プラトニック・エイジ 

 ごろん、と人の膝に勝手に入り込むように頭を転がしてくるその様を猫のようだと思うけれど、きっとこんな姿を誰にも晒していないんだろうと思うとどうしようもない感慨に襲われる。そんなつもりじゃあなかったんだけどな、というのは言い訳にしかならないけれど。キスしてくれませんか、といつもの生真面目な顔で言うものだから、いや、そういうのは、と言葉がこもる。長いことそれを言ってきてしまったものだから、言い訳として使ってきてしまったものだから、今更違う言葉が出ていかない。風間もそれを分かっているらしく、年相応に少しだけその眦に怒りめいたものを浮かべる。
「オレはもう大人なんですが」
「分かってるよ」
分かってはいるんだよ、と重ねたのは、分かっていないと言われるのが分かっていたからだった。実際風間からはきっと、分かっていないように見えることだろうし。まったく、と呟く。
「他所の子は成長が早くてやんなるね」
「他所の子」
「うん」
「子のままなんじゃないですか」
「そうじゃねえけど、まあ、そう聞こえるよな」
 伸ばした手で前髪を撫で付けてやって、何で、という疑問は飲み込んで。
「俺だって、なんも考えてなかった訳じゃないのよ」
でも、やっぱその時になってみると身動き取れなくなる訳よ、と言ってみたら、あんまり焦らすと強硬手段に出ますからね、と脅された。



白紙に恋 @fwrBOT

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「愛してる」なんて言って、本当は自分が愛されたいだけなんだろ 

 こんなのはよく言っても憎悪か執着、悪く言っても依存にしかならないとずっとそう思っていたし、そうであって欲しいと願ってきた。風間蒼也が林藤匠と縁を切らずにいるのは兄のこと、組織のこと、その他諸々含めてもまあ打算打算であって林藤匠自身について何かあるとかそういうものはないのだと思っていた。否、願っていたのと同じように信じていたかった。風間蒼也は林藤匠自身に思うことがある訳ではなく、他の外的要因にどうしたってついて回るので思考に入れなくてはいけないものなのだと、言い方は悪いが林藤匠ではなくて誰でも良かったのだと、そう、信じていたかったのだ。
 だから。
 そういう嘘は大事な時にとっとくもんだよ、なんて軽口すら言えなかった。言えなくて、結局のところ自分がそれを正しく判断してしまっていることを知ってしまって、ああこれ俺、一体何人に怒られるんだろうな、いや人の恋路とかに首突っ込むやつは全員馬に蹴られろと言うけれど、これを恋路ってちゃんと判断するやつが一体何人いるって言うんだ、と思考を他所へとやっている間にも風間は言葉を重ねる。別に今すぐ信じてもらえるとは思っていないだとか、でもそろそろ動きたくなかった、だとか。もうなんか林藤には全然理解の出来ない原理のような気がして頭を抱えたかった。抱えてため息をついてそれらしいことを言ってやりたかった。でも出来ない。それが出来るなら、多分風間が行動を起こす前に何かやれていたはずだった。
「頼むから嘘で良いからそう言ってくれよ、若人」
 ため息は形にならず、そのまま夜に融けていく。



