ひらひら踊ればいいんでしょう 

 ふわふわと揺らめく思考の海で、ああ、夢だ、と思った。
「ねぇねぇカエルさん」
声で、目を開く。
「…カエル?」
「うん、カエル」
「俺のこと?」
「アンタ以外に誰がいるってのさ」
そう話しかけてくるのは少年だった。目眩がしそうだ。これが夢だと分かっていなければ、そのまま倒れていたかもしれない。非現実的だ、でもこれが自分の頭の中で起こっていると思えば、少し頭痛がするだけに留まるような気がした。
 少年に、林藤は見覚えがあった。とても、見覚えがあった。だってそれは、幼い頃の自分の姿形と同じだったのだから。
「カエルさんはいつまで悪役をやってあげるつもりなの?」
少年は目を瞑ったままそう笑う。
「悪役?」
「そう、悪役」
目を、開けないのだろうか。そんな林藤の疑問など気付く様子はなく、少年はくるくると回ってみせた。はて、子供の時の自分はこんなにもふんわりしていただろうか。大人の前でくるくる回って見せるような、そんなお茶目さを備えていただろうか。
「カエルさんは悪役を頼まれたんでしょ。本当は頼まれてないんだけど、そうして欲しいって思っていたのを、引き継いであげてるんでしょ。カエルさんは知っているから、分かっちゃうから、それで自分しかそれが出来ないって、思っちゃってるから」
くるくる、少年の旋回は止まらない。
「ほんとはね、俺が何を言うこともしなくて良いんだ。だってカエルさんは頭が良いから。分かるから。夢を見るほどこどもでないから。ねえ、そうでしょう、カエルさん」
林藤は答えなかった。答えてくれなくてもいいよ、と少年は言った。
「カエルさん、これは俺の我が侭なんだ…一度、会ってみたかった。太刀川が、羨ましかったんだ」
「…そう、か」
「だからね、きっと起きた時には俺のこと、憶えてないけど。それで良いんだ。俺は…俺たちは…それで………」
少年の身体がゆらり、と揺らめいた。夢が終わる、そう瞬時に思った。少年の声が遠のいていく。
「お前は、どうして目を瞑ったままなんだ?」
もうすぐで消えてしまう、そう思ったらそんな疑問が口をついて出た。
 少年は、それを聞いてにっこりと笑った。
「アンタはきっと一生、知らなくて良いことさ」



image song「かえるの唄」クリープハイプ
20141225

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夢路のうつつ 

 夜明けが近付いて来た。
 まだ真っ暗な部屋の中で、太刀川はそう思った。ふっと夢から浮上した意識がやけにしっかりしていて、ああほんとうにあれは夢だったんだな、とそう強く思わせた。
 何も、不思議なことなどない。
 ただ、違和感だけがはびこる街の夢。そこで、太刀川は幼い姿だった。大きな屋敷に忍田と二人で暮らしていて、しあわせそうなのに何か欠落したような顔をして。
 少年の顔が、ぐるりとこちらを向いたのを、まだ憶えている。何を、言ったのか。聞こえなかったけれど、太刀川にはそれが分かっていた。
―――おれは、忍田さんがすきだよ。
まるで、とてもとても、たいせつなことを言うように。
「………ンなの、分かってるよ」
見れば分かる、と布団にくるまる。しあわせそうだった、しあわせそうだった、なのに、どうして。
「こんなにかなしくなんだよ、ばか」
すび、と啜った鼻の音が響いて聞こえた。
 寒い、冬の朝だった。



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20150124

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20200222