名前も知らぬ国へと手と手を取り合って 

 ただのアンケートと言われればそれまでだった。しかしながら必ず提出するように、と書かれたそれは、正直まずい案件なのでは、と思われた。
 自分の刀剣男士の中から一振りを選び、縁を深めそのレベル上限を取っ払う。仮名にはユイノウカッコカリと書かれていたが他に案はなかったのだろうか、それとも本当にアンケートであるから、それらしい名前は必要ないのだろうか。
「だから困っているんだ」
下手なことは書けないと、しかしながら自分だけではこの答えを出すには足りないと、近侍である蜻蛉切を呼んで、事情を説明した。兄のことを聞かれたので既に相談課には連絡済みだとも言う。
「とは言え提出期限もあるし、提出しないとペナルティが課されるときている。最終日まで粘るが…答えを用意しておかない訳にはいかないだろう」
だから君たちを呼んだ、とその書類を出す。
 あまり触れ回るような内容ではないと思った。だから近侍である蜻蛉切と、呼ばなくても来るだろう鶴丸国永のみに留めたのだ。この先誰かの名前が上がるのなら、当人も呼ぶつもりはあるが。
 鶴丸国永は書類をじっくり検分してから、これ事態は普通の紙だな、と言った。術の痕跡もとりあえずは見えない、と。ならばやはり本当にアンケートなのだろうか。
「戦力増強…と単純に見れば…今うちで一番ステータス高いのは三日月だったかな」
「合計値で考えると三日月殿でしょう。しかし、他の天下五剣との交渉も進んでいると耳にしますが…」
「三日月以上が出て来るかもしれない、か…」
「いっそのこともし実装されたらその時一番ステータスの高いものを選ぶ、と書いたらいけませんか」
「その方が現実的だなあ…」
「いやいやまてまて」
真面目に話をしていたところに待ったをかけたのは鶴丸国永だった。
「仮とはついているが、つまり夫婦になるということだろう? ならば戦術的な面だけでは選ぶものでもあるまい。性格的な相性も、鑑みなけりゃ…待つのは内部崩壊じゃあないか?」
「…そういうものか?」
「…そういうものですかな?」
「………君たちは実は似たもの主従なんじゃないか?」
そうか? そうでしょうか? と顔を合わせると鶴丸国永はため息を吐いた。



 ならば性格的な相性とは、と話し始めたはいいものの、結局そう言ったものは客観主観とてつもなくかけ離れたりするものだ。主従としては上手く行っている関係でも、それが夫婦へと形を変えれば話は余計にややこしくなるもので。
「もう三日月で良くないか? 三日月なら基本的に人間はそうか三日月か仕方ないな≠チてならないか?」
「君の言いたいことは分かるが基本的にあいつは相手のことなんか考えない奴だぞ」
「それは流石に三日月に失礼じゃあないか…?」
こんな感じで一向に進まない。
 見かねたのか、しばらく前から会話に入ってこなかった蜻蛉切が小さく手を上げた。
「鶴丸殿は立候補しないのですか」
「俺?」
蜻蛉切の言葉に、鶴丸国永は目を丸くする。そういえば、一度も会話にはあがらなかったし、そんな選択肢があることも忘れていた。
「俺は…」
 けれど。
「…どうだろうな。俺は、無花果が終わる時まで一緒にいたいとは思うが…それが恋や愛かと問われると、違うと言えるんだ」
その答えはとうの昔に知っている。
「君にこの身の、この生命の、この心のすべてを捧げたい。でも、それを俺は恋や愛とは呼べないんだ」
「奇遇だな、私もだ」
そうして笑い合う私たちを蜻蛉切にため息を吐いた。

 結局書類は埋まらなかったが、後日そのアンケートには答えなくていいと、そう正式に通達されたので何かしらの不備があったのだろう。



20170321