罪を愛す 貴方が兄を殺したことは分かっています、と言えば面白いように抵抗が止んだ。 「…復讐ってわけだ?」 いつもの笑みが戻ってくる。これで少しは真面に話を聞いてくれるだろう。 「いいえ、復讐ではありません」 「じゃあ何」 「それを知っても尚、貴方が好きだと言いたかっただけです」 なにもしませんよ、と言えば眼鏡の向こう側が訝しげに歪んだ。 「何もしません。貴方が信じてくれるまでは」 「信じたら裏切るんだ?」 「それもしません」 お願いです、と縋ることはしない。 「ただ、信じてくれたら、二度と離しません」 その人を怒らせることを分かって、言葉を選ぶ。 「兄のように、貴方を置いていったり、しません」 殴らないことが分かっていた。 そこにつけ込む風間は、きっと卑怯だった。 * 水星人 https://twitter.com/67j2 *** きらいだと云って 正しい決断をしろよ、とその人はいつも言っていた。対戦のあと、座学のあと、策戦会議のあと。 「林藤さん」 それはどうやったらいいのかなんて、風間には聞けないで。 だって、聞いてしまえば。 切り捨てろと、頭を撫でられる。その一連の動作が、いやというほど思い浮かべられる、から。 * ask 正しい決断をするのに助けになることは? *** だいきらい ひとこと、ひとことで良かった、なのにその言葉は絶対に喉を通ることはしない。一体何が邪魔をしているのか、彼を尊重したいという自分の我が侭か、もう林藤にはよく分からなかった。 でも、それでも。彼は林藤の言いたいことを分かってくれるから。 「林藤支部長」 冷たい声が呼ぶ。 「なーに、蒼也」 だから軽い声で返事をする。 それ、だけで。 すべてが繋がった気に、なるのだから。 * 何ひとつ誓い合わない 何ひとつ約束しない ふたりでいよう / 村上きわみ *** 十八年後のあなたと すきです、と。 その言葉はとても真っ直ぐで、流石、彼らしいな、と思って笑ってしまった。 「…今は無理、って言ったら怒る?」 困ったような顔をしているだろう。答えは、決まっているのに。ひどいことをしていると思う、ひどい大人だと思う。 「怒りません」 物分かりの良い子供に浸けこんで、その未来をすべて奪おうだなんて。 「林藤さん」 風間は言う。 はっきりとした声で。明瞭に林藤の思考を照らしていく。 「何かくだらないこと考えてますよね」 「断定かよ。くだらなくねえよ、お前の未来のことだよ」 「オレの未来って、貴方に費やす未来のことですか」 「自覚あんじゃねえか」 「自覚じゃないです。ただ、貴方ならそう考えるだろうって」 いつか、と風間は言葉を重ねる。 「いつか、そんなの気にならない未来が来ます」 ―――貴方が、それくらいにオレを愛してくれる、未来が。 真っ直ぐで、それでいて熱い言葉に思わずほうけてしまった。 そうだった、そういえば、彼は見かけによらず熱い人間だった。 「…そんな未来がくればいいよな」 「来ます」 来させます、と拳を握る風間に笑ってしまった。 「何ですか」 「いや、俺の若い頃そっくりだと思って!」 若者の青臭い夢に乗っかってみるのも、一興だと思った。それははるか昔、きっと自分も思い描いた夢だったはずだから。 * お題bot https://twitter.com/ODAIbot_K *** なみだめラビット 風間蒼也が林藤匠の家で暮らしていることは、殆どの人間が知らない事実だった。別に隠し立てしている訳でもなかったが、普段の彼らの様子から見てそういう親子のような関係であると、気付く者はいないだろう。 「風間さんさ、こないだ、無理そうな大人が好きって言ってたじゃん」 「かもしれない、な」 その知っているうちの一人、太刀川は並んでボーダーの廊下を歩いている時にそう言葉を落とした。確かに口がすべってそう言ったのは事実だが、それは告白してきた女の子に退いてもらうためだともう説明したはずだったが。 「…それってさ、」 「太刀川」 止める。 「この間も言ったが、それはその場しのぎの言葉で、」 「でもその場しのぎだからこそ真実に近いものが出た」 「何度オレは違うと言えば良いんだ」 「風間さんが認めるまで」 「何を」 「林藤さんを好き、って」 またその話か、と風間は太刀川を睨んだ。 「おれ、別にひかないよ」 「お前がひかなくてもだめだろう」 「林藤さんだってひかないって」 「ひかないかもしれないが確実に傷付ける」 ひと気のない廊下。