隔たりを超える愛。



「最期って…どういうことですか?」 思わず疑問が口をついて出た。 こうした依頼でやってくる客は少なくない。 涼水も何件かこういった事案に関わってきている。 それでもこの悪魔は今すぐに死ぬようには見えなかった。 「それに、ショウザイって…」 「涼水」 面倒臭そうに、本当に面倒臭そうにいずみがジトリと涼水を見やる。 「私からお話してもよろしいですか?」 それを遮ったのは悪魔。 「少し、私の話を聞いてください」 まだ、時間はありますから。 そう続けた悪魔に涼水ははっとする。 ああ、これは紛れもなく死にゆく者の顔だ。 「私は見ての通り悪魔です。 悪魔とは人ならざるもの。 神が人間に幸福を与えるために創りたもうた、不幸を運ぶ存在と言われていますが、 本当のところは分かりません」 まぁ、納得出来ないことはないのですが。 それに涼水も頷かざるを得ない。 「…不幸が存在すれば、幸福が分かるから…」 「そうですね」 悪魔は一息吐いて話を続ける。 「悪魔にとって人間に不幸を与えるのは本能のようなものです。 人間で言う仕事、に値するでしょうか。 不幸な人間の生気は悪魔にとっては重要な栄養なんです」 その日も、悪魔はいつものように不幸にすべき人間を探していた。 ターゲットは幸せそうな人間の方が良い。 その方が落差でより不幸を感じてくれるから。 そうして、出会ってしまった。 何処にでもいそうな平凡な青年。 だけれど、彼はとても綺麗な瞳をしていた。 ずきゅん、と胸が撃ち抜かれる音がした。 恋、だった。 「ですが、」 悪魔は言う。 「種族というのは、越えてはいけないものなんです」   
20130823