此処は残酷な戦場 鶴+審神者 *審神者の性別等は好きにご想像ください 夢を、見る。 それはこうして人の形を得たからなのか、それとも主とこうして言葉を交わすことが叶ったからか。多くの刀たちはそれを喜び、満喫しているようではあったが。人間のことは知っていた、こうして形をとる前々からその営みを見ていたのだから。恋い焦がれまではしなかったけれども、一体あれの中に入ったらどういった気分になるのだろうと、まだ心だとか呼ばれるもののみの存在であった頃から、興味はあった。 あったが、しかし。 頭を抱える。夢の中で、鶴丸国永は人の形をとっていた。それは別に可笑しいことではない。今は戦のために付喪神として人の形を与えられ、正しい過去を守るために戦う日々の中に身をおいているのだから。問題は、その状況だ。服も着付けず、鶴丸国永は己を顕現させた審神者―――主を、抱き締めていた。鶴丸国永の腕の中にいる主もまた、抱きしめ返して来ていて、その腕の白さに目が眩む心地になった。吸い寄せられるように首筋に縋り付いて、そこへ、一つ。 一度。 一度だけ、傷付いたこの身を抱き締めてもらったことがある。闇に沈みそうになる意識の中で、鶴丸国永と、与えられた名前を呼ばれたときの、胸のざわめきようを。まるで、その瞬間に呼ばれるために生まれてきたような、そんな心地さえした。 あの時、呼ばれなかったら。今でもぞっとする。じわじわと、身体が黒に侵されていくような、そんな冷たさを。呼ばれなければあの闇の中へと心を囚われて、もしかしたら、自分を差し向けていたかもしれないなんて。恐怖というものは永続すると、言っていたのはきっと主だった。だからこそ人間は進化し発展を遂げ、結局はそれが今の争いを作り上げているのかもしれないと、そう笑って。 「………寒いな」 布団を押しのけて立ち上がる。寒暖の差など刀にとってはそう関係あるものではないものをいちいち気にするのは、主が人間であるからか。 城はしん、と静まり返っていた。月が高い。 「鶴丸国永?」 しんとした夜に目を閉じていると、ふいにその声で現実へと引き戻された。 どうしました、とこちらを窺うのは先ほどまで鶴丸国永の夢の中にいた人間だった。どうして、と思う。これはまだ、夢の続きなのか。 「刀にも眠れないことがあるらしい」 笑いながら、思わず自分の服装を確認してしまう。しっかりと、着ていた。主もまた、しっかりと着込んでいる。鶴丸国永よりも着込んでいるように見えるのは、やはり、人間であるからか。 主は静かに、寒くはないのか、と問うた。寒い、とは言えなかった。大丈夫だ、と頷く。それでも冷えるのは良くないことだと、部屋へ戻ろうと促すその唇に、それもそうだと立ち上がった。ひゅるり、風が吹き抜けていく。 もしも、あの時。名など呼ばれなかったら。あの闇の中へ、救い出されることなく落ちていったら。己が、その白い首筋を斬り裂いたのだったら。また、他の人間がその代わりをするのだろうか、違う人間が、また鶴丸国永の名を呼び、人のような身体を与え、自身を握らせるのだろうか。それは。喉が焼けるような心地がした。誰か他の人間が、そう思うだけで胸を掻きむしりたいほどの衝動に侵される。それは、もう。唇を彩ったのは自嘲の他にあったのか。 恐ろしいほどの執着は、既に神の名を冠することすら烏滸がましいと。 手を伸ばす。どうせ、烙印を押されるのなら、この人間が良い。 「鶴丸国永?」 ふいに、振り返る。中途半端に伸ばされた手が、力を失う。どうしました、と笑うその人は、もしかして気が付いているのだろうか。そうであればなんて悪趣味なのだろう。 「埃がついていたんだよ」 もう取れた、と嘘を吐くと、そうですか、とまた首が元の方向へと戻っていく。背中をこうも、警戒なく向けられるのは信頼の現れか、それとも誰にでもこうなのか、問うことはしない。 鶴丸国永は人間ではない。ただの一振りの、刀。この戦が終われば元のなにもなかったところに戻るだけの、仮初めの神。人間では、ない。人間には、なれない。幾ら、彼らのことをしろうとも、神は神で、人間にはなれない。 前を行く主の、その首筋は白く透き徹っていて、鶴丸国永が夢の中で付けた鬱血など何処にも存在はしないのだ。 * (残酷でない戦場などがあるものか) image song「修羅場」東京事変 20150218 20171102 改定 |