海を彷徨う人魚の嘆き @sirena_tear

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さよならの選択肢を殺せ R18

 誰も来ないからと言っても此処は本部の部屋であるし鍵を閉めたからと言って絶対に開かないなんてことはない。それを知りながらその人の上に陣取って好き勝手する風間は多分狡いのだけれど、それを言うのであればあれこれ策はなくはないはずなのに抵抗らしい抵抗をしないままワイシャツをめくりあげられその素肌を晒している林藤にだって非はあるだろうと完全なる悪役の台詞だって吐けてしまう。吐いたら吐いたで恐らく文句は返ってくるだろうが、やっぱりきっと抵抗は返ってこないのだろうな、と行為を進める。この先に何が待っているのか分からないほど箱入りではないだろうに、何、やら待って、やらと言うだけでその掌に力はこもらない。
「そ、うや」
眼鏡を外された林藤は少し、心許ない様子で風間を呼ぶ。その声が熱に熟れているのはそれだけではないことも知っているけれど。どうにかなるものなんだな、と思いながら作業にならないようにとだけ心掛けて動く。風間が動けば林藤も声を上げる、それが今はとても、心地が好い。
 縋り付くような掌が風間の服を掴んで、それから息の間に言葉を零す。
「今ならまだ引き返せる」
―――何もなかったことにしてやる。
それはそう言ったのと同義だった。それでは困るのだと、風間が思っていることだって分かっているだろうに。これではお前が選べと言ったも同然であることを分かっているだろうに、いつもの狡賢い男は何処へやら、眉根がほとほと困った様子に下げられて、まるでこどものよう。
 引き返しなどしませんよ、と言うのは簡単だった、だから他の言葉を選ぶ。ぐち、と音をさせているのはそういうための器官ではない。それを林藤だって分かっていて、それでも尚、こんな馬鹿なことを言う。ならば風間も馬鹿になった方がきっとましなのだ。
「真っ赤ですね」
焦らしに焦らしを重ねた乳首は、そっと触れるだけで林藤に精神的苦痛を与えるだけのものに成り下がっている。指先にそう力を込めずともびりびりと性感が走るのだろう、耐えるように顔が逸らされた。それが風間には気に食わない。
 頬を掴んで、無理にでも首を此方へと向ける。
「オレの顔、ちゃんとみてください」
「そうや、」
「ちゃんと、見てください」
「首、くびしまるから、痛い」
「見てくれますか?」
「見るから、おまえ、」
何処でそういうの覚えて来たの、なんて。
 今までまったくもって風間のことなんか見ていなかったと白状したも同然だった。
「…貴方のことが嫌いです」
「うん」
「貴方は、すぐにオレから目を逸らすから」
「うん」
「オレはそうはして欲しくなかった」
「それは、うん、ごめん」
言葉が足りなかったな、と言われても、結局過去は戻って来ないのだ。
 上体を起こしたままの風間と、床に転がされた林藤では、どうしても見上げられる形になる。その目には未だ涙の膜が張っていて、けれどもそれはこぼれることはしなくて。
「貴方の、」
嗚呼、それが、本当に、
「涙を溜めても決して流さないところが嫌いです」
憎らしい。
 改めて接吻けを落とす。その間に体勢を整える。熱いのはもう分かりきっている。怯えたように身動がれるのも、計算のうちだ。
「初めてですよね」
「そうや、」
「答えてください」
「こんなことが、あってたまるかよ…」
忙しいおじさんなんだよこっちは、とまた顔が逸らされたので首に触れる。すると今度は何を与えなくてもこちらを向いた。躾、ではなかったけれども、分かってくれている。非言語コミュニケーションが、初めて風間と林藤の間に落ちてくる。
「なんで、」
「好きだからです」
 初めて言ったな、と思った。今まで言う機会がなかったと言えばそうだけれども、初耳のはずなのに、林藤は大した驚きを見せてはくれない。
「林藤さんこそ、なんで」
此処で聞くのは狡いとは思ったけれども、この狡さも林藤から教わったものだから。
「抵抗しないんですか」
 声が、落ちる。
 どうして、どうして、どうして。聞きたいのは林藤の方だろうに、風間だって、分からない部分をずっと、抱えて。腕が伸ばされる。顔見えねえよ、誰かが眼鏡とったから、と文句を言われる。
「…お前だからだよ」
告白からやってくれたら良かったのによ、なんて余裕を見せたものだから、貴方そんなことしたら逃げるじゃないですか、と言ってからその余裕を根こそぎ奪うことにした。



真っ赤になった胸の突起を撫でると涙を溜めた瞳で見上げられ加虐心を煽られる。林藤さんの排泄にしか使わない孔に熱い雄を宛がうと一気に貫く。林藤さんはイイ声で啼いた。
https://shindanmaker.com/300744