だからこそ言えた言葉かもしれなかった。 「あの人は、この十年ずっと、オレを息子として育てて来たんだ」 息子、と太刀川が繰り返す。 「そりゃあ陽太郎もいたし、オレの立ち位置は微妙なものだっただろうが、それでもあの人のオレに対する態度は息子なんだよ」 家族だった。林藤と、風間と、陽太郎。ちぐはぐで普通の型にははまらなかったけれど、あれは紛れもなく風間の家族だった。 それを。 「それを、オレの言葉で崩してしまったら、もう…」 「元には戻れない?」 頷く。 太刀川はしばらくの間、考えていたようだった。 「…ねえそれってさ、風間さんが我慢してるだけじゃん」 「そうかもな」 「それ、林藤さん喜ぶかなあ」 目を見開く。 「風間さんが気持ち飲み込んだらこのまま、っての、分からないわけじゃないよ。でも風間さんが犠牲になって、それで今の形が保たれるって、それって上辺だけの幸せっていうかさあ…おれもうまく言えないけど、そういうの、いちばん林藤さん嫌いそう」 「そう、だな」 知っている。彼がそういう人間なのを、風間はよく、知っている。それ、でも。 「それでも、オレは黙っている方を選ぶ」 もう人通りの多い場所に出る。太刀川だってところかまわずこの話題を出すような馬鹿ではないだろう。だから風間は足を早めた。 ずっと黙っていることで、傍にいる権利が勝ち取れるなら。 もう、それだけで良かった。 * 雑なうさドロパロというかオマージュというか *** 覚悟のかたち *師弟捏造 最上宗一を正式に死んだ人間として扱って欲しい。 そんな内容の申請のために、風間は三門市外へと出ていた。渉外担当の唐沢と最上の最期を知る人間として林藤と、そこにどうして風間が同行することになったのか最初はよく分からなかったが、その交渉を聞いていたらすぐに分かった。 「黒トリガーだなんて、それが人間が生命を削って作るものであるなんて、信じられないでしょう」 いつもの笑みで林藤は言う。奇想天外、まるで怪しい宗教だ。異世界から化け物が攻めてくるので守らせてください。そんな話を飲み込む人間は、実際にそれに遭遇したものでないとだめなのかもしれない。 「今から作りましょうか」 その言葉に目を見開いたのは相手だけではない。風間だって目を見開きたかった。ただ、動揺を悟られてはいけない、そう教えこまれたから耐えただけで。 「カメラでも何でも用意してください。貴方の目で確かめれば良い。私が黒トリガーになります。その場合私、林藤匠という人間は死ぬことになりますし、それをそそのかしたとして貴方の評判は落ちるでしょうがね。私は関係ありません。その時には既に武器になっていますし」 なんでもないことのように林藤は続ける。 「此処に、それをきっと使えるであろう兵士もいる」 示されたのは風間だった。相手の男はまた驚いたように息を呑む。風間が兵士であるなど、思いもしなかったのだろう。実際、風間が部屋に入った瞬間に何故こんな場に子供を連れて来たと、彼は憤ったのだから。 「彼がオレだったものを使いながらうちの渉外担当を守りながら此処を脱出し、貴方が殺した一人の人間について吹聴することも簡単なんですよ」 それは脅しか、という言葉に真逆、と返す林藤。 「ただ、私は友人の墓を立てたいだけです」 それが空っぽのものでも、不確かでない形として。私共とて人間です、喪ったものは形がない以上、そういったものを作ってやらないと区切りのつかない者だっているんです―――その言葉はきっと迅を指していたのだろう。風間はぼんやりとそんなことを思いながら、早くこんな交渉終われば良いのに、と思った。 脅しがきいたのか、友人のため、といった言葉に揺らされたのか。結果的に最上は失踪宣告ではなく死亡、という形として処理されることとなった。 ぱたん、とその扉がしまったのを確認してから、風間は行動に出た。だんっ! と音がする。隣では唐沢が肩をすくめていた。 「いた、痛い、蒼也」 「…何ですか、アレは」 「何って、交渉じゃん」 ねえ? と唐沢に同意を求めるも、 「今のは貴方が悪いですよ」 どうやら彼は風間と同意見らしい。 「唐沢さんまで…」 頬を掻く余裕があるとは、反省はしていないようだ。 「もーオレの弟子こわーい」 「怖くさせたのは貴方の言動です」 「でもさ、」 とん、と声が落ちたのに気付かない風間ではなかった。 