城へ来てまず男がすることは、へし切長谷部を抱くことだった。いつもそうだ。何がそんなに楽しいのか知らないが、いつも薄ら笑いを浮かべて、まるでそれが仕事だとでも言うようにへし切長谷部を抱くのだ。 きもちが悪いと、へし切長谷部が思うのはそんなことだった。この行為自体が、ではない。底を見せずに自分を抱くこの男が、だ。まだ何かぶつけられている方が納得出来る。彼がこの新月の前後に審神者を代行することを嫌がっているのだとか、その苛立ちだとか。もしくは元々男色であるのだとか、ただ加虐心に塗れているのだとか、そう言ったものであれば。 あればどうという訳ではなかったけれど、底が見えないよりは何倍もましだ。余計なことを考えずに、元のように道具に徹することが出来る。この人のような身体を持っても、使われているだけなのだと思うことが出来る。 でも、男はそれを許さない。 男は淡々と、けれどもきっと、人にするのと同じようにへし切長谷部を抱く。その頬から軽薄さが抜けることはなく、仕草ひとつとってもとても優しいとは言えたものではないけれど。 能面の子供 すべてが終わったあと男は一人立ち上がって、彼の部屋の隅にある臨時操作盤を起動させる。 「さて、仕事だからね」 まるで言い訳のように、今までのものは仕事の報酬だとでも言うように。ぐったりとしているへし切長谷部は布団の上からそれを眺めるだけだ。そもそもこれこそが彼の仕事なのだから、何を言うこともない。 ヴゥン、と音がする。この本丸を稼働させる霊力の源が、主からこの男へと変わった感覚。主が供給を担っている時よりも、ずっと、濃い。 認めたくはないが、この男は主よりもずっと、審神者に向いている。 「…何故これほどの力があって、貴方は審神者をやらない」 へし切長谷部の言葉に、男はうっすらと笑みを浮かべた。 「自分のものを持つのは面倒だろう?」 気持ちの悪い笑みだ、といつも思う。本当に笑っているのか、それすら怪しい笑み。まるで、これが笑顔というものだろう?≠ニ押し付けられているような。 「他人(ひと)のものをつまみ食いする方が性に合っているというだけの話さ」 つまみ食い、とは。顔を顰める。これだけ無体をはたらいておいて尚、彼の中ではつまみ食い≠ナしかないのか。苛立ちが胸から走り出る。そこまで思って、ふと疑問が湧いてきた。つまみ食い、でなければ良かったのか。たとえば。 男が、へし切長谷部を好いているとか、だったら。 思い浮かべてすぐに、それはない、と自分で否定を打ち出した。まさか、そんなこと。天地がひっくり返ってもあるまい。 「さあ、仕事は終わったし、寝ようか」 寝ていくんだろう? と首を傾げる動作は表情とちぐはぐに子供のようで、へし切長谷部にはそれを断るという選択肢を選べないのだ。 *** 何処へも行かないで R18 朝起きて、隣に誰もいない事実にいつだって背筋が凍りつく。見回して、部屋にも彼がいないことを確認して、長い息を吐く。 僕は、主人公じゃない。 だから好かれないことは、慣れていたはずなのに。 * 主人公、部屋、凍りつく *** きせかえ サラリーマンみたいなやつだな、と思った。ふと思い立って自分のスーツを着せてみただけなのに、こうも現代に馴染むのだから羨ましい。本人もそれを分かっているようで高慢の色をのせてくるのだから、可愛らしいなと思う。 「今日はこのままでいるか?」 「好きにしろ」 お前に従う、と最初から争いを放棄する、その姿勢さえも、なんて。 * サラリーマン、高慢の、争い *** 月のない夏 夏の終わりのことだ。約束していた花火大会は大雨で中止になり、着るだけ着たという浴衣を薄ら笑いで褒めて。そんなことで嬉しいのかと、思わず問うてしまった。 「嬉しいよ」 彼女の笑みは自分のものとは違って、ひどく濃厚で、 「だって貴方は、嘘は吐かないでしょう」 くらり、と眩暈がした。それを夏の所為にした、幼い日の思い出。 * 花火、大雨、夏の終わり *** 人の身を得ていろいろなことを知った。食事の取り方、畑の耕し方、昼寝をしたいという欲、清潔でいたい欲、戦い方や主への忠心は染み付いたように知っていたけれど―――そして。 「口を開けなよ」 人との、交わり方。 何でも良いのなら選択肢なんてないも同然だ R18 未だ良く分からないのは人の身のことではなく、目の前の男が何を考えているか、だ。 否、今やらされようとしていることについては分かる。へし切長谷部とて、そういった知識がない訳ではない。最初に戸惑った所為で、彼には知識がないように思われているようではあったが。 「歯を立てないようにね」 やわらかいともざらついたとも、どっちつかずの指がするり、とへし切長谷部の口端をなぞっていく。 男は決して乱暴にすることはしない。何処までもやわらかくやさしく、へし切長谷部に選ばせようとする。それが一つの主導権を奪う戦略だと、分かっていた。もとより選択肢のないところで自ら選ばせたように錯覚させ、この関係が同等だと錯覚させる。 分かっていても、へし切長谷部は示された選択肢の中から自らの行動を選ぶことを、やめる訳にはいかなかった。舌を伸ばして、形を確かめるように沿わせる。 「そう、上手」 まるで犬にでもするように撫でられた。 そう、男の中でへし切長谷部なんて存在は、そこいらの犬とそう変わらない存在なのだろう。言うことをきかないのならばそれで。男の中にへし切長谷部≠ヨの執着があるようには思えなかった。少なくともへし切長谷部自身は、そういうものを感じたことはなかった。この男はきっと誰でも良かった、自分である意味などない。そんなふうに再確認したら、なんだか無性に腹が立った。このまま噛み付いてやったら―――そんな思考は押し込める。この男のことだ、何らかの制裁を加えるだろう。それが、もしも主に危害を及ぼすようなものであれば、へし切長谷部は己を許せない。 ふいに、男が足を動かした。 「…ッん、」 「は、人のしゃぶって勃ててんの」 ぐり、と圧迫されるその下が、どんな状態なのか分からない訳がない。 「淫乱」 なんとでも、と返した言葉は肉に阻まれてくぐもった声にしかならなかった。気持ちが良いのか細まった目に少しだけ優越を感じながらじゅる、と吸い上げてやる。 慌てたように伸びてきた手を逆に掴んでやれば、口の中に苦味が広がった。 「俺を選んだのは貴方だ」 それを吐き出すこともせず、顔を上げる。 「だったら、淫乱である方が都合が良いだろう?」 こんなにためているのだから、と言えば、よく回る口だな、と笑われた。 *** 20161019 |