「もうそろそろ帰らないといけないみたい」
かちゃり、と丁寧にカップを置いて、Yは唐突にそう言った。
第五話
時間が来た、とそう言う彼女が時計などを見たような素振りはなかった。
「何か用事?」
疑問に思って問うてみる。
それにYはんー…と少し唸ってから、首を傾げながら答えた。
「この身体はね、元々この世界に対応していないものなんだ。
だから試行錯誤を重ねて徐々に、こっちに適応させるしかないみたいで」
今回のは調整見るためも含めた試験的な旅行だったんだよね、と笑う。
面倒だけどね、と続けるその姿は、愛に満ちあふれているようだった。
言葉に呼応するようにその身体が淡く光り始める。
「…一つ、聞かせテ」
それに驚く涼水の横で、いずみは相変わらず冷静に尋ねた。
答えられることなら、とYが返す。
「君は、この世界の未来ヲ知っテいるノ?…運命を、操れるノ?」
どくり。
胸が鳴った。
もし、いずみのその言葉通りだったなら。
涼水の過去のことも、いずみの大切な人が死んでしまったことも、
すべて彼女の所為だと、そういうことになる訳で。
そんな恐ろしいことが許されるものかと思う反面、彼女ならば、と思ってしまう自分もいる。
「え、なにそれ」
しかし、予想に反して浮かべられたのはきょとん、とした顔。
「未来も運命も、巡り合う瞬間に初めて分かるモンなんだよ?
神様でさえその時になるまで分からないものなんだよ?そんなものを、どうやって操るの?」
「じゃア、君は、」
「僕だけじゃなくて、本体もね、」
ふわり、とその姿は消えて、言葉だけが降って来る。
「君たちの幸せを一番に願っているんだよ」
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20140607