情を注ぐ日が、来るのだろうか。
「…触ってみますか?」
目を見開く。
「…いいんですか?」
「ええ」
そっと、手を伸ばした。
服の感触、皮膚の圧力、そして、
「わ…」
確かに聞こえた、生命の鼓動。
とくり、とくりと何か必死で訴えているような音に、涼水は目を細める。
「生きてる」
「ええ、生きています。
そしてこれからも、生きていて欲しいと願っています」
そうっと引いた掌には、まだ先ほどの鼓動が残っていた。
一緒に生きたい。
涼水にはそう言っているように思えたが、それを決めるのは自分ではないとも思っていた。
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20131011