![]() 一世紀後の君がどうか不幸でありますように 君のいない未来なんて、と鶴丸国永が笑うのを私は止めることは出来ない。 この関係をきっと人に言えばそれは恋だと勝手に判を押されるのだろうけれど、私はやはり違うと思っていた。私と鶴丸国永の関係はどうやったって主従のそれであり、私が主で鶴丸国永が従う側であるのも変わらない。それが少しばかり規定範囲を越えているのは自覚しているが、それでもこれは恋ではあり得ないのだ。恋というのはもっと、人間じみていなければならないと私は常に思っている。私の価値観であるからして、それを真っ向から否定されれば頷きはするが納得はしないだろう。 そもそも、これは別段責める意味合いはないが、私の周りには恋なんてものをしている人間が少ないのだと思う。兄もそうであったし、最近知り合いになった砂尾もまたそうだった。彼は彼でまだ私よりも恋とやらに近い場所にいるように見えたが、所詮それも見えるだけの話だ。 刀剣男士は人間にはなれない。 そんな夢のないことを言うつもりはなかったけれど。 「俺を必要としない君なんて、ああ、考えるだけで涙が出るぜ」 * 朝は来ない @asa_k_bot *** ![]() 静かに眠れたら それだけで幸せ 人間だったら夢なんてものを見たのだろうか、と鶴丸国永は呟く。大抵こういう時は答えを欲していないので私は何も返さない。 「他の奴らと話したことはないから俺だけなのか俺たちなのかは分からないが、夢というのは庭のようなものであって、眠っている時に見るものという印象は薄いんだ。眠っている時に出歩くちょっとした軒先、の方が近いんだろうか。ご存知の通り、眠りというのはこの肉の身体に馴染むための第一手段でしかなく、その気になれば延々動いていることも可能ではあって、だからこそそんな印象なのかもしれないが」 食事は力の摂取に繋がるが、睡眠にそれ以上の意味は見いだせない、と笑う鶴丸国永はもうその話題に飽きたらしかった。 「鶴丸」 「何だ、無花果(いちじく)」 「目を閉じて」 「主の仰せのままに」 ぱちん、と電気を消す。 習慣のようにすう、と眠りに入っていった鶴丸国永に、私は同じように目を閉じた。 * (だって彼処は、とても煩かった) * 青色狂気 @odai_mzekaki *** ![]() 半分ずつがお似合いの僕らは 主従は三世、というらしい。そう呟いたのに他意はなかった。ただ聞いた知識を誰かに聞かせたい、表すのならばそういった心持ちだったのだと思う。 「なるほど。じゃあ少なくとも次の世も君は俺を傍に置いてくれるんだな」 そんなことなのにあまりに彼が心底嬉しそうに笑うので、私はただ、涙が出そうになるのを堪えるしかないのだ。 * 月水面に乱反射して。 http://lyze.jp/outou03/ *** ![]() 息絶えるまで待って 仮にも神と名のつく存在であるからか、しようと思えば神隠しなんてことも出来るようだった。鶴丸国永自身は己の主を何処かへ隠してしまおうなどとそんな勿体無いことは考えていないのだが、世の中にはただひたすら自分のものだけでいて欲しいと願うものたちはいるらしい。 ―――それは、あまりに人間らしい、な。 人間らしい理由で断食なんてことをしてみた鶴丸国永が言うことではなかったかもしれないけれど。 近侍に蜻蛉切を据えて今日も仕事に励む彼女は鶴丸国永の自慢だった。ながく傍にいたいと思いこそすれ、手放したくないと思いこそすれ。 独り占めしたいという感情はやはり、分からないままだった。 * (この少しでもわいた人間のような部分が) * 一番星のくちづけを @firststarxxx *** ![]() 窮屈な靴に詰め込んだ足 愛してほしいと、それだけで終わる関係なら良かったのかもなあ。 主である人間に半ば寄りかかるようにしてその豊富とは言えない霊力を摂取しながら、鶴丸国永は呟く。分霊には個体差があるとは言え、自らのあまりに神然とした態度を一部の人間が好ましく思わないことは分かっていた。名前に神と付けたのは人間だろうに、可笑しな話だとは思ったが。 「君が愛おしくてたまらないと、それだけなら兄上も苦労はしなかっただろうか」 「さあ、どうだろう」 そうであった場合も君はなんだかんだで兄さんに苦労をかけそうだ、と彼女は笑う。 人間は儚い。すぐに死んでしまう。 鶴丸国永はそれを、分かっている。 「それもそうだな」 だから鶴丸国永はそれだけを返した。 いつか来るいつかのことは、そのときに考えたらいい気がしていた。 * ほのぐらき靴はき帰りゆく君の二つめの扉(と)の鍵をください / 江戸雪 *** ![]() 来世の話をしようよ(僕と君とならきっとあるよ) 約束をしようか、と彼女が言ったのは一度きりだった。 「君、そんなことを言って良いのかい」 「良いだろう、つるなのだから」 「鶴丸国永なら誰でも良いと?」 