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なんてことない日常 

 同じ組織に属しているのだから顔を合わせることはそう珍しくはないし、派閥どうこうというのはランクが上がれば上がるほど理解せざるを得ないものになっていったけれども、やはり兄のことをよく知るその人とずっと関わり合いにならないなど出来るはずがなく。負い目もあったのか無理に絡んでくることはなかったし、最初の頃は距離を測りかねていたようだったけれども一度もなかをお土産に持ち込んで膝を詰めて話をしてからは、互いに菓子を差し入れするくらいに仲にはなっていた。勿論、それは派閥関係のことを鑑みて、ひと目を気にしたものにはなっていたけれども。
 風間と林藤のこの遣り取りのことを、知っているのはそれこそ両の指で数え切れる程度なのだろうと思う。派閥間の対立等もなくはないうえに林藤があのへらへらとした態度であるので、特に風間なんかは水と油と思われているのだろうということは知っていたが、特別訂正することはない。同じ組織に属して同じものを守っている中で、決裂していると思われない程度で良かった、と思っていた。本当のことをべらべら喋るのは得策ではない、とも。情報にはどれほどの値がつくのか風間はよく知っていたし、まあ、此処にあるパイプがどの程度の価値になるのか、風間にはとんと検討もつかないのであったが。
 とは言っても風間さん避けてるよね? というのは迅の言葉だけれども、そして恐らく迅は気付いていてものを言っているのだろうけれど、今のところ迅がどちらかに肩入れしているということはなさそうなので風間はその言葉を黙殺した。迅は迅で風間さんがそういう態度取るならそれでも良いけど、と言ってそれ以上はなかった。木崎辺りも一枚噛んでそうだが、人の事情に首を突っ込んでくるほど面倒なやつらではないことを風間はよく知っている。

 というのを前提として、風間は目の前でポケットをひっくり返して何かを探している林藤をじっと見ていた。
「あの、」
「待って、待てって」
林藤が何か菓子を探しているのは一目瞭然であったが、別にひと目のない場所で会ったからと言って菓子を交換しなければならない決まりはない。風間だって、今は何も持っていない訳だし。
 まるで年中ハロウィンのようだ、とぼんやり思ったのはかぼちゃに浮かれる同級生を此処に来るまでに見たからかもしれなかった。別に、何も渡さなかったからと言って悪戯をされる訳でも、何が変わる訳でもないのに。
「あった!」
なのに、林藤はまるでこどものように笑うから。
 ほい、と手渡されたのは見知った四角い菓子だった。
「何ですかこれ」
「何って、見ての通りチロル」
「チロル…」
「あれ、チョコ嫌いだったっけ」
「いえ別に」
「何だよお、もっと高いのが良いなら今度買ってくるけど」
「別にそういうのは良いです。差し入れをして欲しい訳じゃないので」
「とか言ってお前、律儀に返しに来るじゃん」
「そもそもこれ、いつのですか」
「先週…とか? でもほら、換装体で保管してたから大丈夫なはず。溶けてないだろ?」
「溶けてはいませんが」
べりべりと包み紙を剥いて、それから口に放り込む。甘い。特別でも何でもない味。
「蒼也」
 その甘味を甘受していると、上から声が降ってくる。そして。
「おつかれ。あんま無理すんなよ」
ぽん、と頭の上に感触。それから背中と肩に軽い圧迫。
「―――」
いつも、ではない。時々。でも今やるとは思わなかった。
「…林藤支部長」
「じゃあ、俺は会議あるからもう行くわ」
だからきっと、これは予測出来なかった風間が悪い。
 何事もなかったかのようにさっさと立ち去るその背中を見つめることも出来ないで、風間は口の中でチョコレートを転がす。甘い。
「だから貴方のことがきらいなんだ」
 言葉にならなかったものが、チョコレートと溶け合って消えていった。



ふと思い立ったので抱きしめに来ましたこれお土産のもなかです / 卵塔

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君になら殺されたって いいかな なんて思ったりしているよ 

 何だってしてやれると思っていた。だけれどもこれは予想外だ。腹に縋り付かれたままで林藤はそう思う。だって、林藤はずっとこの少年―――いやもう青年であったか―――に殺されるのだと思って今まで生きてきたのだから。
「なあ、ほんとに俺のこと殺さなくていいの」
 だと言うのにこの青年は何をトチ狂ったのか、それとも狂えなかったのか、そんなことはしたくないと言う。
「殺さないのでその代わりにちゃんとオレの目の届くところで死んでください。死体を残してください。前衛アートな墓をたててやります」
矢継ぎ早な言葉をどういう顔で言っているのかは分からなかった。だから林藤は小さく言う。素直に言う。
 「最後のは勘弁して?」



