口約束で安寧が買えるなら 

 「私の世界が終わる時はやっぱり君の傍が良い」
そんなことを零されたら、いよいよだめだという実感が湧いてきた。
「君の傍で…そうだな、最期なんだから、褒めてくれたら嬉しいと思う」
「君、そんなもので良いのか」
「愛の言葉をねだるような関係ではないと自負しているからな」
「はあ、君というやつは…」
彼女が起き上がることが出来なくなったのは、鶴丸国永が長いことしていた供給がやめたからだった。彼女たっての希望で、ぎりぎりまで粘った供給は、彼女が人間でなくなる手前でやめることに決まった。今彼女は、残り滓のような生命を使って、やっと目を開けている。
 終わりはもうすぐ其処だった。
「なら君、約束だ。俺が褒め終わるまで終わるんじゃないぞ」
「もしかして、たくさん用意してくれるつもりか」
「馬鹿を言うな。用意するまでもなく、褒めるところなんて君にはたくさんあるんだ」
彼女のこの癖は結局そのままだった。過小評価をしている訳ではないのに、褒められることがないと思っているのだ。言葉にしてくれるようなものはいないだろう、出来て当たり前と思われているだろうと。
 それを悲しいと言うのだと、もう鶴丸国永は分かっていた。
「他にはないのか」
「…そうだな、手を握っていて欲しい」
「手だけで良いのか」
「抱き締めても欲しいかな」
「ああ、分かった」
随分人間らしい要望だった。可愛らしい要望だった。唯一の主である人間が、此処まで愛おしく思えることなど、きっともうない。
「ありがとう」
 彼女は笑った。ただの口約束に、何の力もない、口約束に、目一杯の笑顔を見せた。
「それで、きっと私は終わる時、一番幸せでいられるよ」



20170416