黒く蠢く言葉の刃。

消えない傷痕の話。



第六話



お世辞にも綺麗とは言えない部屋の隅に鎮座する、
これまた綺麗とは言えそうにもないベッドの上。
ペンが宙を舞う。
「どうだった？」
ペンが落ちたのは開かれたノートの先。
蓋をされていないインクが染（じ）みていく。

―――楽しかったよ。

その答えにノートの前の人間は満足したらしい。
なら良かった、と微笑む。

所詮紛イ物。

「違うよ」
にこり、威嚇するように見上げた瞳はその先の空さえも射るように。
「みんな偽りなんかじゃない。此処に必ず存在している」

ぎゅり、とペン先が紙面に食い込む音がした。

―――どうしたの？

「なんでもないよ。おやすみ」
それ以上の追求は許さないとばかりに、へらり、笑みを浮かべてノートを閉じる。

そうして三白眼気味の目を細めて睨むは、何もない宙だった。
「手出しはさせないよ」
形のないそれらはきっと、過ぎてきたことたち。


自分の世界にはいらないでくだ
さいそんなくだらないこと面白
くないもっと大切なことがある
でしょ書く資格ないよ勉強が出
来ないと気持ち悪い少しくらい
書けたって才能とかないんじゃ
ない時間だけ重ねれば上手くな
るとか幻想だし怖いよ下手くそ
テスト前でしょう死ねば良いの
に一人遊びたのしいですか一生
引きこもってれば黙ってろよ。


「五月蝿いよ」
過去が蠢くのは誰だって同じだ。
一様にすべてを背負って、此処に立っているつもりだった。
「五月蝿い。おまえらが何を言おうと、私は敗けない」
つらいのは自分だけじゃない。
何を言われても、何をされても、ペンだけは手放さないと決めたのは。

愛しい子たちを、他の誰かの手で殺させたり、するものか。



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