混沌を極める 

 検非違使、というのが一体どんな存在であるのか。それを研究するのは別の機関であって、勿論その研究結果はこちらにも共有されるものであるからその点は心配ないのだけれど。研究する方だって人間なのだからそれはそれとしてレポートというか報告をあげられるようになるまで時間がかかるし、向こうだって研究施設であるので諸々の研究結果の外部持ち出しには相当な手間がかかるとも聞くし。
 その辺りは理解している、セキュリティ上の問題があるのだから仕方ない。何処に敵が潜んでいるのかも分からないのだから尚のこと。
「報告上がったら叩き起こすから、みんな一旦寝なさい」
課長からそう言われては、元から夜勤であった人間以外は其処に残るのも許されない。まあ、現場職員よりもオペレーターの方が参ってそうなので、少しばかり調整が入るのだろう。刀剣男士が相談受付をするのは審神者からしたら少々ハードルが高いらしいので、高性能ボイスチェンジャーがとうとう導入されるのかもしれなかった。きっと課長はこういう時のために、課に所属する刀剣男士にもオペレーター業務の研修を義務付けていたのだろうし。まあ、勝手な妄想なのだけれど。
「蓬莱」
「あ、はい。仮眠室行きます」
「うん。ちゃんと寝るんだよ」
 その声はひどくやさしいものなのに何一つ抗えないものがあって、ただもう一度はい、と言うしかなかった。

***

AM2:50 

 寝てますか、と部下の声がする。だから寝ている、と返す。
「結局なんで俺たち此処で寝てるんでしたっけ」
「立て込んでたから」
「なんで立て込んでたんでしたっけ」
「生卵ぶつけられたから」
「なんで生卵…」
「そろそろうるせえ」
「だってえ、眠れないんですもん」
「目を閉じて深呼吸してるだけでも変わる」
「蓬莱さんでもそんなこと言うんですね」
「課長も言うぞ」
人間の身体というのは存外簡単に出来ているから騙すのもそんなに大変なことじゃあない。この部下だって馬鹿じゃあないから分かっているだろうに。そんなに話し相手が欲しいのか、それならカウンセリングにでも行ってくれ、と思う。
 冷たくないですかあ、と間延びした声で言う部下に、蓬莱柿が返す言葉は一つなのだ。
「うるさいのはうちのだけで充分だ」
それに、一瞬静寂が訪れて、それからハァ、とため息が齎された。
「蓬莱さん、そんなんだから、ミキちゃんとデキてるって誤解されるんですよ」
「別に事情知らんやつに何思われてもな」
「そりゃそうですけどー」
まあ分かんない人には分かんないですよね、という言葉にはもう何も返さなかった。
 拾いきれなかった生卵のことがやけに頭から離れなくて、その日は必死に卵かけご飯を掻き込む夢を見た。



[helpless] @helpless_odai

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20190922