隔たりを超える愛。
三
「最期って…どういうことですか?」
思わず疑問が口をついて出た。
こうした依頼でやってくる客は少なくない。
涼水も何件かこういった事案に関わってきている。
それでもこの悪魔は今すぐに死ぬようには見えなかった。
「それに、ショウザイって…」
「涼水」
面倒臭そうに、本当に面倒臭そうにいずみがジトリと涼水を見やる。
「私からお話してもよろしいですか?」
それを遮ったのは悪魔。
「少し、私の話を聞いてください」
まだ、時間はありますから。
そう続けた悪魔に涼水ははっとする。
ああ、これは紛れもなく死にゆく者の顔だ。
「私は見ての通り悪魔です。
悪魔とは人ならざるもの。
神が人間に幸福を与えるために創りたもうた、不幸を運ぶ存在と言われていますが、
本当のところは分かりません」
まぁ、納得出来ないことはないのですが。
それに涼水も頷かざるを得ない。
「…不幸が存在すれば、幸福が分かるから…」
「そうですね」
悪魔は一息吐いて話を続ける。
「悪魔にとって人間に不幸を与えるのは本能のようなものです。
人間で言う仕事、に値するでしょうか。
不幸な人間の生気は悪魔にとっては重要な栄養なんです」
その日も、悪魔はいつものように不幸にすべき人間を探していた。
ターゲットは幸せそうな人間の方が良い。
その方が落差でより不幸を感じてくれるから。
そうして、出会ってしまった。
何処にでもいそうな平凡な青年。
だけれど、彼はとても綺麗な瞳をしていた。
ずきゅん、と胸が撃ち抜かれる音がした。
恋、だった。
「ですが、」
悪魔は言う。
「種族というのは、越えてはいけないものなんです」
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20130823