「黒子テツヤを今日から飼う」
ボスである花宮がそう宣言したのは、瀬戸と原のみを連れた謎の任務の後だった。
瀬戸はこの小さな組織の中で唯一花宮の思考についていける奴だし、
原は身体能力が一番である。
つまりはそういうこと、少数で動いた方が良くて効率を最大限まで上げたい時の作戦。
そこまで欲しい人材だったのだろうか、所詮飼う人間だと言うのに。
山崎は胸の内でだけそっと、首を傾げた。
飼う、というのはそのままの意味、花宮の玩具になることと言って差し支えなかった。
監禁して、世話をし、花宮の気の向いた時は気が済むまで相手をさせられ。
その相手の内容はその時によって様々で、
その扱いに耐えられなかった玩具をいくつも見てきている。
「今度はいつまで保つだろうか」
「んーオレが見た感じだと結構華奢な感じだったよ」
古橋と原がひそひそと話すのを山崎はぼんやりと聞いていた。
こういう玩具が入って来た時は、
「山崎」
「やっぱオレかよ」
ため息を吐く。
「飯と風呂とトイレ、他に何かあるか?」
世話係が山崎になるのはいつものこと。
理由はただの消去法だ。
花宮は世話なんかしたくないし、瀬戸は寝てばかりだし、
古橋は稀に見る不器用だし、原は性格的に世話なんか出来ない、ただそれだけ。
「いつも通りで良い。
何かものを欲しがるようならお前の判断で与えておけ。
…それがものなら、な」
目を瞬く。
欲しいものをくれてやれ、だなんて、破格の待遇だ。
それほどに価値があるのだろうか。
そうは思ったが花宮の考えることだ、山崎には到底理解出来るとは思っていない。
だからゆっくりと頷くだけに留めておいた。
「地下の倉庫に眠らせてあるから、行け」
もう一度頷いて歩き出す。
すれ違う瞬間、
「一つ、忠告しておく」
花宮の瞳が真っ直ぐに突き刺さる。
「アイツに絆されるな」
絆されるな、とは。
歩みを止める。
きょとん、とした目線が花宮には返っただろう。
山崎はこれまでに何度も玩具の世話をしてきている。
その中で、絆されたという事案があったかというと、ないのだ。
こういった組織に属する人間としてはまぁ他よりは甘さというものが残っている自覚はある。
それでも、今まで絆されるようなことはなかったと言うのに。
黒子テツヤというのは、そんなに侮れない玩具なのだろうか。
「…ああ、気をつける」
とんれもないものを押し付けられたんじゃないか。
そうは思うも、命じられたことをやるだけだ。
此処では花宮だけが正しいのだから。
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20130327