コロッケにキャベツが必要不可欠で良かったと思いました 

*過去捏造
*ちょっと忍太刀気味

 この組織の構成人数は少ない、ついでに資金繰りも上手く行っているというには少々つらいのが現状だ。更に付け足せば、近界民がどうこうなんてつまるところの異世界人を相手にしているわけで、そんな怪しさ満点な組織に一般人的な人手が足りるという訳もなく、只今形だけ存在している食堂は、もっぱら職員たちの手で回されていた。
 「キャベツが足りない」
「足りない!」
そう言ったのは忍田と、その愛弟子である。
「キャベツって」
林藤は眉を顰めた。
 そもそも人手が足りないということもあって、戦闘員事務員に関わらず、多くの職員が此処で寝食を済ませている状態だ。そんな状態であっても身体は資本、休む場所と食料だけでもしっかり確保しようと、上層部があれこれ工面しているのも知っている。そういう訳で食事は当番制で回している現状でも、食材は業者から毎回仕入れ、足りなくなるなんてことはないはず、だったのだが。
 「だって付け合せがないとコロッケは完成しない」
「完成しない!」
どうやらメインは足りているらしい。それに添えるキャベツが、ちょうど一玉分ほど足りないのだと。
「良い大人がだってとか言うんじゃねーよ、太刀川も真似ばっかしねーの」
「林藤、別に慶が俺の真似をしていても構わないだろう」
「おれ、忍田さんみたいなかっこいい大人になりたいから! だから真似すんの!」
ほら、とにこにこ嬉しそうな顔をする同僚に、林藤はため息を吐く。はいはい、そういう親馬鹿は他所でやってくださーい、ついでにキャベツのことも忘れてしまえ、某大百科のように。そう零すと太刀川からドスッと結構重たいパンチが入った、このやろう。いらんところまで師匠に似やがって。
 そういう訳で同僚とその愛弟子の可愛いお願いごとを聞いてやることにした林藤は、財布を持って外へと出てきたのである。横をちまちまと歩く影は、師匠(センセイ)一人を買い出しに行かせる訳には行きませんから、と一緒に来てくれた愛弟子である。可愛いところもあるものだ、と密かにニヤけたら、その顔むかつきます、とパンチを食らった。太刀川のものよりもささやかながら重たい。
「つ、つよくなったな…」
「林藤さんに鍛えて頂いているので」
 そんな会話をしながら、入ったスーパーで、キャベツは無事に買えた。行きにはなかったずっしりとした重みを感じながら、帰り路を辿る。
「…さみぃな」
そう言葉が漏れたのは、ぴゅう、と北風が吹いたからだ。まだ冬も始まったばかりである今日、そんなに防寒は重装備ではない。マフラーも手袋もしていない状態だ。一緒に出てきた風間にも、そんなにあたたかい格好をさせている訳ではない。
 大丈夫か、蒼也。そう隣を歩く愛弟子の方を見ようとした瞬間、うに、と何やらが手に当たった。
「………なんだよ、この手は」
「寒いと言っていたので」
「言ったけどよ」
その正体は風間の手である。同年代よりも一回り小さな、あたたかく、少し湿っぽい子供の手。
「いやですか」
「嫌じゃねーけど」
「じゃあ良いじゃありませんか」
 そう言ってそっぽを向いた風間に、そういえばさっきもキャベツは自分が持つと主張していたな、と思い出す。流石に一玉は重たいだろうから、と林藤が持っていたが。
 笑って押し付けられた手を握り返す。びっくりしたようにこちらを向いた風間の目には、おそらくニヤける林藤が映ったことだろう。またパンチが来るか、と身構えたがそんなことはなく、何処か嬉しそうにその口角が吊り上げられただけだった。おまえもうちょっと、カワイく笑えないもんなの、と思うが、この妙に大人びた部分もそこそこ可愛いとは思うので、口にはしない。
「ありがとな、蒼也」
代わりに礼を言う。
「お前の手、あったけーわ」
「…そうですか、それは良かったです」
 その耳が赤くなってるのを見て、ああこれは早く帰ってあたたかい部屋にいれてやらないとなぁ、なんてそんなことを思った。



