希望と言う名の光を通して彼は私を見ていないんだ 

 山姥切国広は自身の主をとても美しい人間だと思う。それは見た目の話ではなく、いや見た目も恐らく美しいのだがそれは刀剣男士のものとはまた違ったものだから置いておいて、心の在り方の話だった。主として、否、きっとこれは人間としてだ。とても美しいその人を、山姥切国広はこの上なく尊敬していた。そしてそれと同時に、心配、してもいた。
 山姥切国広の主はとても、同じ人間からの悪意に弱い。
 だから山姥切国広は汚いものになろうと思った。別段元から刀剣である自身の手は血で汚れているものであったのかもしれないし、それを誇りに思う気持ちもなくはなかったのだが、それでも彼女の元に下りた山姥切国広は、武器に似つかわしくないこの想いを大切にしようとそう決めるのだ。



Alice @xxxxx_Alice

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君がいたから、冬 

 美しい、と最初に見た時に思った。審神者という職業の重要性は充分に理解していた。そして西園家から自分が出ることの意味も、また。けれども幾ら見目麗しいとは言っても、神様のような存在である刀剣男士を従えるというのはひどく重圧だった。特に家のことがあるのだから余計に。
 弟も適正はない訳ではないようだったが、それでも私と比べたら天と地だったらしい。嫁入り前なのに、と弟は言ったが、その点を私は気にしていなかった。誰に嫁ぐかも決められない世界だ。ならば私が何をしようと、名前に男≠ニ入るものの真っ只中にいようとも、変わらないと。
 そうして敵陣の中に突っ込むような気持ちで挑んだ初期刀選びで、私は息を失った。
―――美しい、と。
そんなことを思ったのだ。刀剣の本尊の多くが宝として保管されていることは知っている、けれども私はその美を理解することは出来ないのだろうと思っていた。けれども彼を、彼の本体を見た瞬間に、ああ、と思ったのだ。
―――私は、この美しさを後世へと遺すために戦うのだ。
 そう思いながら刀剣に触れると彼は顕現して、最初の名乗りをしたのだった。



残像のごとく静かな初雪にわれの言葉は吸い込まれゆく / 花山周子



@line1theme

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「愛してる」とか叫んでみたり 清燭

 加州清光は何となく知っていたがこの本丸に顕現された燭台切光忠は少々鈍い。否。訂正しよう、大分鈍い。というか恐らく燭台切光忠で平均値を取った時にその情緒が大分平均値を下回るに違いない。末っ子気質とでも言えば良いのか、精神年齢が普通にしていると中学生くらい、というか。なんというか。
 燭台切光忠にゆかりのある刀剣男士に聞いてみても、まあそういうこともあるんじゃないかと返されるだけで加州清光の糧には一向にならない。勿論反対されている訳ではなく、本人たちの問題だと黙認されているだけなのであるが。それはそれで嬉しいが、協力が得られないのもなかなか手強い。だがしかし、そもそも周りの前に本人が全く、まーったく、加州清光の気持ちには気付いていない訳で。もっと何か行動をしなくてはいけないのだ。もっと、何か、直接的な。
 そう、例えば。



