背骨の数 へしかり

 同じだよね、とにっかり青江が言って何のことだと問う前に背骨をつうとなぞられた。まるでそのくぼみの一つ一つを丁寧に数えるような、それでいて本当は興味のないような、どこか浮世離れした触れ方だった。
「背骨の話か」
「ああ、うん、そう。突然ごめんね」
「いや、別に。気になることでもあったのか」
「特に理由はないんだけど、同じ数なんだなあ、って思って」
 既に夜も遅い。夜間の出陣も今日はない。だからあとは眠るだけだった。武装でもない、武装解除でもない、普段着でもない。殆ど一枚羽織っただけのような姿でも、この身体は特別暑い寒いなどを感じない。なので薄い布越しのにっかり青江の指先はありありとその存在を主張している。
「僕らは元々鋳型があるようでないのに同じような形に収まるじゃないか。それは人間の身体も同じなんだなって思って。不思議じゃないかい? 僕らの場合は人間が手を加えて整形しているのもあるけれど、人間はそうじゃないのに」
「言われてみれば確かに不思議だな。しかし、俺たちが少しずつ違うように人間だってまるきり同じという訳じゃないだろう」
「まあ、確かにまるきりという訳ではないかもしれないけれど」
髪の色や目の形、身長や肉の付き方。それをきっと人間たちは成長の過程で身につける部分もあるだろうが、最初から決まっている場合だってあるはずだ。
 にっかり青江は少しの間ううん、と唸って、それからああ、と人差し指を立てた。
「まるでクッキーの型で抜き取ったみたいじゃないか」
「ペファークーヘンか」
「歌仙くんが結構気に入ってるんだよね、アレ。燭台切くんはメインに掛り切りみたいだし。細やかなものが好きなのかな」
「それを言うならお前もだろう」
バターの香りがする、と言えば戦いの道具なのにね、と笑われた。
「ペファークーヘンも厚みや、抜く時の衝撃で曲がったり、配合が均一でなかったりするだろう。それは所謂個性というものになるんじゃないのか」
「僕らが女の霊や小坊主を斬ったように?」
「それはまた話が違うだろう」
「そうかな?」
「そうだろうさ」
「何の話だっけ」
「さあな」
笑うとまた背骨を指が滑っていく。くぼみを緩やかに降りていくそれが、どうにも寂寥の象徴のように思えて、それで。
「…お前の背骨は、」
「うん?」
「一つ少ないんじゃないのか」
「まさか」
「絶対ということはないだろう」
「多いってことはあっても少ないってことはないんじゃないのかい? だって、そうでなくっちゃ、僕らは美しいと思ってもらえないだろうから」
「多い方が美しい訳でもあるまい」
 へし切長谷部はその背骨の数を数えない。
「少ない方が愛おしいと、そう思うことだってあるだろうさ」
同じ数字をその指が叩き出すことを、ただひたすらに嫌悪しているから。



短夜に美しい声をして誰か無性の背(せな)よりぼくを愛せよ/モイラの裔
松野志保




20180223