林藤さんが風間さんに寒いね、と言うと手を繋いでくれました。
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***

無邪気な愛を

 それは勘違いだ。そう言いたいのだろう、それくらいは分かる。いつだって言葉を抑えるように煙草に火を付け、それで会話の間を稼ぐ、見慣れた手口。その狡ささえ、愛おしいなんて。
本当に、反吐が出る。
「蒼也」
「なんですか」
「おまえ、」
 言葉が、止まる。
 煙もすべて吐き出して、もう誤魔化す術はその口にはなく、残るのはただじわじわと侵食するような苦さだけ。触れるだけのそれを力ずくで振り払うことなど、この人には出来ない。
「…おまえ、」
ぺろり、と自らの唇を舐めると、まだ苦味が残っていた。それに何を思ったのかは知れない。
 はぁ、と溜息。
「昔は、無邪気、だったのになあ」
これも、そのうちのひとつだったのに。
 まだ何か言いたそうな口を再び塞ぐ。火をつけたばかりの煙草はその手ごと掴んで、灰皿へと押し付けた。くそ、と息の合間に悪態を吐かれる。ずるっこくなりやがって、と綯い交ぜの瞳をもっと見たくて、その眼鏡を外した。
 狡く、なんて。笑う。
 狡くなったのは、そういう大人を間近で見てきたからだ。



(無邪気のままにしておけなかったのは、俺が大人になったからだ)
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むらさきいろのくろっかす 

 ごう、と耳元で鳴るドライヤーを払うこともせずに好きにさせる。髪の間に入っていく指がきもちいいなんて、大分絆されたものだ。
「たくみさん」
「んー…?」
掛かった声にぼんやりと返す。振り返ろうとしたら、振り返らないで良いです、と押し止められた。じゃあ何で呼んだんだよ、と思いながらも眼鏡のない視界では、振り返っても良くは見えないので同じか、なんても思う。
「んだよ」
「いえ、寝ているのかもと思ったので」
先ほど無理させましたし、と続けられたので、自覚あったのかよ、と苦笑が漏れた。
「だから今こんなやさしー訳?」
「俺はいつも優しいつもりですが」
「ええー…」
どの口が、とは口にしなかったが伝わったらしい。背中へと軽く拳が入る。いてーよ、と文句を言えば、何を思ったのかその手はそのままうにうにと背中を触っていた。その間もドライヤーは稼働中だ。頼むから熱風の吹き出す口を頭皮に当てるなんてやめてくれよ、と思いながら放置する。だるさも相まって、害がなければ好きにすれば良い、なんて思考に陥っている。
 暫くして、やっと口が開かれた。
「昔より、肉がつきましたね」
「そりゃおっさんだからな」
煙草もやめてねえし。そう言ったら自覚あるならやめてください、と後頭部にチョップを食らった。師匠に対してなんてことしやがる。
「なにお前、俺の健康とか心配してくれちゃってんの」
「まぁそれなりに」
その言葉には少しばかり感動を覚えたものの、でも、と続いたためそれもすぐに途切れる。
「こういう貴方の変化を見られるのは俺だけだと思うと、優越感が湧きますね」
 瞬間、瞼の裏に蘇る光景。
 どろどろに融けた眸でこちらを見やる、自分の名を紡ぐ表情。せめてもの懇願で(勿論懇願と言っている時点で年上の威厳などあったものじゃないのだが)、部屋の電気は消されていたが、それでも真っ暗になる訳でもなく、ましてや暗闇が音まで飲み込んでくれるなんてこともない。喉が引き攣れるような声も、嬉しそうな呼び声も、粘膜が合わさる音も、荒い息遣いも、弾む心臓の音も、何もかも。
 「…おまえ、は」
「なんですか」
「なんつーかさあ…」
 そこかしこに散る白濁を見て思うことは、いつも一緒だ。どうして、俺なんだろう。こんなにも、この先の未来を望まれるであろう人間なのに、どうして。
 「…なんでもねーわ」
「そうですか」
ぶつ、とドライヤーの音が止む。じゃあ寝ましょうか、と手を取られるままに立ち上がった。ああ、でも、と思う。
 この手を離してやることなど、きっと、出来ないのだ。



