僕を見てよ
どうか、ねえ、僕を


020 ポーズ 

 可愛らしい嫌がらせは連日止むことはなかった。
「いい加減、うっざ〜い…」
先日あんなことを言っていた玄にも、ようやくダメージらしきものが現れ始めるくらいに。
 執務机に突っ伏した玄を眺めていたカナタの頭には、塵も積もれば山となる、という言葉が浮かんでいた。嫌な塵である、出来れば積もって欲しくなかった。人間、というのもあれだがもうカナタの感覚からすると人間、はどうしてこうも何処でもそうなのだろう、と思う。自分もその一人であるはずなのに、カナタにとってはひどくそれは他人事のようだった。
「まぁ、玄、元気出して…」
「やだ」
「無理、とかじゃなくて嫌、なんだ…」
当事者がこんな感じだからかもしれない。
「玄、」
「何?」
「無理とかしてない?」
「無理はしてないよー。ただひっじょうにめんっどくさいなってだけ」
冬獅郎とランランランデブーしようとしても毎回邪魔入るし、今回くらい怒っても良くない? ねえねえ良くない? 上司に申請出して良い? などとカナタに聞かれてもゴーサインを出す訳にもいかないのだが。
「というか今まで何度もいろんな世界回ってるんだよ? そこで同じ種族じゃないことにビビられて迫害されたりとかもあったんだよ? まぁ力で黙らせたんだけど。そりゃ豆腐メンタルもダイヤモンドになりますわー」
玄に豆腐メンタル時代があったなんて些か信じられない。
「こっちはお前の世界救いに来てやってんのに! って話だよね、もう!」
「そうだよね、玄はこの世界を救いに来てるんだよね…」
ヒーローみたいだ、と思う。
「…ほんと。僕らがいなかったら世界が失くなってるかもしれないのに」
 その静かな呟きに、カナタはふと、違和感を覚えた。
「玄ってさ、すごいお仕事してる訳じゃん」
「ん? そう?」
「そうだよ。世界を救うなんて、私最初信じられなかったもん」
「あー…カナタは本当に信じてくれなかったよね…。時空移動までしてもまだ信じてなかったもんね…」
「そ、それはごめん」
今はこうしてちゃんと信じているので許して欲しいものである。
「なのに、それを誇示することってしないなって」
「誇示?」
「うん。もっと、こう…偉そうにしてても良いと思うんだけど」
「え、充分偉そうでしょ?」
「うーん…なんか、全部、ポーズみたいで」
ポーズ、と玄は繰り返した。ポーズ、とカナタも二回目を言う。
「ポーズかぁ…」
「うん、ちょっと、わざとらしいっていうか。それがなんだか、他の人に………うーん…」
「ナメられる?」
「…うん、それ」
ふうん、考えたことなかったなあ、と玄が頷く。でもま、対処は後回しでもいっかあ、書類も溜まってるし、とせんべいに手を伸ばす玄に、カナタは特に何を言える訳でもなかった。
 数日後、事件が起こるとも知らずに。

  

20160923