貴方だけのティルナノーグ 

 「城戸さんはさ、オレと出会ったこと後悔なんかしてないしどっちかっていうと結構感謝してるんじゃないの? 結構っていうか、めちゃくちゃ? オレって大分城戸さんに貢献してきたもんね? ボーダーってより、城戸さんにさ。恩を売っておいたんだよ、城戸さんは気付いてなかったかもだけど…っていや、そんなことないよね。だって城戸さんは賢いんだもの。だからオレが恩を売ってるって知っててオレに貸しを作ったんだよ。うん。つまりそれくらいしてもいいやってくらいにはオレは役に立ってたし、そこそこ甘やかしてもらったんだと思うんだよね。玉狛残すって言った時も、あれってさ、オレの考えっていうよりかは城戸さんの願いだったじゃん。お前しか残れる奴いないだろみたいな空気でさ、いや玉狛が嫌な訳じゃないしオレには此処があってると思うけど、オレ主体っていうよりは城戸さん主体だったよねっていう話。だからねえ、ええと、つまりさあ、」
「林藤」
静かな声が呼ぶ。
「お前は呪いを掛けたいのか愛を囁きたいのかどっちだ」
「………前者に決まってんでしょ」



人間は人生の必要な時期に、必要な人間としか出会わないし、そこで色々と学び尽くして一緒にいることの意味がなくなれば遠ざかっていくのは仕方ない。

島本理生 / クローバー

***

わたしはあなたの心臓 

 記憶は薄れるというが、林藤匠にとってのそれはあまりに鮮烈だった。深い森の中、何処からか鳥の声がする。幼い林藤はそれを聞いていた。鳥を追うのが好きだった。何処にいるんだろう、そう追いかけて、木の枝に影を見つけて満足する。そういうことを繰り返していた。
 特別可愛らしい子供だった訳ではない。そうであればきっと、周りの大人はもっと注意を促してくれただろうから。きっと見られていたのだろう、深く、深く。森に入ったその日、知らない大人が後ろから付いてきてやけに馴れ馴れしく笑いかけた。その瞬間に林藤の警戒心はキュピーンと作動を始めたのだけれども既に遅く、一歩一歩と距離を詰めてくる大人に悲鳴を上げることさえも出来ないで、嫌な汗が、どっと。
「何をしているんですか」
大人の後ろから掛かった声を、林藤は知らなかった。知らなかったけれどもきっとこの大人よりはマシだと思って走る。
 大人と、あとから出現したその人は何やら話をしているようだった。何か御用であれば私が聞きましょう、この子ではきっと分からないでしょうから。落とし物ですか? それとも迷いました? 帰り方は分かりますか? ああ、なら良かった。この森は昔から神隠しなんてものが多いものですから。よく行方不明者が出るんですよね。その間林藤はじっと地面を睨み付けていた。
「…行ったぞ」
そんなだったものだから、そう声を掛けられて初めて、あの大人が姿を消したことに気付いた。
「…何か、されたのか?」
「ううん、まだ、大丈夫だった」
「まだ、か。もっと早く気付けば良かった」
「何にも起こってないのに気付くとか、無理だよ」
「それも、そうか」
 少し、沈黙が流れる。
「名前、聞いても良い?」
「城戸、正宗」
「城戸さん」
「ああ」
「オレは林藤匠」
城戸は子供が苦手なようだった。何処か困ったような表情をしている。嘘じゃない、となんとなく思った。さっきの大人もそういえば困ったようなことを言っていたし、困ったような表情をしていたが、それは完全に嘘だと分かっていた。小学二年生の林藤でも分かるくらいに、あの大人はがっついていた。何に、か、なんて、分かりたくもなかったけれど。
「城戸さんも、さっきの人が考えてたようなこと、オレにする?」
 見上げる角度はまだ有効かどうか、そもそもこの人にそういう類のものは効くのか、いろいろ思うことはあるけれど。
「…さっきの人が考えていたことが分かるのか?」
「ううん、でも悪いことでしょう」
わるいこと、わるいこと、学校では悪い人は悪い顔をしているんだと言っていた。みんな嘘吐きだ、と思う。
「でも変なの、城戸さんなら大丈夫かなあ、なんて思っちゃう」
「それは、多分怖かったからいろいろ麻痺しているんだ」
「麻痺してるの」
「そう思う」
「そっかあ、オレやっぱ今、変なんだあ」
ねえ、だっこして。
 林藤の声が思っていたよりも緊張していたからか、城戸は林藤の望むままにしてくれた。あまり身体が大きくなくて良かったな、と思う。大きかったら、城戸さんは林藤を抱き上げてくれなかったかもしれない。嬉しくなってその胸に耳を当てると、熱いくらいにどくどくと音がしていた。
 林藤を助けてくれた城戸もまた、林藤と同じようにどくどくと緊張した音をさせていた。
「心臓が一緒になったみたいだね」
林藤が言うのに、城戸は答える代わりに頭を撫でてくれた。

