きみの足跡から強い花が咲く 風→←林

 それには答えらんねえよ、と林藤は言った。泣きそうな瞳が向けられる。そんな顔すんな、やりにくくなるだろ、とは心の中で思うだけに留めて、ぷはあ、と白煙を吐く。
 子供という立場を、もっと振りかざして来られたら。林藤もこう上手くは逃げられなかっただろう。彼の、しっかりと確立したプライドが敗因だ。そう思うけれども、それを指摘してやることはしない。正直なところ、上手く躱すことが出来てほっとしているのだ。
 未来ある若者を。
 そんな言葉で片付けてしまえば、怒られるだろうけれど。
「おまえは、良い子だよ」
手を伸ばす。避けられない。最後だと、そう思っているのだろうか。子供扱いなら、きっと残酷な林藤はいつだってやってみせるだろうに。
「良い子だよ」
どうして自分が泣きそうになっているのか、分からなかった。これで彼の未来は開けた、それで良いのだ、言い聞かせるように頭を撫で続けた。



ヴァルキュリアの囁き
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子供じゃない、だけどおとなになんてなれない

 その瞳がいつだって、風間のことを対等に見てくれていることを知っていた。
 子供を子供扱い出来る大人だったと思う。笑わせてからかって、お菓子を与えて頭を撫でて。そういう一つひとつの行動は紛れもなく子供扱いであったし、事実そういった行動を取られる度に頬を膨らませていた。師匠である忍田から甘やかされない太刀川を見て、羨ましいなんて思ったこともあった。
 だがしかし、少し成長してみればその見方は変わる。周りに大人が多いという環境において、元々大人びていた風間の感性は急激に大人のそれへと近付いて行った。だからこそ、通常よりもはやい時点で、それに気付くことが出来たのだろう。
 ずっと、対等のものとして接せられていたことに。
 同じ年の頃、近い入隊時期、そして師匠同士がライバル関係ということもあって、風間は何かと太刀川と自分を比べることが多かった。そのこともまた、この認識のために一役買ったように思える。
 まず気付いたのは忍田についてのことだった。切欠は飴玉。沢村に貰ったそれを忍田は菓子皿へと広げただけで、何も言わずに消費し始めた。太刀川はそれが当たり前とでも言うように、そこから飴玉を取って行く。言葉は要らないのか、最初はそう思った。
「風間さん、食べないの?」
食べてもいいものかと悩んでいた風間に、太刀川が首を傾げる。
「…もらう」
特別飴玉が好きであるとか、そういうことはないが、こうも目の前で消費されていくと食べたくなるのだな、と思った。手を伸ばして一粒取り上げる。ビニールを剥いて口に含んだ粒からは、やすっぽいソーダの味がした。
 この出来事から違和感が風間の中には芽生えて、そうして回を追う毎に一つの仮説が出来ていった。仮説と言っても、風間の中では限りなく断定に近いものではあったが。
 ―――忍田は太刀川、ひいては子供を、子供扱いしないのではない。出来ないのだ。
 しかしながらそう言った性質とはうらはらに、彼は子供を守るべきものとして考えているらしい。ちぐはぐだな、と思った。子供扱いが出来ないくせをして、それを守ろう、だなんて。特別に思っているのかそうでないのか、いまいち分からなかった。そうして忍田への解釈が一通り定まると、林藤についてのことも少しずつ見えてきた。
 結論から言えば、彼は忍田とは正反対だった。
 彼は子供を子供扱いの出来る人間だった。だからこそ風間は不満に思う場面も多々あったのだが。しかし、どうやら彼は子供を守るべきものとは考えていないらしかった。
 太刀川が稽古と実戦は違うとなかなか任務に同行を許されないのに対し、林藤は隙あらば風間を連れて行っていた。そんな話を詳しくしたのはもっと後のことであるので、当時は連れて行ってもらえないと騒ぐ太刀川については、いつもの我が侭だとばかり思っていたのではあるが。
 連れて行かれた任務での立ち位置は、いつだってすぐに庇うことの出来るようなものではあったが、それは未熟さを鑑みての話であって、未来ある子供がどうの、なんていう美しい話ではない。どうやら彼は、能力のあるものが使われないのは罪、といった系統の考え方をしているようだった。これは極端な例えであるので、必ずしも彼がそういう過酷なものを強いているということではないが、彼の考えに慈悲がないという人間はいるのだろうと思う。
 例えば、先に述べた忍田であるとか。
 何度か、暗がりで煙草を交えながら何やら話しているのを見たことがある。決まって忍田の方が難しい顔をしているのに対し、林藤はへらへらと軽薄な笑みを浮かべていた。
「風間くんはまだ、子供だろう」
じっと耳をすませていると、忍田がそう呻くのが聞こえる。
「わーってるよ」
「分かってない」
「わーってるって」
「じゃあ、」
 どうして、という言葉に林藤は笑っただけだった。怯えているのか、お前らしくもない、忍田の追撃にも、ただ首を振る。風間はその先を聞きたくなくて、そっとその場から離れた。
 怯えている、なんて。あの人がそうであるはずないと、風間には分かっている。だからこそ、本人の口から決定打のようなものを聞きたくはなかった。
「………ッ」
唇を噛む。
 ―――どうせ暇だからな。待っててやるよ。
 選択肢も猶予もなにもかも与えられた状態で、それを恥も外聞もなく利用することが大人だと言うのなら。雁字搦めのプライドに赦されないでいる方がまだましだと、そんなことを思ってしまうのだ。



