出陣前 

 いつも迷惑を掛けてすまないと、隣にいた主に言われると加州清光は何をそんなこと、と言った。
「気にしてないよ」
「けれど、迷惑を書けているのは事実だ」
「まあ、そうかもね」
普通であればきっとこんなことはしない。だから、主が謝りたがるのも無理はない。その辺りの機微を加州清光はもう分かっていた。
「蓬莱さんから頼まれてるし。アンタを支えてって」
「…兄さんは、全く…」
「そんなの頼まれなくてもするけど」
 ああ、この瞳のきらめきが余すことなくこの人に伝われば良いのに!
「俺はアンタの初期刀で、アンタは俺のたった一人の主だよ」
例え薄暮の終焉が避けられないとしても、加州清光は彼女以外を主と仰ぐ気はなかった―――そう、知っている。この関係は長くは持たない。
 だけれど、加州清光はこの瞬間を大切にしたいと思う。
「どんな理由で俺を選んでくれたのでも、俺が主の初期刀だってのは変えられない事実なんだからね」
「…〝赤かったから〟、でも?」
「ええ!? そんな理由!?」
思わず声が上がったが、一緒に溢れたのは笑みだった。
「でも何で? 主、赤好きだったっけ?」
「それなりに」
「じゃあ他の理由があるんだ?」
「赤はね、勝利の色だなって」
まっすぐ前を見据える彼女は、きっと子供で居られなかったのだと思った。
「そう思っていただけだよ」
 そのしゃんとした背にしっかりと着いていく。
「じゃあ今日も主に勝利をもたらしますかっと」



20170416