 遠い、秋のことだった。



あなたのほほに ほほをよせて あなたの冷たさを感じた このままが もうずっと続いている 秋の霧の朝のように 返事はまだない
銀色夏生「霧の朝」

***

煙草とカカオは違うんですけど 

 林藤支部長、と呼び止められたのは会議が終わった後のことだった。残りたまえ、とあまりに普段通りに言うのでまた提出書類について怒られるのかと思ったけれども最近怒られそうな書類を出した覚えはない。何がまずかったのだろうと素直に残ると、他の面々はさっさと退出していった。林藤が書類のことで怒られるのは初めてではないので、まあ慣れたのだろう。
「えっと、一応俺も用事があるので手っ取り早く済ませて欲しいです」
「用事と言うのは」
「玉狛でバレンタインパーティ。みんなでチョコケーキ作ってるはずだから、俺はちょっと良い紅茶買って帰る予定」
「分かった。手短に済まそう」
 そして城戸は滑らかに繋げる。
「口を開け」
「………はい?」
「手短にと言っただろう、口を開け」
「いやいやいや何で」
「此処にチョコレートがある」
「何で」
「今日はバレンタインだとお前はさっき言っただろう」
「え、何、くれるの」
「そのつもりだが」
「誰かに貰ったとかじゃあ、なくて?」
「お前用に買ってきた。ラッピングなどはないが」
「いやあ…充分ですよ…」
あの城戸正宗が! コンビニだろうがチョコレートを買ってきたなど! その事実だけでとんでもないものであるし、何かもう、林藤としては充分だ。これ以上を求めるのは間違っている、神様というやつがいるのなら怒られる。
 正体がチョコレートだと分かったので素直に口を開けると、放り込まれる欠片。
「………苦い」
咀嚼するより先に感想を言うと、当たり前だとパッケージを見せられた。カカオがやけに目につく黒いパッケージだった。何パーセントかというところからは目を反らした。
「城戸さん、知ってると思うけど俺甘党だよ?」
「知っている」
「なのになんでこれ…せっかくバレンタインなのに…」
吐き出すような真似はしない。だってこれは本当にすごいことなので。もしかしたら夢かもしれないくらいにはすごいことなのだ。吐き出せる訳がない。なので気合いで飲み込む。口の中がやたら苦い。めちゃくちゃ苦い。大事なことなので二回言いました。
「それは、」
 城戸が一瞬黙ってから一口自分も欠片を含む。
「お前の味だ」
一瞬何を言われたのか分からなくて、けれども一瞬後にはばっちり分かって、やっぱりこれは夢か何か、デフォルメ化された聖ウァレンティヌスとかが見せてくれた幻かと思ったけれども、やっぱり口の中の苦さは健在で、それが現実であることをこれ以上なく林藤に教えてくれるのだった。



バレンタイン

***

涙の味を知っていますか 

 ねえ城戸さん、涙ってしょっぱいんだよ。
 そんなことを言ったのはいつのことだっただろうか。忍田にぼこぼこにされて大泣きしていた頃だから小学校低学年の頃だった気がする。その頃からの付き合いになると考えると、やっぱりこの人とは切っても切れない関係なのだろうなあ、とも思う。忍田のことは除外した。だってあいついじめっこだったし。本人に自覚がないから余計質が悪いタイプの。
「そうなのか?」
あの時城戸さんはそう言った。知っていたはずなのに、まるで知らないという顔をしてそう聞いてきて、俺がえっと顔を上げた瞬間頭を撫でて笑い飛ばしてくれたっけ。
「ねえ城戸さん」
「なんだ」
「涙ってしょっぱいんだよ」
「知ってる」
「ほんとに?」
「ああ」
「じゃあ、確かめてみてよ」
 誰も泣いていないはずなのに、俺はそんなことを言って城戸さんを困らせる。



