ウサギの憂鬱 R18

 どうしてこんなことをしてしまっているのだろうなあ、と堤大地は眠るその人の腰を持ち上げながら、ぼんやりと思った。最初は、救いたいだけだった、そのはずだった。同じ色の目をした、その人を見ていられなくて、彼が目の前に現れたことは、神か何かからの思し召しなのだとおもった。
―――彼を、救えと。
そう、言われたのだと思った。
 だからこそこうして、彼を少しずつこちら側へと、しかし自分のように罪を犯さないように―――導いてきたはずなのに。
 自分の奥底に沈む、その物語を耳元で紡いでしまったのは、一体全体どうしてなのだろう。堤の中で最悪の象徴とも言えるそれを、どうして。
 しかしどれだけ問おうともその答えは出ない。出ないだけでぐるぐると堤の中を回って、そうしてその救うべき人の中に白濁となって出される。それで、解決したような気分になれるのは一時的だと、分かっているのに。
 ああ、ほんとうに、どうしてだろう。今日も深く眠りの中でうさぎに襲われているその人を、本当に襲っているのは、一体。
 どうして。



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指先だけで

 つう、と頬を滑っていくその指に、胸が高鳴るのを感じた。
 まだ完全に日も昇っていなかった。そんな静かな世界の中で、寝ぼけ眼のその人が堤をぼんやりと見ている。
 その視線から、逃れることは出来なかった。特に、逃げたいと思った訳ではなかったが。それでも何処か身体の奥で、まるで穢れのないその視線に、落ち着かない部分が暴れている気もした。
「つつみ、おまえは」
からかうように指が、頬骨の辺りを執拗に辿っていく。
 それだけで、その先に何を言われようとも、こわいことが待っていようとも。口を塞がれている訳でもないのに大人しく、その断罪を待とうなんて、そう思えてしまうのだから。



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神様の遺児 

 実のところ諏訪洸太郎は知っているのだった、すべてがどうやらこの男の純粋なる策略であったことを、どうしてか自身がその対象となり彼を圧迫しているだろう事実を。諏訪洸太郎は知っていた、何故なら先に目をつけたのは彼の方が先だったからだった。ずっと見ていて声を掛けて、まさかひと目で気に入られるなんて思ってはいなかったけれど。
 
神様、と思う。
 もしもそんな存在がいるのならば、その可哀想な耳が、お情けで伸ばして貰った耳が真っ黒に染まってしまうまで、彼を、可哀想な彼を、堤大地を、諏訪洸太郎の手元においておいてください。
 それが、何も得ることのなかった人生の、 唯一の願いで貴方への復讐です。



この胸に男ひとり棲まわせておりしが黒いうさぎとなりぬ / 松野志保

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棄てられた可哀想な兎 

 鏡の中の自分をじっと見つめて見て堤は思わず身体を震わせた。いつか、語られた物語、母親から受け継いだ唯一のもの。それは延々と堤の中に根を張って、きっともう離れることはないのだけれども。だって血肉とかそういうものなのだ、可哀想なくらいに堤大地という存在はそういう恐ろしい物語なしには保っていられない。
 
そうと分かっていたはずなのに鏡の中の自分にぞっとするなんてことをしたのは、思いの外侵食が早かったからに他ならなかった。

―――救いたかった、だけなのに。
 
神様、と呼ぶ。絶対的に存在する彼に、堤は助けを求める。けれども彼はもう、応えてはくれないのだ。堤大地が自分以外のたった一人を救ってしまったその日から、天啓は一度も降りてこないのだ。 それでも。
 あの選択を間違いだったと、言えやしないのだから。



神様、いま、パチンて、まみを終わらせて(兎の黒目に映っています) / ほむらひろし

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20140920
20141127
20150807