その金色(こんじき)の光は、まるで。
第九話
たたらを踏む。
唐突に現れた金色の光を、涼水は何の言葉も出せずに見つめていた。
それはいずみとHの間に立ちはだかるように存在していた。
いずみが何か囁く。
「本当、ニ…?」
今までに見たことのない表情。
恍惚としたような、何かを耐えるような、信じられないものを見るような。
光はその言葉に対して、ゆっくりと頷いてみせた。
そうして初めて、涼水はその光が人の形をしていることに気付く。
「ずっト、僕の傍にいテくれてたノ…?」
再び頷く光。
ひ、と音が聞こえた。
聞きなれない、しかし先ほど同じような音を自分の喉から聞いた気がする。
いずみを見遣る。
彼女は両手で口を覆い切なげに眉を寄せ、
その細い瞳からは―――涙が一粒、ぽたりと零れていた。
「…そっカ、守護天使は基本的ニ見えナイんだよネ」
『うん、そうらしいね』
ぐわん、と直接頭の中に響くような声だった。
「でモ、気付けなくテ、ごめン…」
『馬鹿。名前使ってくれてるだけで充分だよ』
ああ、と涼水は思う。
この人が、いずみに名前を付けた人。
そして、いずみの大切な人。
いずみがこんなふうに微笑むのは、きっとこの人の前だけなのだろうと思った。
三年は短くないはずだ。
それでも、今まで見たことのあるどんな表情よりもやわらかく、あたたかいもの。
『すげぇな、あいつ』
「わっ」
横から突然した声に飛び上がるも、涼水の視線の先にいたのは一度見たことのある顔だった。
「アルト?
え、私今薬飲んでないんだけど…」
この黎明堂の見えない従業員の一人。
以前イザヨイがくれた薬を飲めば、霊感のないらしい涼水にもその姿は見えるようになるが、
そんな貴重なものは大事な時にとっておくべきだと思って飲んでいない。
『ん、あいつの影響』
指差されたのは金色の光。
『人間は死後、何事もなければ天霊ってのになんだけど、
その中でも生前の大切な人間を守ったりしたいって気持ちが強いと、守護霊になれる場合がある。
天国との契約とか、説明めんどーだからはぶくけど…それにも階級があんだよ。
あいつ、金色してるだろ?
金って一番強い色なんだ。
どうやってなんのかは知らねぇけど、あいつ、守護霊での最上級まで辿り着いてんだよ』
「さい、じょうきゅう…」
『天使にも階級はあるけど、あの客みたいな上二級なんか目じゃねぇだろ。
最上級のことを俺たちは特級って呼んでるけど、
特級は死神にさえ打ち勝つ場合もあるって話だぜ』
「それ、すごいの?」
『すごいよ。
死神はこっちの世界では、神様の次に強い存在って言っても間違いじゃねぇから』
へぇ、と涼水は相槌を打つ。
正直守護霊だとか死神だとか、今初めて聞いたような言葉なのでいまいち理解できない。
『守護霊ってのは普段見えないモンなんだけど、そんな奴が顕現してんだ。
周りの霊的なものには大体影響を及ぼしてると思うよ』
出てこないけど榊丸もステファニーも、ロゥも見えるようになってんだろ、
とアルトが言葉を切った。
「ねぇ、」
いずみと、いずみの大切な人。
そんな再会に水を差すかのように声を発したのは。
「ちょっと」
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20140107