近過ぎて見失うなら遠くから触れずに想う つよがりだけど / 河蔦レイ

***

君が眠っている間だけ、僕は愛を囁ける 

 臆病だ、と言われても言い返せないな、と思うがそもそもこの気持ちを知っている人は数年前に死んでしまったので結局誰もそんなことは言わないのだよなあ、とも思う。彼が朗らかに笑う場面を、その人が死んでから見なくなった。別に、その人の死だけが関係しているわけでもないけれど、付き合いの長さからやっぱり特別だったんだろうな、と少し嫉妬する。もしも死んだのが自分だったら、彼はここまで悲しんでくれただろうか。そんな、不謹慎な考え。
「城戸さん」
笑う。
 すきだよ、なんて。彼の理想を守れなかった林藤に言う資格はないのだ。



@0daib0t

***

泣けるほど子どもじゃないけど、すぐに忘れられるほど大人じゃないんだ 


 多くの人が死んだ。十に満たない犠牲でも、それは林藤たちにとっては多くの人だった。そしてこれから、途方もない数の人が死のうとしている。この、半身がもげたような組織に出来ることは殆どない。ないし、トラウマになって手を引いた人だっている。それを責めることは出来ない。人は生きているのが仏だ、死んでいくのも普通だ。でもそれは、基本的には戦いの中において、ではない。
 少なくとも、この、狭い世界においては。
「大丈夫なの」
「大丈夫だ」
戦うことを選択すると、知っていたように子供は笑った。笑って、城戸さんが心配してたよ、と言う。こういうの、林藤さん得意でしょ、と。子供に何処まで視えているのか、今更聞くことはしないけれど、少なくとも城戸の機嫌と林藤の行動くらいは把握出来るらしい。そもそも林藤も自分の行動を隠したことなんてないのだけれど。悪巧み以外で。
 城戸さん、とコーヒーの空き缶が置いてあるだけの喫煙所へ行けば、城戸だけが煙草も持たずにそこに立っていた。そこで先程の会話である。
「迅が心配してたよって」
「…賢いのも考えものだな」
「アイツが一番しんどいはずなのにね」
身に余る、と言ったら迅に失礼かもしれないがそれほどに強大なサイドエフェクトと、それを上手に制御してくれていた師匠を失って。
 それでも戦うことを選択したのは、選択させたのは一体誰なのか。
「お前たちは強い」
だから大丈夫だ、と城戸は言う。
「おれ、忍田とセット?」
「全員とセットだ」
新しく生まれ変わる、とホワイトボードを出してきたあの時の城戸は一睡もしていなかったように見えたし、事実そうなのだろう。
「ボーダーに弱いものはいない。…要らない」
「うん」
「だから、お前も選ぶのなら強いやつを連れて行け」
「でも、あんまり引き抜いたら怒るんでしょ?」
「当たり前だ。限度を考えろ」
 最後まで城戸は煙草を吸わなかった。

 それがやけに林藤に焼き付いて、戦いに赴くその日の林藤の手には、煙草が握られていた。



そして少女は夢を見る @girl_dream_bot

***

傷の舐め合いみたいね、(わらっちゃう) 