風林にぴったりの花はクロッカス/紫(愛したことを後悔する)です。
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***

最大級の口説き文句 

 風間隊が遠征に行くことが決まった夜、ひっそりと玉狛支部を訪れる影があった。
 「…珍しいじゃねえの」
ぷかり、吐かれた煙の向こうのその顔は素直に驚いていたようだった。眼鏡の奥、特別大きい訳でもない瞳は軽く見開かれている。
「遠征に行くことが決まりました」
「知ってるよ」
俺あの場にいたし、と笑う顔には皺が増えた、と思った。 袂を分かってから、こうして対面に立つことは減ったという自覚はあった。勿論、派閥など気にせずに一緒に食事にいったり訓練をしたりしているところもあるが、風間にはそんな器用な真似は出来ない。それを分かっていたのか、所属するであろう派閥を伝えた時、林藤はいつものように笑って問うた。
―――破門、した方が良いか?
それに静かに首を振った、その時の心情を分かってくれと言うつもりはない。
 時間が経ったのだな、と思う。風間の身長が幾ばくか伸びたのと同じように、林藤の方には皺が刻まれた、ただそれだけのことだ。それがすこし、かなしい、なんて。
 「きっと貴方の元へと帰って来る」
一歩。踏み出しながら言う。ぱちり、瞬きはひどくゆっくりで、それが終わるまでにはその距離は埋まっていた。目の前に立つ風間に、椅子に座ったままの林藤はぽかん、とした顔を向ける。
「…いや、お前城戸派じゃん」
「そういうボケは要りませんから」
やっとのことで零された言葉は一刀両断させてもらった。
 どうしてこうも、すぐにはぐらかす方向へと持って行きたがるのだろう。それが大人だ、そういうふうに言っていたのは最上の訃報を聞いた時だっただろうか。
「貴方は言えないでしょう」
だから、俺が言うんです。伸ばした手が、彼に触れることはなかった。触れる寸前、ぐっと拳にして引き戻す。
「きっと、戻ってきます。これは約束ではありません、ただの、決意です。独り言です。だから聞き流してくれて構いません」
 言いたいことは言ったと、踵を返す。
 視界から消える瞬間の林藤の眉が、少しばかり下がったことなど、見ないふりをしていたかった。



(ああ、でも、いつでも死ねる覚悟なんて、俺はやっぱりしてほしくなかったよ)

