千里の道も一歩から 主くり 少しばかり審神者をやっている年月が長いくらいで表彰されてもな、とおれは思う。まあおれの刀剣男士たちに何かご褒美というか、そういうものをくれてやりたいとは思わなくもないし、あいつらもなんだかんだで食べ物について興味津々というのはもう知っているし、だからご馳走が出るなら、とおれはオーケーした。まあ政府のお偉いさんからしたら審神者長く続けてると良いことありますよ、というパフォーマンスをしたいだけだったんだろうけれど、つまりそれはおれでなくても良かったんだけれど、それを踏まえた上でおれの好きにして良いって言ってくれたおれの刀剣男士におれは報いたかったので、見世物になることを選んだ。 と、まあそれがおれが此処にいるいきさつであって、思い切り自分の判断なのだけれど。どうしても人間、苦手なものはあるもので。 あろうことかおれは人混みが苦手だった。だからパーティなんてもっての他で、でも、決めたのはおれだし今日の主役も一応おれで。他の審神者と戦略の話だとかそういうのをするのは苦じゃないのに、どうして人混みは苦手なんだろう。そんなことを思いながら、おれはそっと姿をくらます。とは言っても会場から出る訳にはいかないから、端のソファの後ろに隠れるだけだったけれど。 それに一番最初に気付いたのは加羅だった。騒がしい、と言わんばかりの表情で端に寄ってきた加羅は、疲れたのか、と視線を投げてくる。言葉にしないのはおれが此処に隠れてることを他に伝えないためだろう。おれの刀剣男士たちは気付いて貰っても良いけれど、他の来客に気付いて貰う訳にはいかない。おれは仮にも主催なのだから、本当はちゃんとしていなければいけないのだ。 「ううん、…思っていたよりも、人が多くて」 そうか、と加羅は視線だけで言った。 ソファの前に、燭台切の集団がやってくる。料理の話で盛り上がっていて楽しそうだ。おれのところの燭台切はいないらしい。だからなのか、加羅はソファの後ろに身を乗り出して来た。バレちゃうよ、と言えば光忠が壁になってみえないし、光忠たちは話に夢中だ、と返ってくる。確かに、その通りだっただろうけれど。 加羅の指先が、遊ぶようにおれに触れる。それがあまりにも熱くて、酔ってしまったような心地になる。おれは酔う訳にはいかないのに。 「から、あついよ」 おれの口から出て行った言葉はやっぱり酔っているみたいだった。それに気分を良くしたのか、加羅はもっと近付いてくる。指を、外して。 唇が、合わさっている。 半分だけ。 「から、」 もうおれの思考はよく分からない方向に回り始めていた。加羅がおれのことをそういう意味で好きなのは知っていたし、おれも加羅のことは好きだった。同じ意味。だから問題はないように思えるけれど。 人間と刀剣男士。 違う世界を生きるもの。その交わりはあまり、推奨されるものではない。例え、それがくっつけるだけのキスなんていう子供騙しのようなものでも。 「あつい」 なんで半分だけなんだろう、と思う。唇の端と端をくっつけるのが流行りとか、そういうことはないと思うんだけど。 理性、なのかな、とぼうっと思った。ぴり、と合わさっているところから更にあつさが走る。どく、と心臓が強く脈打って、おれのバイタル測定器が警報を上げようとした。これは審神者すべてがつけているもので、別に加羅と相思相愛になったからつけている訳ではない。それを伽羅は先回りで取り上げて、今の測定はミス、というボタンを押す。 「から、」 「もう、少し」 やっと聞こえた掠れた声はやっぱりいつもの伽羅と同じで、おれはそれを叶えてやりたくなると同時にこの心臓の鼓動が収まらなければ、と現実を見ることもする。未だ脈動は強く、次の警報は止められない。そういうふうに出来ていることをおれは知っているし、伽羅も知っている。 ぐっと伽羅が更に乗り出して来て、もう半分がくっついて。あつさはぴり、なんてものじゃあなくてびりびりに変わっていって。 心臓が、どきどきと煩くて、今にも死にそうで。目が眩む。周りが全部、見えなくなる。 「立古(りゅうこ)様! ってあああッ!!」 白ばんでいく意識は、おれのこんのすけがすっ飛んできて上げた悲鳴によって引き戻された。引きと戻されたついでに加羅も離れてしまって、ああ、勿体ないな、なんて思う。 ―――刀剣男士との、粘膜接触。 及びなんたらかんたら、というのは俺でも知っていたけれど、というかそういうのをちゃんと守っているからの表彰で、現実な本丸運営で、つまり、そういうことだったのだけれど。 伽羅は正座させられていた。いつもはこんのすけ相手だろうが好きに振る舞っている伽羅だから、今回は本当にやりすぎたという自覚があったのだろう。おれだって結構びりびりしてたし、バイタルがヤバいことになっていたし。こんのすけの悲鳴でおれの不調は会場に知れ渡ることとなり、パーティは主催抜きでおこなわれることとなった。まあ、おれの刀剣男士たちがうまくやるだろう。加羅の正座が外に出てからで良かった。 「加羅」 「…悪かった」 「あのね、すごく、びりびりした」 「…本当に悪かった」 「でも、嫌じゃなかったから」 おれの言葉に加羅はびっくりしたように目を見開く。 おれは知っている。だって表彰されるほどの審神者なのだ。人間と刀剣男士、その安全な交わり方を。 「だから、その。加羅がまだ、えっと、これ以上をしたいなら…ちゃんと上に申請するけど」 「…しても、良いのか」 「薬とか、いろいろあるんだって、今。…加羅が、おれとそういうことしたいって、おもってるって知らなかったから、言わなかったけど」 「…そう、なのか」 「どう、する?」 「…お前が、」 加羅の瞳は真っ直ぐだ。 「嫌じゃあ、ないなら」 「嫌じゃないよ」 「なら、…よかった」 おれの経過を見ていたこんのすけが盛大なため息を吐いた。立古様に悪影響が出ないように少しずつですからね! という言葉は加羅には聞こえてないんだろうなあ、と思ったので、それはまた、おれの方からちゃんと伝えようと思った。 20191221 |