だれが神様が善人だなんて言った 

 花林果の和泉守兼定を借りたい、という緊急連絡が来て特別にショートカットゲートが開かれたものだから勿論楽観視などしていなかったけれど。
「…どういう状況だこれは」
本丸に繋げた、と聞いていたのに辺り一面花畑だった。
「所謂神域ってやつ?」
「前から思っていたがオレたち刀剣男士に神域ってあるのか」
「個体差ってやつだろうなあ、そこは。神域って思っているものを持っている刀剣男士はいるさ。ただそれが本当に神域かどうか、っていうのは議論中」
「…名前を付ければ存在する、みたいな話か」
「まあそういうこと」
だから此処は一応本丸だしオレは断固として本丸と呼ぶ、と先程神域と零したとは思えない口調で男は言った。まあ、この男と組むのも初めてではないし、大体の性格は掴んでいたから何を言うこともしなかったけれど。
「主(ぬし)はこっちで叩くから、和泉守兼定、お前はどっかにいる審神者を探し当てて」
「違う空気を辿れば良いのか」
「まあそういうこと。こっちは主(ぬし)叩くからそれより早くね。あと、」
 男が極力、と言ったような優しい声を出す。
「言葉に合わせてやって」
もう、その時点で嫌な予感しかなかった。

 微かな違和感を辿って行く。何処までも延々続くように思えた花畑の中で、行き止まりだ、と感じた場所。其処に手を入れるとべり、と何かが剥がれるような感覚があった。此処だけテクスチャが上書きされている。
 まるで生け垣に空いた穴を取り急ぎ修繕するような遣り方だな、と思いながら入ると、その先もまた花畑だったが手前よりもずっと花の香りが濃くなっている。
 そして、その先に。
「和泉守!!」
こちらの姿を確認した此処の審神者・庚申(こうしん)が走ってくる。そして縋り付くように和泉守兼定に手を伸ばす。
「良かった、折れてなかった………」
 その身体を支えながら、もう抱き締めるだけの力がないのだろう、と思った。それだけ消耗している。ならば、さっさと此処から出してやらねばならない。こういう場での消耗は、そのまま生命の消耗に繋がってしまう。幸い主(ぬし)は蓬莱柿が叩いてくれるらしいし、言われた通り話を合わせたまま脱出させるのが良いだろう。
「あの子が見せた嘘なんだね!? ほら、僕は信じていた、うん、信じていたよ…和泉守が、折れる訳ないって」
「当たり前だろう」
和泉守兼定はこういう時にする表情をもう知ってしまっていた。
「オレがそんなヤワな刀に見えるかよ」
「見えないよ」
「な? ほら、強くてかっこいいオレに早く着いてこい」
「うん」
 審神者は、自分の顕現させた刀剣男士の見分けがつく。他の刀剣男士はともあれ、自分の顕現させた、自分と契約している、自分の霊力の染み付いた刀剣男士を見間違えるはずがないのだ。それは当たり前のように知っている事実だった。
 だから、つまり、そういうことなのだ。
 手をしっかりと繋いで、背中を支えてそれから歩き出す。
 彼の未来に彼の和泉守兼定がいないことを、感じさせないように。



少女Aの悩み事
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20190328