「きっといつか来るんだよ。忍田と違って俺は支部長だから、そういうのが許されんだよ」 唇を噛む。 「だから覚悟はしておけよー」 頭を撫でられて、子供扱いだ、と思う。さっきは兵士だなんて言ったくせに、戦場で死ぬことをこの人は風間に許していない。 「あ、でもお前はそんな道選ぶなよ、ちゃんと人の前に立って後輩を導け」 「…そんなの、」 無責任な大人の言葉だ、とは言えなかった。 ずるり、と力の抜けた手を退けて林藤はまた歩き始める。 それを追いかけるなさいと言うように唐沢が風間の背中を軽く叩いたが、風間にはどうすることも出来なかった。 *** 偶像にすらなれない *風間兄×林藤前提 ふわり、と。微睡みの中で風間を見て微笑んで名前を呼んだ、その相手が風間蒼也でないことを、風間は誰よりもよく分かっていた。眼鏡がなかったからではない。風間は知っている。その人の顔を、見なくなってからもなんなく思い出せるのは、自分が彼と同じ顔をしているからだった。 つけ込んだ。 その自覚はあった、それでも良いと思っていた。なのに、違った。唇を噛む。 ―――あいつはオレの天使だったよ。 そんな歯の浮くような台詞さえ風間の前で言ってみせた林藤は、未だ風間を天使と呼ぶことはしない。 それが、良いことなのか悪いことなのか。 もう風間には分からなかった。 ただ今は夢の中でその天使と戯れているだろう彼を起こすことだけは、してはいけないと思った。 * 見つめればいつか見尽くす日はあるか兄の美貌をとどめるイコン / 松野志保 *** ワンダフルライフ *師弟捏造 会議室。 それは確かに他のことに使われることがない訳ではないが、基本は会議に使う部屋である。その部屋の鍵を閉めて、二人きり。林藤は自分を押し倒した弟子を見上げてため息を吐いた。 「あー…もー…おまえ、さいあく」 「師匠に似たんでしょうね」 「うっせ俺の所為にすんな馬鹿」 間違っても会議室は、セックスをするための場所ではない。 「貴方、口ほど抵抗しないじゃないですか」 「馬鹿、お前相手に全力で抵抗とか出来るかよ。察しろ。こちとらオッサンだぞ」 ないのだが、現役と一線を引いたデスクワークの人間である。あと言っても聞かないのは林藤が一番良く分かっている。 「誰か来たらどうすんだよ」 「貴方が声を抑えていれば問題ないのでは?」 「なにそれー俺がいっつも煩いみたいな言い方」 鍵を閉めているのは見たけれども、この部屋は別に防音という訳ではない。 「煩くはないですが、」 にっと風間が笑って林藤のネクタイに手をかける。 「貴方が声を堪えている様はひどく扇情的ですので、その辺り、察してくださいね」 「…てめ、」 流石に一言文句を言ってやろうと思って開いた口は、すかさず降ってきた接吻けに阻まれた。 *** 濡れた指先 *出逢い捏造 ほらもう泣くなと、その涙を根気強く拭ってくれたのはその人だった。日常を切り裂くような一閃で、風間を救ったヒーロー。もうその瞬間に運命は決まっていたのだろう、と思う。 「お前、どうする?」 大丈夫、だいじょうぶ、と言った口でその人はするっと勧誘をした。 「お前、戦っても良いと思うよ」 選択肢を提示する、という尤もずるい形で。 「戦います」 だから、風間の答えはひとつだった。 「オレ、貴方と一緒に戦います」 「そうか」 俺、林藤っていうんだ―――そのあとに自己紹介をしたヒーローの指先は、風間の涙でまだ濡れていた。それがきらきらと太陽の光を反射して、魔法みたいだった。 * http://shindanmaker.com/a/125562 *** ずっと忘れない *師弟捏造 俺のことなんか忘れちゃえよ、とその人は言った。俺の教えたものだけ覚えていて、その他は全部忘れちゃえよ、と。家族のように接したことも、日常生活で触れ合ったことも、お前のその胸の中に燻ってる感情も、ぜんぶ、と。 「それは、」 声が震えそうだった。 「俺の気持ちが邪魔だから、ですか?」 「そうじゃねえよ」 でもしんどいだろ、と下がる眉。それを見て、風間は決めた。ずっと前から決めていたことだけれども、改めて決めた。 「林藤さん、俺は―――」 アンタを嫌いになるなんて、きっと一生出来ないんだ。 * http://shindanmaker.com/a/125562 *** 20150807 |