甘えるってどうすればいい? 

 お前は不器用だな、と静かな声は煙草の合間を狙って発されたらしかった。
「なにそれ、城戸さんにだけは言われたくないんですけど」
へらり、と笑えばほらそうやって、とその大きな傷口に手があてられる。これはもう、この人の癖だ。この人の人生の半分も、こいつはいやしないのに。これよりもずっと、自分の方が長くこの人といるのに。
 その、身体にあるというだけで。
「お前は、甘えないだろう」
ぱちり、と目を瞬かせる。
「甘える?」
「甘える」
「何言ってんの城戸さん、俺、もういい年なんだけど」
「大人が甘えてはいけないという法律はない」
 あまりに似合わない言葉の数々に、仕方なく煙草を灰皿へと押し付けて。ねえ、と林藤は口を開いたのだった。



(ばかめ)

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はっかの味を舌でころがして 

 それ、何味? と問えば知らん、と返って来る。
「知らんって。城戸さんが食べてる今のそれの味聞いたんだけど」
「だから知らん。なんか白かった」
「じゃあはっかかなー」
「そんなに好きじゃない」
「じゃあなんで食べたの」
「桃かと思ったんだ」
なんだそれは、子供みたいな。
 そう思って笑ってやろうとした瞬間、襟元を掴まれて引き寄せられる。衝撃で眼鏡がズレて、視界が二重になる。
「な、ぅんッ」
合わされた唇から舌が口腔内をこじ開けて、それから。
 離れる。
「………俺は、ゴミ箱じゃないんですけど」
「嫌いじゃないだろう」
「確かにそうだけど」
「なら良いじゃないか」
かろん、と口の中で音がした。
 妙に口の中が甘く感じた。



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濡れた指先 

 水音が響いている。先制攻撃のように眼鏡を外されてしまうと、その人がどんな顔をしているのか全く分からない。まあこの行動を命じたのはこの人自身であるので、
そうひどい目線はくれられていないだろうけれど。
「…林藤」
「はぁい」
返事をしたらぐっと舌を掴まれた。何が気に入らなかったのだろうか、見上げてもやはり、その表情は見えない。
「次は、何が欲しい」
舌を掴んだままで質問とは。
 この人も大概悪趣味だと、林藤は笑って、それからそっと、開いている手を伸ばした。



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明日はナポリタン 

「いーざすーすーめーやーきっちーんー」
「キッチンは此処だろう」
「めっざすーはーじゃーがーいもー」
「何だその歌は」
「お料理行進曲!」
「なんだそれは…」
「最近の陽太郎のマイブーム、キテレツ」
「はぁ…」



コロッケをつくる城戸林
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「皿くらい洗ってやる」「やだよ、割られたくないもん」 

 米びつから二合分の米を測って、プラスチックのボウルへと入れる。
「米をとぎます」
そう宣言してから、水をいれて、がしがしと手早く、かつ米を傷付けないように洗う。それを後ろから覗いていた城戸が、ほう、と声を上げた。
「炊飯器にいれます」
「いれたな」
「てきとうに切った野菜を乗せます」
「人参は多めにしておけ」
「はいはい、多めにしてあるよ。そいで鶏肉も入れます」
「生で良いのか」
「生でいーよ。醤油とかみりんをぶちこみます」
「分量は」
「んなモンてきとー」
「そうか」
「それで水を線までいれてスイッチぽん」
 言った通りぽん、とスイッチを押して振り返る。
「ね、簡単だったでしょ?」
「ああ簡単だったな、これくらい簡単なら次からもお前がやれ」
「理不尽…」



炊き込みご飯をつくる城戸さんと林藤さん
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「ありがとう」に隠した『ごめんなさい』 


 「ねえ俺さ、やっぱ城戸さんにはついてけないよ」
これを言うだけに、どれほど勇気がいっただろうか。きっとこの人には分からない。林藤匠のその奥底にある、この想いの正体に気付いている訳がないこの人が、いつもと同じにへらりと笑った、林藤の本気など、分かるはずがない。
「そうか」
返って来たのはそんな、簡単な言葉だった。
「お前はそう言うんだろうと思っていた」
「許さない?」
「いや」
簡素な返事。
「お前は止めても行くだろう」
なら、許可を出したという体の方が良い。
 その言葉にそうだね、と林藤は頷く。
「そっちのが支部として支配出来るしね?」
「ああ。私はお前に離反されたい訳ではない」
「別に、俺だって城戸さんから離反したい訳じゃないよ」
でも、よかった。笑って言う。
「ありがとう」
 どうして礼を言われるのか、分からないという表情だった。だからやっぱりきっと、林藤の覚悟なんて、一万分の一も伝わっていないのだ。



