きれいに晴れた、秋の日。
一
来客を告げる鈴が鳴る。
「…涼水ー…出て来テ…」
眠たそうな声で店主は涼水を呼ぶ。
「良いけど、お客さんが入ってくるまでに目、覚ましといてね」
起きているのか寝ているのか。客間のソファに沈み込むいずみに、涼水は小さく溜息を吐いた。
でもきっと、客を居間に通すまでにはしっかりと起きているのだろう。
白狐の黎明堂店主、筑紫いずみとはそういう人間だ。
「お待たせしました」
いつも通りの台詞、玄関を開ける。
「こんにちは」
にこりと微笑んだその表情は、
少女というには大人びていて、女性というには少し幼いように感じた。
例えるならば、ふわりとほころび始めた花のような。
「此処は白狐の黎明堂、ですよね?」
「…はい、そう、ですが…」
今までにも科学者やらコックやら警察やらお姫様やら宇宙人やらロボットやら、
その他諸々普通に生活していたら出会って話をしたりすることもなかったであろう
種類の人々(若干人じゃないのもいるが)に会って来たけれど、こんな人は初めてだった。
恐らく人ではないが。
「良かった、ちゃんと辿り着けて」
ほっと吐かれた息に呼応するかのように羽が揺れる。
そう、真っ白で、コウモリのような羽が。
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20130823