何故、壁が存在するのだろう。
四
「種族…ですか?」
「ええ、種族。
あの人は人間で、私は悪魔。
まだ相手が天使だった方が良かったかもしれません」
人間と悪魔では、絶対的に種族が違うのですから。
恋に落ちたのは青年の方もだった。
相手が悪魔だと分かっても、その本能が人間を不幸にするものだと知っても、彼は悪魔を愛した。
二人は何度も会って、何度も触れ合って、
本来ならば出会うことさえなかったであろう奇跡に感謝した。
互いの存在を確認し合って、幸せだった。
悪魔でも幸せになれるのだ!
彼女はそう思ったという。
不幸な人間を見て嘲笑うのではなく、その絶望を食べて満腹感から笑うのではなく、
ただ触れ合うだけでこんなにも幸せな気持ちになれるのだと。
「でも、気付いてしまったんです」
愛おしそうに腹をさする手。
まさか、と涼水は瞬く。
「そうですよ、此処に、もう一つ生命が息づいているんです」
最初に感じたほころび始めた花のような印象は、これから来ていたのだと思った。
綺麗な花を咲かせるために、ふわりふわりと花片をざわめかせているように。
異なる種族の血を交えることは、古来より禁忌とされていた。
その理由は誰も知らない。
様々な憶測が流れてはいるが、誰ひとりとして明確な答えを知る者はいない。
しかし、それでもその禁忌はこの永い時の中で消えることなく伝えられている。
いつからそれが言われているのか、分からない程永い間、世界を支えている。
「子供のことはずっと隠していました。
彼にも伝えました、産みたい、と。
彼は賛成してくれました」
でも、と悪魔は続ける。
「魔王様って存在するんですね」
私、初めて会いました。
悪魔が言うには、悪魔たちにとっての魔王という存在は、人間で言う神のようなものらしい。
いるのかいないのか、正しいことは分からない。
今回のことでいると分かったようだが。
「子供のことはバレていました。
人間については処罰を下さないと、魔王様は言っていらした。
まぁ、妊娠しているのは私で、きっと妊娠しなければ、恋は許されていたのでしょうね」
自嘲を含んだ声だった。
「そして、私は言い渡されたのです」
汝、異種間交渉を犯した故、消罪を言い渡す。
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20131011