喉元にカッター
http://nodokiri.xria.biz/?guid=on

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歌い女に花束を 

 ひとりぼっちが嫌だったんです、とその人は言う。ひとりぼっちだと、お前が悪いからだと世界に言われてるみたいで。
「誰もそんなこと言っていないのに、目をあわせた人すべてがそんなことを思っているんだって思っちゃって。こういう考え方するからだ、って思うのに、それでも。だから私は私を、愛してくれる刀剣男士に縋ろうなんて馬鹿なことを」
これだって懺悔だ。褒められて、嬉しかったのに。どうしてすぐに試すような行動をしてしまうのだ。
 施設でもよく話す。過去は過去で確かに私の要素だけれども、それは別に人に言いふらすようなことでもない。つらいのであれば、恥ずかしいのであれば尚更。自分の価値を自分から下げるようなことはない。もしもこれから先に過去も知ってほしいと思うような人が現れたら、その時に改めて話をするのでも良い、今はただ、誰にも言わなくても。
「彼らの愛がどういうものなのか、私は確認もせずに押し付けようとしてたんだなあって思って、悲しくなって、馬鹿だなって。でもそんなこと、って笑って、これから分かっていけば良いよって言ってくれて、こんな馬鹿な主でも、私を支えてくれるんだって思ったら、ちゃんとしなきゃって」
―――刀剣男士が、ちゃんと貴方を見ているから。
「ちゃんと出来ているのか、怪しいですけど」
ああ、ほら、また自虐をして遊んでいる。ひどい遊びだ。人を、巻き込んで。
「出来てますよ」
 頬を打たれたような気分だった。
「貴方は肯定してほしくて言ったのかもしれませんけど、私はそういうの抜きで、貴方がちゃんとやっているんだと思います」
静かな声。ずっと年上の彼は静かに、穏やかに、そう言ってくれた。
「だって、言うでしょう」
微かに笑って。
「刀剣男士は審神者の鏡だと」
 私の目から流れた涙を意味を、彼は聞かなかった。
「貴方の刀剣男士は私には輝いて見えました。貴方の話を聞いたあとでも。それが私から見える答えです」
私もそれが正しいと思った。



孤独な愛の育て方 @kimi_ha_dekiru

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こっちを向いてよ王子様 清燭

 加州くんは主の監査に付き合ったんだよね、と突然燭台切光忠が振ってくるものだから加州清光の心臓は止まるかと思った。主が今回監査対象になり、少ないながらも罰則を受けたことは本丸中に知れ渡っていたし、近侍として主の身の回りの補佐をしている加州清光が、今回の監査に付き合ったことだって勿論だ。だから燭台切光忠が知っているのは別に不思議でもなんでもない。ついでに言うなら流石にどうかと思った初期刀の山姥切国広が、本部に出向する時だけでも近侍を代わろうかと申し出てくれたのを断ったことだって知れ渡っているだろう。半ば意固地になっている加州清光の行動に、疑問を覚えた刀剣男士はいくらかいるだろう。加州清光の行動が、純粋に主を支えたいだとかそういうものだけではないことも、それこそ古参の刀剣男士であれば気付いているだろうとも思う。山姥切国広も分かっていて、それで申し出をしてくれたのだと思っているし、素直にその気遣いには感謝している。
 だが、この本丸におけるベスト・オブ・ニブチンである燭台切光忠にまさかその話題を振られてるとは思っていなかった。そういえば燭台切光忠も巻き込まれた当事者ということで別個に施設へと呼び出しをされていたが、一応は何が起きたのか詳しいことは知らないというふうになっている加州清光に話題を振るというのはないだろうと思っていたのだ。
 加州清光が固まっていると、大倶利伽羅に聞いたんだよ、と付け足された。予想外に予想外が重なって、燭台切光忠全体の統計では大倶利伽羅のことを伽羅ちゃん≠ニ呼ぶことが多いのに、この燭台切光忠は大倶利伽羅と呼ぶんだよなあ、とどうでも良いことを思い出した。ついでに呼び方おかしいのかな、変えた方が良いかな、と泣きべそをかいていたことも思い出した。本当に世にいう格好良い≠ゥらはかけ離れているな…と心底思う。ちなみにその時は統計は統計でしょ、ということで収拾をつけた。
「本当は、加州くんが主にすっごく怒ってるから、近侍ずっと務めてるんだって」
それを聞いてああ大倶利伽羅、わざと誤解されるようなことを言ったな、と思った。邪魔もしないが応援もしないというスタンスだったはずなのにどうした。
「だから…その…今回のことは、えっと、僕も悪かったし、主が…全部悪い訳でもないし。加州くんが主のこと、怒ってるなら…ええと、それは違うんだよ、って言っておきたくて」
この上なくお門違いな言葉に流石の加州清光でもぷちん、と何かが切れる音を聞いた。
「あのねえっ! 俺が怒ってるのはそういうことじゃないの!」
 もうこの際隠すとかどうでも良いと思った。燭台切光忠の性格を考慮した結果広めるのはダメージが大きいだろうと言うことで、出来るだけ話を広げなかっただけなのだ。向こうから突っ込んできたのだからもう良いだろう。突っ込まされたとでも言うべきなのか。大倶利伽羅あとで酒粕まんじゅう差し入れる。
「ま? ちょっと腹は立ったけど? それってそんな珍しいことでもないでしょ。だって昨日だって、主が当番忘れてて俺が代わりに入ったし、主に腹立てた回数なんてもう覚えてないよ。主が勉強嫌いなのも分かってるし、正直こういう戦とか作戦立てとか全然向いてないからいつも説明大変だし、規則とかも全然覚えてないし任務も何こなしたのか忘れることあるし、そういうの、俺だってずーっと見てきてるけどそれでも主、開き直ったりはしないから俺たちはちゃんと支えてるんでしょ。コンプレックス拗らせてることだって薄々気付いてたし、なんか勘違いしてるのだって何となく察してたし、今更刀剣男士とあれこれするのがだめだったって忘れてたって言われたって、別に何にも驚かないよ。寧ろ今後の主の人生が良い方向に向かうチャンスなんじゃないの? くらいに思ってるし」
怒涛の加州清光に、燭台切光忠は少しだけ後ずさった。
「だから、気にしてない」
 後ずさられたのが少しだけショックだったのでもうちょっと言おうと思っていたのを飲み込んで、切り上げることにした。必要なことはもう言ったとも思った。暫く挙動不審になっていた燭台切光忠だったが、ふと顔を上げて、
「………というか、加州くん、何で知ってるの?」
「さあ?」
「えっ、ちょっと待って、いや待たないで!? えっ、じゃあ加州くん、なんで怒ってたの?」
「それは、」
ええい、もうイチかバチかだ。だめだったら大倶利伽羅を巻き込んで失恋酒盛り大会を開催してやる。
「俺が燭台切のこと好きだからじゃないの?」
ぽかん、とする燭台切光忠に、じゃ、そういうことだから、と言って加州清光はその場から逃げ出した。
 この恋の着地点がどうなろうとこっちの気持ちはこっちで処理するけれど、まあけしかけられた結果なので向こうには何らかのフォローが入るだろう、と思って。
「あー!! 幸せを掴みたい!!」
本丸の廊下をそう叫びながら走り抜けて、少し、青春ってこういう感じなのかな、なんて思った。