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くぐり抜けるドアは違っても 

 今日で最後だ、と思う。今日、名前もなかった異世界人と戦ったり交渉したりするこの組織は、界境防衛機関、ボーダーとして名を知らしめることになり、その本部を立ち入り禁止区域と定めたそのど真ん中へと移動する。
 それは城戸司令率いる一派が仕切る新体制への移行も示していた。他にも細かい派閥があるにはあるが、恐らく残るのは忍田派と林藤派―――本来ならば最上派、というべきだったのだろう。彼がいなくなってからその名は呼ばれることはなくなり、林藤が筆頭に立ちながらも派閥名にその名を冠すことはなくなっていた。故人の意志を継いだだとか、雁字搦めにされているとか。そういうことを思って欲しくないのだろうか、彼の考えることは分からない。
 「よう、蒼也」
思考を遮ったのは噂をすればなんとやらか、林藤匠その人だった。
「荷物まとめおわったの?」
「はい」
「そっか」
ならいいや、とポケットに手を入れる。目当てのもの(恐らく煙草)が見つからなかったのか、その手は何を取り出すこともなく組まれた。
「林藤さん」
「なに」
「今まで、ありがとうございました」
 新体制が始まれば風間は城戸派に属することになる。それは誰に強制されたでもない自分で決めたことだった。師弟関係のことを考えれば、別段派閥が違おうとも交流を残すことは不自然ではないと思ったが、しかし風間はそんなに器用な性格をしていなかった。そしてそれはきっと、この目の前の大人にも、今日から上層部というくくりになるであろう大人たちにも気付かれている。不器用なりに交流を残そうとすれば、派閥間のSだと思われかねない。正直それは御免被りたかった。
「いえいえ、大したことはできませんで」
笑って答えるその人に、下げていた頭を上げる。
「別に死に別れる訳じゃねーんだから、そんな死地に赴くみたいな顔はヤメロ」
「…城戸派に属するということは、そういうことでもあると、分かっていて言ってますか」
「分かってるけどさ、俺はお前がそうそう死にはしないってことも分かってるから」
 ひどい、信頼だと思った。
 死ぬなと言われるよりも、死んではいけない気持ちになる。
「狡い人ですね」
「なんとでも」
お前は似なかったな、なんてけらけら笑うその人の胸ぐらを掴んで屈ませた。掠める唇。珍しく煙草を吸っていなかったそこは、若干の苦味を呈しただけだった。
「この、続きは、」
至近距離。
「すべて、終わったあとにもらえますか?」
そう言えば呆気に取られたような顔はやっと崩れて、前言撤回、お前俺にそっくりになったな、なんて笑われた。



「慶! お前なんで煙草なんて持ってるんだ!?」
「あ、やべ。林藤さんのポケットから煙草抜いといたんだった」
「林藤の? なんでまた」
「んー…俺から友人へのささやかな後押し? そんな感じ、深い意味はないよ、忍田さん」