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***

今日というこの日を最高で終わるためには 

*師弟関係捏造
*ちょこっとモブの名前が出てくる

 がたん、と音がした。
 顔を上げると最近ではあまり会うことのない弟子が窓の桟にしゃがんでいた。目が合うとヴン、と換装が解ける。
「もう秋なんですけど、窓開けっ放しとか。風邪引きますよ」
「おー…どっかの問題児が窓から入って来なけりゃ閉めるんだけどなぁ」
 そのまま中に入ってきた風間が丁寧に窓を閉めるのを見てから、林藤は書類へとまた視線を戻した。安っぽいボールペンの先がかたかたと僅かに音を立てる。
「もう日付変わるけど」
「変わる前にちゃんと来ました」
「お前そろそろ俺に携帯教えたら?」
「そうしたら貴方、会ったりするのに怠惰になるでしょう」
今でさえ俺が来るばかりなのに、とため息を吐かれれば笑って誤魔化すしかなかった。
 元々研究者気質なのも相まって、放っておけば実験ばかりで支部から出ないのだ。風間の予想は外れていないと言えるだろう。
「冷蔵庫にケーキあんぞ」
「買ってきたんですか」
「いや、買いに行こうとしたら木崎が作るって言って作ってた」
結構な大きさをしたそのケーキは、木崎が料理を担当するようになってから買い替えた大きな冷蔵庫の中でも、まるまる一段を占拠していた。夕飯時に切り分けられたものを出しはしたが、それでもまだたくさん残っている。
「ついでに迅が箱寄越した」
「…ぼんち揚げの、ですか」
「そうじゃね? なんか宇佐美が綺麗にラッピングして持って来たから箱ってことしか分かんねー」
居間に置いてったから、多分陽太郎辺りがシールとかでグレードアップさせてそうだな。そう付け足したらその様子を想像でもしたのか、風間の頬に慈愛の色が乗った。
 書類の合間にそれを見て少し笑うと、次の紙を持ってくる。印刷するものはもう印刷し終わっていて、あと残るのは署名と判子くらいだ。その署名と判子が膨大な量あるのだが。再開されるボールペンの音。
「お前今日飲み会って聞いてたから」
「はい。木崎たちと行ってきました」
「うん、それ。俺も木崎から聞いたから、今日はお前来ないかもって思ってた。
だからプレゼントはお前ん家に送っちまった」
「…別に、プレゼントの催促に来た訳ではないです」
「俺だってそうは思ってねえよ」
「林藤さん」
「分かってるからちょっと待て。書きかけの書類の前で言ったらかっこつかねえだろ」
「今日、あと三分しかないですけど」
「二分で書き終わるから!」
 悲鳴じみた声を上げてやれば、他人事と言わんばかりに風間が笑ったのが分かった。
「ていうか今日の仕事の山ってお前の所為だろ。俺の署名必要なやつばっかまとめやがって」
「ああ、やっぱりバレますか」
「バレるわ。事務の蓮乗院(れんじょういん)くんお前に甘いよなー」
「人徳のなせるわざです」
「人徳でも何でも良いけどよ。なんでこの日は毎回俺に仕事回してくんの」
「仕事回しでもしなければ貴方、ふらふらとどっか行くじゃないですか」
「お前の中の俺ってなんなの…」
「首輪のついてない犬」
「仮にも師匠に向かって…」
そろそろ手が痛くなってきた。あと五枚。自分の名前だと言うのに書きすぎてゲシュタルト崩壊が起きそうだ。
「どっか行って欲しくねえなら事前に約束取り付けるとか、すりゃあ良いのに」
「…良いんですか」
「別に悪かあねえだろ。派閥がどうこうとか気にしてるならまだしも。お前、そういうの気にしてねえだろ」
ぽん、と最後の判子を押して、終わった!と両手を上げた。そして、そのまま振り向く。
「蒼也、誕生日おめでとう」
 言い終わったところで、部屋の時計が控えめに零時を告げた。