夏の呪い解いてみせようそのために目を閉じたままで舌を出して / 森まとり

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どうかひとりきりで(ひとりきりで?) 主燭

 最初、彼はただの主だった。ただの主で、人間で、少し特別だったかもしれなくてもそれは本当にほんの少しでしかなくて。
 なのにどうして、どうして彼から目が離せないんだろう。
「君に言葉というものは少し足りないみたいだ」
彼は不思議なことを言うものだからどういうこと、と聞いてみればどういうことも何も、そのままの意味だよと笑われた。それにはぐらかしている空気はなく、よりいっそう目が離せなくなっていった。
 特別ではない人間が、少しずつ特別になっていく。彼の中で言葉が足りない存在でも、燭台切光忠≠ニいうのは彼にとっては何処にでもいるもので、だから彼は演練場で他の燭台切光忠を目で追うし、この本丸の他の刀剣男士にも甘い言葉を吐く。
 それがたまらなく腹立たしかった。こちらの特別になった人間が、そうでもない素振りを見せるなんて。だから彼の役に立つように、けれども他の刀剣男士に邪魔されないようにと、少しずつ距離を詰めて、詰めて、ああ、そう、それだけだったのに。
「君には向こうがきっと似合うよ」
最後に彼が見たのが笑顔だったのかどうか、分からないまま。



image song「とおせんぼ」初音ミク(wowaka)