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「かわいい」 

 そう呟いたら何言ってんだこいつ、という白い目で見られた。
 会議室、定刻前。他の予定が押してでもいるのか、林藤と風間の他には誰もいない。元々師弟関係を結んでいただけあって、派閥が違えど仲が悪い訳ではなく、寡黙な風間の代わりに林藤がぺらぺらと喋る形になっていた。
 それを遮っての冒頭である。正直言った本人である風間からしても、少し脈絡がなさすぎたと反省せざるを得ない。
「あー…蒼也」
「はい」
「どうしたんだ」
真剣な顔をしてこちらを見遣る林藤。
「どうもこうも、ただ思っていたことがぽろっとこぼれてしまっただけで。以後気を付けます」
「いやいやいや待て待て待て」
話の続きをどうぞ、と促したというのに戻る気はないようだ。
「ぽろっとって、何。お前、いつもそんなこと考えてたりする訳?」
「しますけど」
「そうだよなーないよなーって、ええ!? あんの!?」
「はい」
何でもないという顔で頷けば、その瞳は更に見開かれた。
「そのだな、蒼也、」
「はい」
「俺はどっからどう見てもおっさんな訳だが」
「そうですね」
「だよな」
「けれどもかわいいです」
 ぽろり、とその手から煙草が落ちる。
「あー…その、あの、なんつーの…? そういうのって、女子供に言う言葉なんじゃねーかって思うんだけど」
「確かにその方が一般的かもしれませんが、やはり自分は林藤さんはかわいいと感じますので」
「ああ、そう…」
 反論が途切れたところでつかつかと近寄る。林藤は呆けた顔でそれを見ているだけだ。
「貴方の煙草が切れた時の仕草だとか、陽太郎を撫でる時の笑みだとか、俺といると饒舌になることだとか―――まぁもっとありますし、あげはじめたらキリがないんですけど、そういうところ、全部。かわいいと思います」
 ほんのりと、その頬が赤く染まって見えたのは贔屓目ではないだろう。
「林藤さん」
「な、なに」
「俺としてはもっとかわいい貴方を見たいと思うのですが―――だめですか?」
ずい、と顔を近付ける。
「も、もっと?」
「はい。もっとです」
もう少しで唇が触れ合う、そんな瞬間。
 がちゃり。会議室のドアが開いた。
「悪い、遅くなった…って、何してるんだ?」
「忍田本部長。ゴミを取っていただけですよ」
にこり、うっすらとした笑みを浮かべる風間に、忍田はそうか、と傾げていた首を戻した。忍田がいつもの席につくと、それが引き金になったように遅れてきたメンバーがどやどやと集まって来る。風間もそれに倣うように定位置について、いつもの会議が始まった。
 顔を上げて、向かいの林藤を見つめる。直ぐに見つめられていることに気付いた林藤は、ふい、と顔を逸らした。
 そんな彼の行動に、風間が思うことはもちろん一つなのである。



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アベルに罪を問う 

*風間兄×林藤前提

 こんなのは遊びにも傷の舐め合いにもならない、不毛な行為だ。人の上に勝手に乗っかって釦をぷちぷち外して行く、その指が震えていることに気付けないほど間抜けではない。大人をナメるなよ、と釦ごとその指を掴んだ。流石に動きが止まる。
「…林藤さん」
「なに」
 薄暗い瞳がこちらを見ていた。ああ似ていない、とずくり、胸の辺りが痛む。
「こんなこと、しねーでいいわ」
息を飲む音。
「どこで知ったかしれねー…って、あいつしかいねーか。…確かに、俺はあいつとそういう関係で、そりゃあお前に言えないようなこともたくさんしたけどさ、だからってあいつが死んだ今、お前が代わりになることはねーよ」
泣くかな、と思った。それはいやだな、とも。
 子供の泣き顔がとても苦手だった。言葉の通じない宇宙人でも相手にしているようで、怖かった。
 そんなことを考えていたから、ふっとつり上がった口角に驚いた。
「…代わり、ですか」
確かにそれは笑みだった。
「まぁ、間違いではありませんが」
ひく、と震えて吐き出す言葉には、棘を必死ではえさせているように見えた。
「貴方は、考えないのですか」
何を、とは問わない。ただ、目線でもってのみ返す。それを問いだと受け取ったのか、また唇が開かれる。
「俺が、兄を見捨てた、とか」
瞬きの瞬間、閉じられた瞼の裏側で眼球の上を涙が滑って行く、そんな音まで聞こえたような気がした。
「俺は貴方が好きで、けれども貴方には兄がいて。あの瞬間、絶好のチャンスが来たと思った。その結果うまく行った、だとか。考えないんですか」
「蒼也」
「はい」
指の力はそこそこに保ったまま。きっと振り払おうと思えば振り払える、こちらの望むままに止められていようとするこれは、懺悔なのか。
「…つまんない嘘に騙されるかよ。大人、ナメんなよ」
そう言った自分がどういう顔をしていたのかは分からない。
 空いていた方の手が顔の横へとつけられる。
「そちらこそ、」
低い声は甘やかで、神経に直接干渉されたようなそんな気分になった。
「こども、ナメないでくださいね?」
 落とされた接吻けは、ひどく乱暴なくせして涙の味がしていた。