*過去捏造オンパレード

 ちょっと悪巧みに行ってくる、と行って夜に外に出ることは少ない。誰かいると言ってもまだ陽太郎は小さいし、あまり夜に支部を空けることはしたくないという気持ちは林藤にだってあるのだ。それでも近界民は昼夜問わずやって来るしこっちの都合なんか考えちゃくれないし、こんなのを保護者に持ったのが運の尽きと、そう言い聞かせるのは嫌だけれど。
「裏取引しに来たよ」
そうインターホンを隔てて言うと、すぐに扉が開けられる。
 これはもう、一種の儀式だった。悪巧みも、裏取引も嘘じゃない。この先林藤のやりたいことに、昔のやり方を守るために必要なことだから。でも、それだけじゃない。
「…随分間が空いたな」
「そりゃあ忙しかったし」
「まだ解決した訳じゃない」
「ボーダーに事件が起こってない時なんてないでしょ」
 細々とやっていた時だって、毎日が事件の連続だった。思い出したのか、城戸の眉間から皺が減る。
「だが、………明後日は休暇扱いになっていただろう」
「休暇は休暇で陽太郎に使うの」
それにね、と笑ってやる。
「今日はセックスしていいって唐沢さんが言ってた」
「唐沢くんがそんなことを言うはずがない」
「曲解したらそういうことを言ってたってことだよ」
「まず曲解をするな…」
眉間を揉みながらもベッドに座る林藤を、城戸が邪険にすることはない。
「シャワー浴びてきた方が良い?」
「…どうせ浴びて来たんだろう」
「うん。玉狛のシャンプー、ずっと変えてないけど」
「………それで、良い」
珍しい、と思いながらベッドに寝転がる。電気消して、とは言わない。
 今回の悪巧みも裏取引も、うまくいきそうな予感がしていた。



それでも二人のベッドは心地よい ただそこにある無意味なほほえみ / 林あまり

***

絶対無敵ユートピア 

 誰も彼も泣かなかった。泣くことが出来なかった、泣く暇がなかったと言い換えても良いかもしれない。ただ目の前のことをどうにかしなくちゃいけなくて、泣きたいとか喚きたいとか逃げたいとか忘れたいとか―――死にたいとか。そういうことは全部後回しになった。全員。全員、だ。
 だから、少し落ち着いたその時に、そろそろ泣いてみようか、とふいに思ったのだ。部屋は真っ暗だったし、今はこの支部に林藤一人しかいない。闇の中でなら誰も見ていない、彼にも見えない、悲しみも朝になれば勝手に身を潜めて、それは林藤にとってはひどく心地好いものだった。思い出して、整理が未だついていないことが分かって、頭がふらついているこのうちに、全て吐き出してしまうのが普通だろう?
 そう思うのに、思うのに。
「………だめ、だなあ」
泣いたらきっと、あの人のことも忘れてしまうから。
 それだけは、どうしても出来なかった。

***

 珍しくもなんともない行為だった。熱が出れば熱冷ましをのむように、当たり前と言っても過言ではない行為。
 そのはずなのに、それが時折妙に違和感を伴うのを林藤は気付いていた。けれどもそれが明確に掴めはせず、そのままでいる。安っぽいパイプの軋む音、耳に流し込まれるような筋肉の軋み、あがる息に羞恥を煽るような水音。
 あ、と唐突に気付いた。おれは、このひとがすきなんだ。
 だからら、もう終わりだと思った。この当たり前の放熱作業に、終止符を打つ時がやってきたのだ。