(そもそも伝わらなくて良いんだ)

一人遊び。
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***

口より指の方が饒舌で 

 ずるり、と背骨の形をなぞってそのまま浮き上がらせるような指の痕跡を追うように、ぶわり、と咲いていく快楽を。この何も言わないような、仏頂面のこの人がやっているのだと思うと。
「ふ、」
思わず笑みがこぼれた。
 器用にその眉がつり上がる。
「何が、可笑しい」
「いや、なんてーかさ、」
ぞわり、また咲き誇るのは。
「俺って、思いの外城戸さんに愛されてんだなって、そう思ったら嬉しくなったんだよ」
 言われたその人は、何を今更、という顔をした。



まよ中
https://twitter.com/maynaka_

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馬鹿だから可愛いのか可愛いから馬鹿に見えるのか 

 「これね、惚れ薬なんですよ」
どんっと突然人の前に透明な何かの入ったグラスを出してきたと思ったらそんな馬鹿なことを言い出したので、城戸は表情を読ませない後輩に思い切りため息を吐いた。
「惚れ薬か」
「ええ、飲んだ人が飲ませた人に惚れちゃうやつ」
「この場合私がお前にか」
「どうだろうね? 俺がいれたとは限んないでしょ?」
このポーカーフェイスは城戸が身につけさせたものだった。自分の教え込んだものが自分に牙を剥くとは思っていなかっただろう、そんな子供のような思考に笑う。
「林藤」
「なーに」
「こっちへ来い」
素直にそのグラスまで持ってやってきたその耳を、思い切りに引っ張った。
「いたたたたたっ取れる!」
「安心しろ、ついてる」
「なんなのもう!? 俺は一応忙しそうな城戸さんを慮ってね!?」
慮った結果がこれだというのなら、本気で頭を抱えるしかないが。
「お前は馬鹿だ」
「それ聞き飽きましたよ」
「大馬鹿だ」
「あ、それはちょっと新鮮かも」
胸ぐらをつかんで引き寄せる。掠めた唇はやたら苦い。
 此処へ来るまでに、グラスを置くまでに、何本吸ってきたのか。
「お前の持っているそれが本当に惚れ薬だったとして―――」
 意味がないのは、一体誰が一番分かっていることなのか。



ask

***

いいこと教えてあげる 

 昔から何でも出来た方だと思う。人の気持ちは分かってやれる方だったし、喧嘩の仲裁もうまかったし、だからと言ってやられるままでもなかったし、人並みに悪戯もしたし、宿題もサボったし、理科の実験ではギリギリな程度で爆発を起こしてみたり、何だり。
「なんで、俺ってそこそこ天才だと思うんですよね」
「天才にそこそこも何もあるか」
「えーでも、城戸さん昔最上さんにお前はそこそこの天才だーって言ってましたよね?」
俺覚えてんですから、と笑ってやればその端正な顔が歪むのだからたまらない。
「覚えていない」
「うっそ。今の顔絶対覚えてる顔だった、なんで覚えてんだよって顔だったよ城戸さん」
「煩い」
「それ城戸さん、もう降参ですって時に使うの、分かって言ってる?」
「………煩い」
 分かっていないはずがないのだ。なにせこの才能を発掘したのはこの人であるので。
「城戸さん」
「………何だ、林藤」
「俺さあ、好きな人がいんだよね」
「そうか」
「でね、今頑張って落とそうとしてる最中な訳」
「そうか」
「一つ、言っておくとね」
立ち上がって、自信満々に。
「俺はそこそこの天才だから、絶対にそういうの、失敗しないから、ね」
宣言する。
 好きにしろ、と言いたげなため息に、思わず笑ってしまった。

***

彼はそれを禁断と呼んだ +陽レイ

 だめなんだ、と言った。初めて聞くような弱々しい声だった。いつだって飄々としてみせるその人の人間らしい場所を掴んでしまった気分になって、木崎は思わず俯いた。
 そんなことも気にせずに、林藤は新しく出した煙草に火をつけた。
「俺はよくても、だめなんだよ」
お前なら、分かるだろ。
 それは牽制のようで、同じ道をたどるなという不親切な警告のようで、木崎は今すぐにでも叫んで泣きだしたかった。
「好きだけじゃ、だめなんだ」
「…はい」
「好きだと、生き残れないから」
俺も、あの人も。
 そのままそれは木崎にも当てはまるものだった。
 当てはまることがよく分かるから、悲しくて悲しくて、あの小さな身体を駆け出して行って強く抱きしめたかった。



一番星のくちづけを
https://twitter.com/firststarxxx


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20150809 編集