蝋梅
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約束をちょうだい 

*師弟関係捏造

 遠征の日程が組まれると、ふらり、訪れる場所がある。
 かたん、と音をさせれば書類を熱心に眺めていた顔があがった。
「…蒼也、何で毎回お前は窓から入って来んの」
「そんな説明、今更させないでください」
林藤以外には誰もいないその執務室に、風間は足を踏み入れた。元々は師匠と弟子の関係であったとは言え、今や属する派閥が違うのだからこうして慎重になるのも仕方ない。別に勘繰られることはないとは思うので、けじめだとかそういうものの割合の方が多くはあるが。A級一位があんななのである、せめて自分は、と思うのも仕様のないことであると理解してもらいたい。
「そーじゃなくてさ。もっとお前なら、玉狛に来る用事くらいでっち上げられそうなモンなのに」
「それではゆっくり出来ないでしょう」
 用事をでっち上げることは、確かに可能だ。事務方にも顔は利く。だがしかしそうなれば玉狛の玄関から正々堂々入って来ることになり、風間の姿が誰かに目撃される可能性が高まる。そうなってしまえば、迅や迅や迅や迅や迅や小南などの邪魔が入らないとは限らない。木崎や烏丸などは気を使ってくれるし、宇佐美も一言誂いを投げてくるだけだろうが、後者は兎も角、前者はだめだ。完全にこちらの要件を分かっていて邪魔してくるに違いない。あのにたにたと、人をおちょくる笑みを浮かべながら。小南に関しては完全なる天然であり、兄を慕うような気持ちを風間に持ってくれているのも分かるため、そういう点では無害なのだがやはり二人きりになりたい時ともある訳で。
 そういう訳で風間は、窓から入ってくるのをやめるつもりはない。
「はは、そうだよな」
笑った林藤の背後に回る。
「林藤さん」
「今度の遠征?」
「はい」
「お前も気付いたら上に来てたよなあ」
「努力しましたし、良い部下に恵まれましたから」
「そこで部下と自分と両方誇れるってのはすげーことだと思うよ」
書類を片付ける林藤の首に手を回す。後ろから、抱き締める形。それを当たり前だと言うかのように、林藤は肩口に埋(うず)められた風間の頭を撫ぜた。
「今度は、何がいーわけ」
「駅前のスイーツバイキング」
「…新しくオープンしたとこ?」
「そうです」
「まじで?」
「まじです」
「あすこなんつーかメルヘンじゃん。いい年した男が二人連れ立ってってのはちょっと」
「だめですか」
ぐり、と額をこすりつける。
「だめ、ですか」
もう一度呟くと、ため息が吐かれた。
「…おまえさぁ」
「はい」
「そう言えば良いと思ってんだろ」
「否定はしませんが、林藤さんと行きたいと思ったのは事実ですから」
「おまえさぁ…」
 もう一度、ため息。
「わかったよ。駅前のスイーツバイキングな。奢ってやるから元取れよ」
「任せて下さい。全種類撃破しましょう」
「おうおう応援してっぞ」
いつ、と言わないのが約束の基本だ。また空いている日を事務室で確認して、それから連絡をすれば良い。すべては遠征が終わったあとに。
 死ぬなとその一言すら、帰って来いと背中を叩くことすら、出来ないこの人のための。
 安心を齎すクスリになれば良い。



指切り
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***

「ほしい。」 

 もう正直に言ったらどうですか、と詰め寄ってくるのを見ているとどちらが年上なのか分かったもんじゃない。どうしてこいつはこうも真っ直ぐに生きられるのだろう。林藤には不思議だった。どうしても、林藤には出来ない生き方。ひねくれている、そう言うのは簡単だけれども。
「林藤さん」
苛立ったような声がする。それでもささくれだっていない、やさしいもの。
「言ってください」
じゃないとずっとこのままです、と言うのは教え込んだ駆け引きの応用か。
 鼻と鼻がくっつきそうなほど、近い距離で。
 ああ、風間蒼也が存在している。
「………お前が、」
口を開く。重い言葉だ、何を選べば良いのだろう。
 けれどもやっと口を開いた、その動作だけで、こんなにも彼は笑顔を見せるのだから。その先は思うよりもすんなりと、転がり落ちるのだった。



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(おまえのこれからとかぜんぶ、おっさんにくれよ)

***

あそばれていたのはどっち? 