芥生 @WMWM0043

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どうか私のかえるばしょ 


 玉狛来たら、というのは言われたことがなかった。無理だろうと思われていたのかもしれない、と思うと腹が立つし、兄の死んだ場所として色濃く残った信念を弟には継いでもらいたくなかったのかもしれない、と思うとやるせなさが先立った。
―――ああ、風間の。
あの瞬間ほど人を殺したいと思ったことはないように思う。
 こちらに攻めて来た近界民を、国を、恨めども、この先こちらの世界を攻撃しようと企むすべてを恨めども、兄のしたことは間違いではないし、兄の死を悼むことはあれど間違いだったなどと言われるのは違うのだ(実際には言われていないし思っていないかもしれないが、その時風間はそんなことを思ったので)。
 子供の、八つ当たりだった。
 兄の遺した場所に足を踏み入れることを許されない、そんな心地にさせられた。
 あの人が兄を大事にしていたことは分かっていた。兄は何度も何度も、そういう話をしてくれたから。兄の中で美化されていたはずのその人は風間がやっとのことで目の前にしてみれば、抜け殻を隠すように笑ってみせるから。
―――お前の話は聞いてたよ。
―――お前はきっと、良いボーダー隊員になれる。
それは玉狛の、旧ボーダーの、兄の思想には殉じられないということで。
 殉じるつもりは勿論なかったし、風間蒼也はどう足掻いてもボーダー隊員なのだったが、それでも誰かから先んじて道を引かれることは、また、違うのだ。



ホテルのバーはあたたかく
それだけであたしは
泣きだしたくなりました
安心しそうになりました

江國香識「すみれの花の砂糖づけ」

***

最低最悪なパターン 

 事故だった。それは誰も否定しないだろう。押し倒す形になってしまう事故だなんてああ、今時少女漫画でも流行らないかもしれない、なんてうすらぼんやりしたことを思いながら、上手に受け身を取ったその人に、やはり戦う人なのだな、なんて当たり前のことを思った。
「蒼也?」
どっか打った? と他人事のように、事実他人事なのだろうが聞いてくるその人が、それでも老いというものを内包していることがよく分かってしまって、ああ、と思った。
 今まで時折顔を出していた違和感はこれだったのだ。悲しくて、寂しくて、なのに分け合うこともしてくれないで。嫉妬。あり得ないと思っていた感情が去来しては消えていく。
「…林藤さん」
「何」
「俺は、貴方のことが、」
 好きです、というのは言葉に出来なかった。
 押し付けるようにした、子供のような接吻けは避けられないで、結局、そのまま。



君にふれた蒼 @kimiaobot

***

 愛していました。

「君がくれたものを何ひとつ、僕はいかせなかった」(君が預けた命さえも、僕は) 

*死ネタ

 そう風間が通信で残した時、林藤はとっさに嘘だと思った。思ったのに言えなかったのは、それが風間のさいごの言葉だと思っていたからだった。
「これは呪いです」
通信の向こうの顔は見えない。
「だから、ずっと抱えていてください」
「…おうよ」
「そこは嫌だって言ってくれて良いんですよ」
そういうところが嫌いなんです、なんて。
 ああ、今まで聞いたどんな言葉よりもそれが美しく聞こえてしまうから。



