世界はつまらない
世界は寂しい
世界は残酷だ
それ故 美しい
000 侵入者
束左カナタは大きくため息を吐いた。
十七歳、夏。
それなりに日常は忙しく充実しているとは思うが、なんとなく感じる違和感。
例えるならば、世界に合致していないような。
自分が異常であるという認識は、自分にも、そして恐らく周りの人間にもないだろう。
カナタはパソコンに向き直る。表示されているのは所謂名前変換小説のサイト。
「異世界トリップねー…」
呟く。
「出来ることなら行ってみたいなぁ。辛いのは嫌だけど」
無理なのは分かっているが、妄想するくらいタダである。
だからこそ、こういったサイトが溢れかえっているのだろうし。
そんなふうに思って目を閉じかけた、その時。
「じゃあ、してみる?」
突然、背後で声がした。
この部屋はカナタの部屋であり、カナタ一人しかいないはずだ。
両親は仕事中であり家におらず、カナタには兄弟はいない。
勿論だが客を招き入れた記憶もない。
嫌な汗を感じながら恐る恐る振り向く。
「…何も見えない。大丈夫、大丈夫。警察なんて要らないよね」
確実に自分に言い聞かせる形になっているが、それでも言わずにはおれなかった。
カナタは立ち上がって部屋を出ていこうとする。
暑さの所為か、なんだそうか、それなら仕方ない。
台所で氷でも口に放り込んだら少しは改善するだろう。
「いやちょっとまってよ!僕は幻じゃないよ!ちゃんといるから!」
後ろで何やら叫ぶ声が聞こえる。
出来ることなら無視したいが、
侵入者が自己申告してくれたのを華麗にスルーという訳にはいかない。
ちょっと無理がある、カナタは振り向くと、侵入者を睨みつけた。
「何ですか?泥棒ですか?殺人鬼ですか?そうなんですか?不法侵入ですよね、警察呼びますよ」
侵入者の方はそんな視線をものともせず、へらへらと笑う。
「いや、無駄だと思うよ?」
思った以上に危険人物なのかもしれない。
「…それは、何故だか聞いても?」
警察が来る前に逃げちゃうから、
もしくは、今すぐ君を殺すから―――そんな回答が来るものと身構えたが、
「だって僕、君にしか見えないから」
「………は?」
思わず、言葉が漏れた。
侵入者をまじまじと見つめる。どっかりとベッドの上に陣取っているそいつ。
短い髪は銀色にきらめいて、紫のような瞳は見ようによっては禍々しくも思える。
確かに、普通の人間ではないように思えた。
そもそも普通の人間はこんな色彩をしていない。
「ちょっと話をしようじゃないか」
侵入者はにこっと笑った。
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20130326