ピリオドの向こう側 

 と、思っていた。
「…城戸さん」
この手は何よ、と笑って見せれば今更問うのかと言わんばかりの溝を見せる眉間。
 前の放熱作業が終わって、風呂を済ませてシーツを変えたあと。林藤は其処に正座して言ったはずだった。俺は、アンタが好きみたいです、と。そして、だからもう、これには付き合えない、とも。それを聞いていた城戸は眠いのか、いつもよりも細まった目で林藤を見遣ってから、その頭をひと撫でした。まるでそれが赦しのようで、詫びのようで、思わず胸が詰まったのを覚えている。
 こんな歳になって、甘酸っぱいを通り越した恋をするなんて。もっと、大人というのは成熟しているものなんだと思っていた。けれども結局、大人なんて子供の延長線上なのだ。好きだからセフレの真似事は出来ない、遊びのようなことはやっていられない、だってその先が欲しくなるから。城戸だってそう物分りが悪い訳じゃあないのだろうに、どうしていつものように当たり前のように頬を撫でられたのか。林藤は知っている。これはキスの予備動作で、その次に来るのは放熱作業だ。
 だから、意地でも止める。
「俺言ったよね!? アンタが好きなんだってば!」
「聞いたが」
「だからこういうの、やめにしたいんだけど」
「…何故?」
「えっ本気で言ってる? 俺、この女々しい感情一から十まで説明しなきゃだめ?」
再度言うがこんな歳だ。もっと言えば子供一人抱えていることに誰も疑問を持たない歳だ。更に簡潔に言えばオッサンだ。それがどうしてやっとのことで自覚した甘酸っぱい青春の、後味が苦味しか残らないような感情を吐露しなくてはいけないのか。
「あのね、城戸さん。俺、これでも城戸さんのこと察し悪くない方って思ってたんだよ」
「それは、どうも」
「だからね、いちいちこんなことを説明させんの何の嫌がらせ? って正直思うんだけどね? 俺は城戸さんのことが好きで、多分結構前から好きだったんだけど気付いたのがついこないだで、自覚しちゃったら城戸さんが俺のこと好きでもないのにこういうことするの、虚しくなっちゃった訳よ。だから嫌だって言ったしもうやめよって言ったの。やめたからって困る訳じゃないでしょ? 唐沢さんに言えば口が固いところだって見繕ってくれると思うしあの人多分偏見ないでしょっていうか、城戸さん別に男じゃなくても良いんだよね? そういえばなんで俺だったの」
一番始めは訓練のあとに興奮してしまって、どちらからともなく手を伸ばして、とそんなありきたりなものだったはずだ。思い出そうとしている林藤をもう一度城戸は引き寄せて、それに抵抗しようとしたところで耳に言葉を流し込まれる。
「オレはずっと前からお前が好きだった」
 なんだよそれ初めて聞いたよっていうかずっとっていつからだよなんで今まで言わなかったんだよと言いたいことは次から次へと出てきたが、結局キスに飲まれてひとつも言葉にならなかった。

***

琴を弾く 

 紙面をペン先が走っていく音を聞いている。それが聞こえるくらいにはこの部屋は静かだ。世界を守るために三門という場所で異世界人と戦うこの組織の中でこんなに静かなのは此処くらいではないだろうか。
 まるで此処だけ、ボーダーが生まれ変わった時から時が動いていないみたいに。
「前にさあ、有吾さんが俺たちみんなを動物にたとえたことあったじゃん」
「仕事の邪魔をするなら出て行け」
「別に邪魔するつもりはないよ。城戸さんだってその書類、期限先のやつでしょ?」
「…そうだが、」
「なら少し休憩入れようよ。俺コーヒー淹れるし」
「やめろ。お前のコーヒーはコーヒーじゃない」
「ええー良いじゃん。城戸さんには糖分足りてないんだよ。それでなくても頭使うのに」
「糖分なら菓子で取る。だからコーヒーに角砂糖を落とすのをやめろ」
「よし、言質とった」
「………好きにしろ」
茶箪笥から勝手に菓子を取り出す林藤に、城戸はそれ以上何も言わなかった。
「で、空閑が何だ」
「あ、そうそう。動物にたとえたことがあったじゃんね。忍田が虎とか言い出したのもあの人でしょ。それで、流れ忘れたけど多分犬から始まって、猫になって、それぞれの動物の括りでたとえ出して遊んでたなって。全部は覚えてないけど、なんかその中で妙に覚えてたことがあって」
ねえ城戸さん、とちゃんと真っ黒なコーヒーを淹れて戻ってくる城戸に、林藤は話し掛ける。
「鳥のたとえだったんだけどさ。城戸さんがヨタカ」
 城戸は答えなかった。そのまま続ける。
「ちなみに忍田はトンビで、最上さんがモズ、クローニンはメジロで…空閑さんは自分のことコマドリって言ってたなあ」
「…お前は」
思い出して来たのか、それともノッてくれる気になったのか。
 にっと笑って答えを言う。
「ウソだよ」
「…天神の…」
「そ、そのウソ。でね、俺それ聞いた時にね―――」
俺と城戸さんってお似合いなんだなあ、って思ったわけ。
 だから覚えてたんだよ、と言えばくだらない、と一蹴された。

***

20171010