ラスト・レター。
八
朝、居間へと出てくれば、
「あれ、いずみ。おはよう」
珍しく涼水よりも先にいずみがいた。
「どうしたの?何かあった?」
普段は一番奥の書斎に篭って何やらやっているいずみだ。
自主的に居間に出て来ることは少ない。
何かあったと思うのが普通だろう。
「手紙」
いずみは手に持っていた便箋を丁寧に封筒に戻すと、ぽい、と涼水に投げた。
「手紙?誰から?」
「この間の悪魔サン」
どき、と胸が鳴るのが聞こえる。
「よ、読んで良いの?」
「宛名連名だカラ」
確かに、封筒には二つの名前が書いてある。
ツクシイズミさま、スズミさま。
お世辞にも上手とは言えないその文字は、なんとなく彼女の字ではないのだろうなと思わせた。
椅子に座って便箋を取り出す。
すぅ、と息を吸うと、涼水は手紙に目を走らせた。
貴方がこの手紙を読む頃、私はもうこの世にいないのでしょう。
悲しむことはありません。
それが世界の掟なのです。
理不尽だと憤りたい心も、最初はありました。
しかし、今の私にはそんなこと些細な問題なのです。
子供は無事に生まれました。
悪魔の子というのは人間と違って母乳を必要としません。
それは幾つかある救いのうちの一つなのでしょう。
子供は母親のいない子になります。
あの日言ったように、私はそれだけは後悔しています。
私がこの子を愛してあげるべきだったし、愛してあげたかった。
けれど、世界に逆らう以上、全てを望むのは傲慢というものです。
こうして世界の禁忌に触れて尚、引き返すことをしない私に、これ以上は望めません。
でもきっと、父親が私の分までその子を愛してくれるに違いありません。
私の選んだ人間はそういう人だと信じています。
彼も約束してくれました。
賭けだった子供の性質ですが、恐らく人間にとても近いように生まれつきました。
成長スピードも人間と大差ないでしょう。
半分は悪魔の血ですので、やはり何処か他の子と違ったところは出て来るとは思いますが、
きっとこの子なら乗り越えてくれると信じています。
最後に、
涼水がはっと息を飲む。
最後に、子供の名前をお伝えしたいと思います。
可愛らしい女の子でした。
黒髪が印象的な、女の子でした。
名前は、
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20131103