「じゃあ来年のこの日は開けておいてください。夕食行きましょう。勿論林藤さんの奢りで」「はいはい、財布潤わせとくよ」
風間誕

***

まだまだお見通し 

*師弟関係捏造

 宇佐美に教えてもらった、と聞きなれない店の名前がメールで送られてきたのが一週間前のことだった。それに対して次の休みの日を送って、じゃあ十一時に駅前、とするする予定が決まった。
 風間も林藤も、甘いものが好きだ。そして二人とも、あまり人の目というものを気にしない。だから、美味しいと聞けばケーキバイキングだろうと可愛らしいカフェだろうと出掛ける。周りの人々もそれを分かっているので、美味しい店があれば教えてくれる。
 今日の店はエクレアが人気らしい。小さなこじんまりとしたその店で、エクレアを数種類購入すると、そのまま公園へと向かう。イートインがないというのは事前に知っていたので、食べるのに座れる公園の場所もチェック済みだ。
「まーでも晴れて良かったな」
隣を歩く林藤が笑う。
「これで雨とか降ったら家まで戻らないといけねえ訳だし」
「オレはそれでも良かったですけれど」
「生菓子は早めに食いたいだろ」
そう言ってから、なぁ、と林藤は続けた。
「前から思ってたけど、お前、普段はオレ≠チて言うんだよな」
会議室では自分≠チて言うくせに。
 そんな他愛もない会話をしていたら公園についた。空いているベンチに座って、エクレアの袋を開ける。
「では、いただきます」
「いただきます」
成人済みの男性二人が並んで神妙に、エクレアに向かって手を合わせている様ははたから見たら少し異様かもしれなかったが、そんなことは気にしない。
「あ、うまい」
「流石宇佐美情報ですね」
「蒼也、そっち何味?」
「ピスタチオです」
「一口くれ」
「どうぞ。そっちのもください。苺ですか?」
「ん、ラズベリー」
互いの手に持ったエクレアを食べさせ合うことも、特に気にせずに行う。
「………お前、食べんの下手だなぁ」
「下手というか、慣れていないだけです」
「いや下手だろ。慣れてねえからってそんなとこにクリームつくかよ」
あーあぁ、と言って林藤の指が風間の頬を滑っていく。
 そして、クリームを掬い取った指を、なんの躊躇いもなく自らの口へと運んだ。
「…師匠(センセイ)」
流石に、これには風間も声を上げざるを得なかった。気色ばんだその声に、林藤は顔を上げる。
「ンだよ、別に子供扱いした訳じゃねえだろ」
「………そうじゃないというのならいっそのことやめてください」
「お前にしかしねえのに?」
詰まる。
 子供扱いではない。風間にしかしない。それは。
「…ッアンタって人は、」
「さっきの一人称の話もそうだけどさぁ」
にっ、とその頬に悪戯めいた笑みが乗せられた。
「お前って、かっこつけるの好きだよな」
詰まる。二度目。
「ま、そーやってかっこつけてるお前はかっこいいから好きだぜ」
 もう何を言うのも照れ隠しにしかならなそうで、風間は黙ってエクレアを飲み込んだ。

***

おやすみ、暫し待てよ世界。 

 暑い、夏の日。
 屋上だった。こんなに暑いなら、と頭に思い浮かんでいたのはビアガーデンだった。話は聞かないけれど、きっと三門市にだってやっているところはあるだろう。この頃、攻めて来る近界民たちの対応に追われてろくに休みも取っていなかった。隊員は若い人間ばかりだ。防衛のためだとは言え、そんな子供を夜に拘束しておくというのはなかなか出来ない―――否、してはいけないことで、結局旧い組織の時代からいる(こき使っても構わない)メンバーに負荷がかかるのは当然のことで。
 やっととれた休みは真っ昼間で、出来たらこのまま眠りたい、けれども仮眠室へと入っていけば上の人間が休んでいないことが隊員に知れ渡る可能性がある。そんな面倒な思考のままに人目につかない場所を彷徨って辿り着いた先が屋上だった。
「…林藤さん?」
どうして、其処に来たのか。
 影になっている部分に寝そべって、茹(う)だる暑さの中昼寝を敢行するなんて、なかなか自殺行為に近いものだったけれども。ぺたり、と触れている地面はひどく冷たくて、たったの十分だ、なんて一人言い訳をして。だからそんなところに他の人間が、ましてや風間が来るなんて、普通ならば考えられないことだったのに。
「寝ているんですか?」
ひたり、ひたりと近付いて来る足音。起き上がって返事をする気力はなかった。地面の冷たさに意識を集中させていると、風間が止まったのが分かった。
 何が面白くて、師匠の転がった姿を見下ろしているのだろう。ぼんやりと、夢の入り口でそう思う。こんな場所で寝て、と思っているのかもしれない。確かに日陰とは言えやたらと暑い夏の日で、こんな日に外で昼寝なんかしたらあっという間に脱水症状になるかもしれない。それが分からない訳ではないだろうと、真面目な風間ならそう怒るのかもしれなかった。
「…林藤さん」
起こされるだろうか、そうしたら自分は起きれるだろうか。十分と決めてしまった林藤の身体は既に眠りへと向かっていた。昔から寝る前に設けた制限時間通りに起きれる方だった。それは今も変わっていない。それを、一時とは言え師弟関係を結んでいた風間は知っているはずだったが、さて。
 ぺたり、と横に座り込む音。此処でサボろうと言うのか、それも別に良い、とまた林藤の思考は沈んでいく。沈んで、もう少し―――
「…オレは、貴方が好きです」
一気に、引き上げられた。
 ばちり、目を開くと明らかにしまった、というような表情が飛び込んできた。
「…あ、の」
その次に風間が何を言うか、林藤は予想がついた。それくらいに、彼を見て、育てて来たのだと、一切の下心なく、言えれば良かったのだけれど。
「…蒼也」
静かに、呼ぶ。夏の暑さなどとうに消え失せていた。本部にいても蝉の音が煩かったはずなのに、今はそれも聞こえない。
 世界に、ただ二人。そんな、きもちで。
「…今の、冗談には、するなよ」
思いの外、それは拗ねたような色をしていた。少なくとも林藤の耳にはそうして届いた。ふわり、目の前の頬が緩む。
「林藤さん」
「なに」
「好きです」
「うん」
「貴方の、答えを、」
ききたいです、身体を伸ばした風間が、林藤の視界いっぱいに、逆さまに映って。
「…俺も、すきだよ」
 そう言ったらまたゆるゆると眠気が上がってきた。
「蒼也」
「十分ですか?」
「話、はやくて、助かる…」
そのまま、沈んでいく。
 夢の中で、何かやわらかいものが唇に触れたような気がして、なんだかとても勿体ないな、と思った。