「違うさ、私の君だからだよ」 既に最後の線の前だった、繋ぎ止めるこの糸を断ち切れば彼女は人間のままでいられるが此処からはいなくなり、引き寄せれば此処にはいられるが彼女は人間のままでは いられなくなる。 彼女は前者を望んだ。 中には数振り、諦めきれないものもいるようだが、彼らが何をしようとも鶴丸国永は彼女の願いを叶えるつもりでいる。そもそも彼らとて諦めきれないだけであり、彼女の願いを邪魔しようなどとは誰も思っていないのだろうが。 「…どんな、約束だ」 「クレープをね、食べに行こうと思って」 「クレープ」 どうしてその選択だったのか、鶴丸国永には今でも分からない。 「クレープと限定してしまうのはだめか。まあ、甘いもの…だな。そういうものを食べに行こう。きっとだ、つる、約束だ」 小指の温度は分からない。もう動かないのかもしれなかった。 「私が誰にもしたことのない、君だけの約束だ」 * いつか詩がすべて消えても冬鳥のあなたに挨拶を残したい / 堂園昌彦 *** ![]() 君がいないとだめなんだ ぽつり、ぽつりと歌が浮かぶ。口ずさんで歌がうまいんだな、と笑う人間はもう居ない。 「わたしが みてる みらいは ひとつだけ ………」 君だって歌えば良いさ、いや私は音痴だから、とそんなやりとりももう出来ない。 「えいえんなど すこしも ほしくは ない ………」 物音がしてふつりと歌は止まった。 振り向けばばつが悪そうに男が立っている。 「お前でも歌ったりするんだな」 「そりゃあな。お望みならもっと歌うが?」 「別に良い」 「これは大和守のやつがやっていたゲームの主題歌なんだが、主のようだとやつが言っていてな。聞かせてもらったら覚えちまった」 彼女もまた、一秒一瞬を愛おしく思ってくれていたのなら。 少しでもあのさよならに関して、寂しいと思ってくれていたのなら。 * 寂しさをごまかすための鼻歌を君に聞かれてしまった放課後 / 黒木うめ song by「色彩」坂本真綾 *** ![]() 陰鬱の悪夢 夢を見るんだ、と鶴丸国永が主に零したのは真昼間のことだった。季節は夏、強い陽射しに日にあたって大丈夫なのかと初期刀などはからかってきたものだけれど。それも鶴丸国永の顔色の悪さを案じての言葉だったのだと分かっていた。 「夢」 主は繰り返す。 「ああ、夢だ。夢の中で俺は君を探している。でも、何処を探してもいないんだ」 「いない…」 「ああ。誰に聞いても君のことなんか知らないと言うし、何を言っているのか分からないという顔をするんだ」 「まるで予知夢みたいだな」 「そんなことは言わないでくれ。そうなってほしくなくて君に話してるんだ」 「悪夢は人に話せば現実にはならないのか?」 「ああ」 「そうか」 それから少しだけ悩んで、主は問うた。 「こういう時は慰めたりするべきなんだろうな。どうしたら良いんだろう。君を撫ぜたりすれば良いのか? それとも抱き締める?」 「ありがたい申し出だが、今は遠慮しておくぜ」 口角がうまくあがっていたかは分からない。 「君から今何かをもらえば、この悪夢を渡してしまうことになりそうだ」 * ねえあのさ きみの体の底にある沼を飲み干してあげようか? / 河蔦レイ *** ![]() 世界でいちばんきみだけの 髪を伸ばした方が良いんじゃないか、と言われてはて、と思った。 「これでも伸ばしている方だと思うんだが。足りないだろうか」 「長ければ長い方が良いさ。髪も身体の一部だからな」 「分かっているから一応これだけ伸ばしているんだが…」 髪というのは長いこと身体の一部であることが出来るし、簡単に切り離すことが出来る。それは兄から教わったものだし、それに意味があると分かってやっている、のだが。 「まあそれに、」 鶴丸国永の手が伸びてきて、髪を梳いていく。 「もっと長い方が君には似合う」 * 花あんず髪にふるふるこの星のたったひとりを思う夕暮 / 松野志保 *** ![]() 一歩、二歩、あと幾つ 春が来る、と誰かが言っていたのを聞いていた。鶴丸国永が身体を得てから初めて体験する春だった。 「君は春は好きか?」 「好きかどうかと聞かれると…分からないな。ああでも兄さんの誕生日があるから、プレゼントを考えたりするのは楽しい」 「兄上は春生まれなのか」 「そうだよ」 「俺からも何か贈ろう」 「………それは怒られるんじゃないか?」 「大丈夫だ、例え差出人が俺でも絶対に棄てられないようなものを贈ってやる」 「いや、そういうことを言ってるんじゃないんだが…」 まあいいか、と興味をなくしたらしい彼女に彩再度問う。 「春は、どんなだ?」 「春は―――あたたかいよ」 「君より?」 「それは確実に」 「はは、それは楽しみだ」 そう言ってから鶴丸国永は彼女の肩に頭を預ける。 「それなら、君もあたたかくなれるな」 「―――ああ、そうだな」 * もう空だって碧くはないんだ。桃色のペラペラの寒天でできているんだ。 宮沢賢治「若い木霊」 *** 20161019 20170416 追加 |