3 少し操作に慣れるために機械をいじりはしたが、それを除けば仕事はすぐに終わった。対象の現在地を調べて、脚がつかないように周囲のカメラにハッキングする。それで画面越しに異能力を行使すればそれだけで良い。今までやりあっていた青年は林藤がそうして異能力を行使するのを知っていたようだったが、解析室の他の面々は少々驚いているようだった。どうせ事前情報は行っていたのだろうが、恐らくこの中で林藤と直接相対したことがあるのはこの青年だけなのだろう。 「お疲れ様です」 青年は無表情のままで言う。 「これだけでいいの?」 「とりあえず今は」 「そう」 敵対組織、というと少し違うが、ついこの間まで似たような組織にいたのだ。ボーダーのためにお仕事、なんてあまり進んでやりたいものではない。けれども部屋に篭っているままでは情報もさして集まらない。監視カメラがあるので外部の情報が全くない訳ではないが、こうして肉眼で収集する情報もあった方が良いに決まっている。 「部屋まで送りますね」 元のように手錠を掛けられ、腰の拘束が解かれる。動きに無駄がない。そのまま元の部屋まで送り届けられる。 青年は部屋の中をぐるりと見渡して、それから何もないですね、と言った。何もないのはそちらの所為だと思うのだが。 「暇でしょう。あとで本でも差し入れます」 「…そりゃドーモ」 青年は笑わない。表情筋が固まっているみたいだと思ってから、別に笑えない訳ではないんだろうなと初日の笑みを思い出した。 「何か欲しいものはありますか」 「煙草」 「吸うんですか」 「異能力使ってない時はな」 ここ最近ずっと異能力を使っているか寝ているかだったので、長いこと吸っていないような気さえする。 青年は一歩林藤に近付くと、すん、と鼻をひくつかせた。 「あまり、香りがしませんね」 「最近吸ってなかったからな」 そんなに林藤が喫煙者ということが意外だったのだろうか。しかし近いな、と思ったが林藤が引くことはしない。そういう隙をわざわざ作って見せてやるほど、林藤はお人好しではなかった。暫くして納得したのか、青年が離れる。 「銘柄は」 「ジャスティス」 「分かりました」 調達出来るんだな、と思う。何か言うものかと思っていたけれども、青年は何も言わずにそのまま部屋を出て行った。 ぼすり、とベッドに転がる。 「調子狂うわ」 それは心の底からの本音だった。 20190807 |