林藤さんから風間さんへの愛の言葉
溶けてしまいそうな暑さの中、拗ねたように「冗談にはしないで」
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***

眠りにつく前に 

 りんどうさん、と隣で目をつぶっている人の名を呼ぶ。なに、といつもよりもやわらかい声が返って来るのは彼もまた、眠いからだろう。いつでも警報がなれば起きれるようにしている彼でも、眠気がまったくのゼロであるわけがない。
「俺の、名を。呼んでください」
何故、と。彼は聞かなかった。
「…蒼也」
「はい」
「そうや」
「はい」
 もそもそと頭の後ろに回された手で引き寄せられる。
「愛してるぜ、良い夢を」
「…貴方こそ」
 このおなじないが、何よりも風間に良い眠りをもたらすのだから。



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***

同じ空を見ていた 

*風間兄×林藤前提

 兄から名前を聞いたのは、ただ彼が兄の師匠を担っていたからではないと、もうわかっていた。同じ匂い、それが彼の愛する煙草の匂いであると、ある時から兄がその匂いをさせ始めたこと、でも兄は煙草など吸っていなかったこと、ボーダーにその銘柄を吸っている人間は一人しかいないこと。簡単なことだった。簡単なことすぎて、風間は拒絶を突き付けられるまで気付くことが出来なかった。
 ―――お前はあいつじゃない。
 笑ったその瞳は、眼鏡に遮られてよく見えなかった。
 ―――だから、だめだ。
 誰がその目を奪ったか、風間は誰よりもよく知っていた。きらきらと光る、晴れた日の青空のような。風間とは違うその瞳が、風間だって好きだったのだから。



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君がいたから強くなれた 

*師弟

 お前が弟子で良かったよ、とさいごの日、その人は言った。
「すべてが終わる訳じゃあないじゃないですか」
そう言ってもその人は笑うだけで、先ほどの言葉を否定はしなかった。
「お前は真面目だから、今まで通りとはいかないよ」
「でも貴方だって本部に来るでしょう」
「うん、俺一応幹部だし。あの本部の設計にも結構関わってるし」
城戸さんも俺のこと無下に出来ないし、忍田はそんなこと考えてないだろうし。大大人意地でもなんでもない、そう言うのに風間にはその真意が読めない。ずっと隣に立てていると、これからは隣に立っていられると、そう思っていたのに。
「お前がいてくれてよかった」
「だから、なんで」
「そういうものだよ、今は飲み込め」
頭を撫ぜる動作も、これで最後なのかと。
 ただひたすらに悔しかった。同じ言葉すら返せないで、どうして隣に立っているなんて錯覚出来ていたのだろう。



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20150809 編集