*師弟捏造

 すきですよ、と酒に潤んだ瞳にぐらり、と来たのが林藤匠の、人間としてどうかと思うトップスリーに入る出来事だったと思う。あまりにもぐらりと来たので悔しくて、いつもの口調で今夜、どう? なんて聞いてみて。それで乗ってきたら笑うつもりだった、お前になんてキョーミねえよ、とさっきの血迷いごと振り払ってやるつもりだった。
 なのに、いいんですか嬉しいです、とくたり、と寄りかかってくるものだから笑い飛ばすタイミングを見失って。
「…俺、林藤さんにいろいろしたいんですけど、それでも、いいですか?」
子供のように首を傾げる彼を直視など出来なくなって。
 気付いたら、押し倒されていた、なんて。
 個室の居酒屋だ。オーダーもさっき全部届いてしまって、しばらく店員は様子すら見に来ないだろう。
―――りんどうさん、
熱い息が耳に掛かる。これは、これ、は。
 まず、い。
 そう思った瞬間、ぷっと吹き出す声が聞こえた。
「そ、そんなに、俺、本気に見えましたか」
先ほどまでの色気は何処へやら、風間は林藤の上で腹を抱えて笑っている。
「………演技?」
「はい」
「………っはー…」
めちゃくちゃ心臓に悪かった、と言えばそうですか、と満足気な顔。でもまだ風間は林藤の上を退かない。
「くらっとしました?」
「はいはいしたした」
「わりとちょろいですね」
「師匠に向かってちょろいとか言うな」
そしてどけ、というともったいない、と返って来る言葉。
 意味が分からずに首を傾げると、風間はまた笑う。
「あれは演技でしたけど、嘘は言ってないってことですよ」
じゃ、ちょっとトイレ行ってきます、と立ち上がった風間を見送る。
 何が本当なのか、見抜くのは得意だったはずなのに。
 風間の本心が全く読めなくて、林藤はただ頭を抱えた。



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(わっかんねー! 俺の弟子こわい!!)

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ふざけるのもいい加減にしろ! 


 蒼也、と呼ばれる。
「ちょっとこっち来てみ」
「何ですか」
「いいから」
そう言われては行くしかない。
「何ですか、くだらないことだったら―――」
 ちゅ。
 言葉は可愛らしいリップ音に遮られた。
「な………」
言葉を失う。
「頬は親愛、ってなー。まあ、これからもよろしくってことだ。じゃ、それだけだから」
 手を振って立ち去ろうとする背中に、風間渾身のドロップキックが炸裂するまであと五秒。



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風間さんに林藤さんがふざけて頬に親愛、厚意、満足感のキスをするところ

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カウントダウン 

 何もしなければきっと、幸せだった。それが分かっていたのにどうしてこうなってしまったのだろう、と風間は思う。
 自分の下には一回りも年上の人間がいて、風間が彼を押し倒しているのが分かる。退かなくては、そう思うのに身体が言うことを聞かない。
 身体能力ではもうずっと前から、風間の方が上だった。はやくこうしてしまえば良かったのだ―――そう思う頭を振る。
「………蒼也」
さぞかし怒っているだろうな、と思った顔は予想に反して普通≠ノ見えた。
「痛えだろ…離せよ」
そうしてふい、と逸らされる。
 あれ、と思った。
「すみません、林藤さん」
「悪いと思ってるなら、」
「悪いとは思ってるんですが、」
息を吸う。
「キスをしても良いですか」
否定は返ってこなかった。淡い期待が生まれる。
「あと十秒待ちますから嫌だったらそれまでに拒否してください、それ以降はちょっと無理です。じゅう―――」
 一生で一番長いだろう十秒だった。



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林藤さんが風間さんが無理やり押し倒されたときの反応は→「痛いよ…離して…」と目をそらす

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20140606
20140614
20140626
20150807