印象的なその紅い瞳以外は、全てが白く染め上げられていた。
二
「どうぞ」
ことり、とお茶を置く。
例え客が人外であろうとも接待をするのが涼水の役目だ。
いずみから任されている仕事は少ない。
だから、涼水はその与えられた仕事くらいはしっかりこなそうと決めていた。
「…ごめんなさい、もう飲めないんです」
眉尻を下げて、その人(人ではないだろうが暫定的に人とする)は謝罪を口にした。
「あ、そうなんですか…」
仕方ない、とお茶を下げつつ、涼水はその言葉に引っかかるものを感じていた。
“もう”。
今まではそれが出来たかのような言い方だ。
客人の分のお茶を下げながら涼水は、その人を失礼にならないレベルで観察した。
真っ白なコウモリのような羽、真っ白な髪、
真っ白な肌、真っ白な服、唇さえもがその色を失っていて。
ただきらきらと不思議な光を湛える瞳だけが、紅く輝いていた。
人間ではないだろう、それくらいしか分からない。
「…その様子カラすルと、君は消罪を受けたタのカナ」
ずず、とお茶を一口飲んでから、いずみがぼそりと呟いた。
尋ねるというよりは確認のような言い方。
角砂糖を五つもいれた紅茶は美味しいのだろうか、
いつも思っていることだが、今はひどく場違いな思考だと思った。
「ご存知なのですね」
「僕も噂でシカ聞いタことないケド。
君は悪魔、だよネ?」
「はい」
透き通るような声だった。
悪魔、そう呼ばれる存在には程遠く感じる、優しい声。
「何故此処ヘ?
消罪カラは逃れられないヨ?」
「分かっております。
見つかってしまった以上、逃げることなどほぼ不可能です」
にこにこと彼女は続ける。
貴方も分かっているのに聞くのですね、そう言った悪魔にいずみは少しだけ顔を顰める。
それは、名前をつけるならば、きっと、
「最期の願いを、叶えるために」
かなしみ、だ。
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20130823