縛られ囚われ、ああ其処は、とても窮屈そうだ。
第七話
「…デ?」
先ほどのHの言葉から既に五分が経過していた。
「…あれー?」
変化のないいずみの様子にHは首を傾げる。
「これわりと強力な薬だったと思うんだけど」
「あいにくそういウのの耐性は大方ついてルんだヨ」
「…つまんないの」
がたん、と何処かで音がした。
それが聞こえたらしいHがふっと笑う。
「何が可笑しイ?」
「いや。
ただ…あいつが戻ってきたのだったら面白いと思っただけだ」
同じ色をしているはずなのに、どうして、こうも違う。
髪の色彩は違えど、その顔の造りは確かに自分のものと同じで、
きっと彼のいう生き別れの双子、というのは本当のことなのだろう。
特に、目の色に関しては同じだ。
きっと、取り替えても分からないくらいに。
でも、といずみは思う。
そこに宿るものは自分とあまりに違うように見えた。
ちぐはぐで、雁字搦めで、一人では歩くことさえままならないような、そんな印象。
「目の前でお前が犯されていたら、どんな顔するかな」
「…悪趣味」
いずみがトンファーを構え直すと、それに応えるようにHも警棒を取り出した。
「痛めつけるのは趣味じゃないんだけどね」
「どの口ガ…」
「さっきのだって催淫剤だったよ。
お前が少しでも素直になってくれるように、僕だっていろいろ考えたんだ」
にっこり、と笑ってみせる彼にいずみはうへえ、と不快感を隠さない。
「てゆーカ僕みたいナ人間は解毒剤も持ち歩いてルものダと思うケド」
その辺は考えなかったの、と続ければ、世間知らずなもので、と返って来た。
なるほど、分家と言えど神の末端ともなれば、それ相応の扱いを受けているのだろう、と思う。
「さテ。
さっきので大分僕の力量は知れタと思うんだケド、まダやるノ?
さっさと諦めてくれナイ?」
「嫌だね」
舌なめずり。
「逃してなんかやらない。運命は…変えさせない」
たん、と地面を蹴る音。
空中で金属同士のぶつかり合う嫌な音がした。
「は、強いって言ってもやっぱり空中での軍配は僕に上がるみたいだね?」
ばさり、とはためく翼をいずみは苦々しげに睨み付ける。
利き腕が折れているとは言え、純粋な力押しではHの方が強いらしく、
いずみはぎり、とトンファーをずらした。
流れた衝撃の所為で弾かれて床へ向かって落ちる。
「いずみ!!」
滑り込んでそれをキャッチしたのは、たった今飛び込んできた涼水だった。
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20140107