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日和見主義 

 伊沢、と呼び止められて笑いながら振り返るのも癖になっていた。いつも通り、いつも通り。いつかこれを気持ちが悪いと止めてくれる人は現れるのだろうか、そんな夢見がちなことを思いながら。気付けば周りの歩調に合わせている毎日。自己主張なんてすぐに掻き消されていく。
 つまらないな、と思っていた。つまらないから何か起こらないかな、と。何処かの国が新しいバイオテロでも発明してくれれば良いのに、なんて不謹慎なことを思っていた。
 そんな渇きを癒やすかのように、この国が実は―――正しくはこの国だけではないのだけれど、国内にある種の紛争を抱えているのだと知るのはもう少し先の話。

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きみの枷から逃げた 

 帰ろうか、と思ったのは彼と寝ることが出来たからだった。前は挿れる側だったから出来るかどうか不安だったが、結果的にまあ出来たのだから良いとしよう。朝起きて僕がいないことを知った彼は慌てるかもしれないが、別に彼だって僕のことが好きな訳じゃない。
 それに、そろそろ僕は飽きていた。飽きていたし、彼にそろそろ文句も言ってやりたかった。だから。
「さよなら」
 彼の夢想した人間よ。
 僕を愛してくれてありがとう。



honey. @slohoney

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棚上げ 

 怒りというものに色があることを、実のところこんなものになってから知った。どうしておまえが、というのは最早繰り返し繰り返し時空が歪むほどに繰り返し擦り切れさせた言葉で意味を持たないものになっている。
 ころしてころしてころしてころして―――あのこをなんかい。
「たのしかった?」
それが言葉になっていたかすら分からない。おまえがいればあのこはしななかった、ころされなかった、あんなめをしてあんなものをせおって、ああ、あんなふうにおわることも、なかったはずなのに。

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僕のこと嫌いになった? 清燭

 勢い余って加州清光が燭台切光忠に告白してから数週間。実はあれから一度も加州清光は燭台切光忠に会っていなかった。別に避けている訳ではない。告白した翌日は燭台切光忠が部屋から出て来なかった。その次の日、加州清光は主に随伴して本部で泊まり込みだった。帰ってくると燭台切光忠は遠征に出ていた。そして燭台切光忠が帰ってくるより先に加州清光も別の遠征に出た。加州清光が帰ってきた日は燭台切光忠のカウンセリングの日だった。…なんてことが続いた。誰かの思惑だった訳ではなく、単純に予定が合わなかっただけのことだ。刀剣男士が多い本丸では、ひどい時だと二ヶ月ほど顔を合わさないなんてよくある。夜戦のこともあるし、仮眠などでタイミングが合わなかったりすることだってざらだ。
 だから加州清光は気にしていなかった。ただ、なかったことにだけはされたくないなあ、くらいには思っていたが。
 なので、燭台切光忠が自分の部屋にやって来た時、本当に驚いた。
「ど、どうしたの」
思わずどもってしまう。
「ええと、だって…加州くんが、あれから一度も、顔を合わせてくれないから。大倶利伽羅に聞いてみたら、避けられてるんじゃないかって…」
「いや普通に予定合わなかっただけだから」
それに避けたというなら翌日部屋に引きこもっていた燭台切光忠の方が該当するのではないか―――とは思ったけれども流石に口にはしない。多分大倶利伽羅なりの発破だったと思うのでありがたく受け取っておく。今度何か差し入れる。
「ええと…どうする? 部屋入る? それとも散歩する?」
本丸というのは何処だって広い。五十を越える刀剣男士を住まわせることを前提としているのだから当たり前だが、散歩くらい好きに出来る程度には広さがある。
「ううん…。部屋、入っても良いかな」
こうして加州清光の陣地に飛び込んでくるような真似をするのは、期待して良いということなのか、それともいつもの鈍感か。分からなかったけれどもうん、と頷いて彼を部屋へと招き入れる。

 数分後、そんな訳ないでしょ!? と叫ぶことになるのはまた別の話。



image song「とある一家の御茶会議」GUMI(くるりんご)

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20190328