黒子との生活は、恐ろしい程静かに進んでいった。
罵詈雑言を浴びせられたり、泣き付かれたり、
殴りかかられたりすることもあった山崎としては、その静かさがかえって不気味だった。
「本当、何から何まで弘さんと一緒なんですねぇ」
にこにこと黒子が言った。
風呂場にわん、と声が響いて聞こえる。
「…死なれたら困るらしいからな」
以前は決まった時間に食事を配給するだけで世話係などついていなかった。
その食事を作っていたのも山崎ではあったが。
しかしその誰も見ていない時間に部屋にあるもので玩具が自殺を図り、
見事それは成功してしまったのだ。
それからだ。
花宮が山崎を玩具に世話係としてつけるようになったのは。
あれでも面倒だと言う感情は湧くらしい。
風呂をこうして監視するのだって、溺死されるのを防ぐためである。
人間は自身の膝より低い水位で溺死出来るらしい。
それを知ったのは一体何処でだったか。
「弘さん」
「何だ、熱いか?」
黒子がバスタブから身を乗り出す。
白い身体に点々と散らばる赤黒い痕がひどく生々しく感じた。
こういった痕の数々が、別に花宮の独占欲を表している訳ではないことも山崎は知っている。
ただ、その痕を見て嫌な顔をする玩具が楽しいだけだ。
悪趣味だ、と思うことがないとは言わない。
独占欲ならまだしも、花宮のそれは相手が嫌がるというそれだけに注がれているのだから。
薄い唇が合わされる。
「は、」
ぎょっとして肩を強張らせたものの、それは一瞬にも満たなく離された。
「お前、何して、」
「抱かせてくださいませんか?」
言葉を遮って黒子は言う。
その瞳はあまりにも艶めかしく、山崎を吸い込もうとする。
「僕は、貴方が欲しいんです」
緩やかに弧を描く唇に、言葉が出なかった。
―――それがものなら、な。
刹那脳裏を過ぎったのは花宮の言葉。
忘れていた呼吸を取り戻す。
こういうことか、内心舌打ちをしたかった。
自身を落ち着けるようにゆっくり息を吐いて、
「…オレが、お前に与えられるのはものだけだ」
花宮に言われたままを伝える。
黒子はそうですか、と微笑んだだけだった。
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20131206