一人遊び。
http://wordgame.ame-zaiku.com/

***

海より深く、罪より遠い 

 実はお前って人魚なんだよね、と唐突に林藤が言い始めたものだから風間はまたこの大人は、と思い切り眉間に皺を寄せる羽目になった。
「あ、信じてねえだろ。ほんとなんだって」
いつもと同じ表情で笑うその人の言葉を片端から信じていったらこの身がいくらあっても足りないだろう。そんな風間の考えを読んだはずなのに、大人とも思えない発言をどうやらその人は続けるらしかった。
「蒼也、お前人魚姫って話知ってる?」
「………ハンス・クリスチャン・アンデルセンのなら」
「そこでアニメーションの方出してこないとこ、お前らしいよね」
何処への配慮? と聞かれても風間は別に配慮をしたつもりはない。
「まあお前も知ってると思うけどさ、アンデルセンは最後に人魚姫は風の精になってそのうち天の国へ行けるよっていう、まあ俺から見たらハッピーエンド気味にしめてるんだけどさ。お前はそうじゃないんだよね」
「どうあがいても天国には行けないということですか。まあ別に、行けないとは思っていましたけど。行きたいとも思っていませんが」
「あれ、そうなの? 結構うちの地元信仰だと天国的な存在は言われてるじゃん。昔は神社なのに天国って言うんだ、って思ってたけど」
「剣の都のことですよね。あれ、どうせ近界のことなんでしょう」
「多分ね。少なくとも今のボーダーではそう思われてるよ」
「林藤さんでも本当のことは知らないんですか」
「だって俺が生まれるずっと前からある話だし」
流石に証拠も何も残ってないし。
 実際は昔、それこそまだ異界交流なんてものが真面に出来ていた頃は、それなりにルーツを探ろうなんてことをしていたのだ。今はそんな余裕がなくなってしまっただけで。
「俺は所謂魔女ってやつでさあ、まあ魔女って一人じゃねえんだけど」
「何となく読めました」
「まあそう言わずに聞いてけって」
「今日鍋なんでさっさと帰りたいんですけど。寒いですし」
「えっ鍋なの」
「やめる気になりましたか」
「全然」
そんな林藤にため息を吐きつつ、風間は腰を上げる素振りも見せなかった。良い子だ、と林藤は思う。思うだけで決して口にはしないけれど。
「俺たち魔女はね、人間界で生きていけそうな人魚を見つけて呪いをかけて、それで仲間だよって言うんだよ。お前も実は魔女だったんだよ、ってね。人魚だった頃の記憶は消して、最初からそうだったんだよ、思い出してもそっちが夢だったんだよ、ってね」
「はあ」
 風間はもう気付いているだろう。これはただ、現実をなぞっただけの物語。何でもない、大したことのない暇潰し。白菜が安く手に入ったし豚肉もあるし、ミルフィーユ鍋にでもしようと、そういうこれからのことの方がずっと大事に違いない。林藤だってそう思う。
「で? 魔女の林藤さんはそれを俺に伝えてどうしたいんですか。俺を呪ったのは貴方じゃないでしょう」
寧ろ、避けようとしていたはずだ、と風間の指摘は正しい。正しくて、正しくて、泣きたくなる。
 うん、と頷いてから、林藤はでも、と続けた。
「風間は俺に呪われて死んだんだよ」
「…林藤さんは実は被虐趣味なんですか?」
「まさかあ」
「じゃあ馬鹿なんですね」
「お前、一応俺支部長よ? 玉狛支部長よ? 偉いんだよ」
「そもそも、こんな近界民がいるだとかトリガーだとか、そういう方がずっと物語みたいじゃないですか」
「あっ、無視…」
風間が立ち上がったので林藤も後を追う。建物の外に出れば雪が舞う街、いかにもな冬だ。
「鍋ですよ」
「うん」
「食べに来るでしょう」
「豚バラ差し入れるよ」
「林藤さん、俺は貴方の、」
トリオン体で来れば良かった。そんなことを思っていると風間が振り返る。息が白い。生身。
「許してくれとも言わないくせに自爆に巻き込もうとする、そういうところが嫌いです」
それに林藤が返す言葉は一つだけだ。
 「知ってる」



Cock Ro:bin @CockRobin_bot

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窒息するほどの嫌い 

 貴方のことなんて嫌いです、と何度言われたことか。いちいち数えてなんかいない。いないけれど、大抵その表情はいつだって同じで、言われる度に林藤はああ、なんて思うのだ。
「なあ蒼也」
気付いてる? と笑う。
「お前が俺に嫌いって言う時、スゲー顔してるんだぜ?」
 そう言ったら胸ぐらを掴まれて、そのまま噛み付くようなキスをされたのは、また別の話。



飴玉 @odai_amedamabot

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20190806