![]() 根性論 本丸番号・卯の三四三番、審神者名・褐(かち)は既に逮捕されていた。死体でもなく五体満足でそこそこ精神も健常の範囲内で確保出来たのだからよくやった方だろう。拘束したままゲートに投げ込んでそのままゲートを壊したので、正直もう仕事は終わったようなものだった。ここからは残業だ。ボーナス付くかな、というボヤキはミキの主様の小粋なジョークと言うやつで、彼の上司はそういったことをちゃんと加味してくれる人間なのだとミキもミキの主様のもよく知っている。だからその辺りは心配ないのだと分かっていた。 「あー…どうする」 「手分けして行きますか?」 「多分お前の方に群がるぞこれ」 「そうですかあ? 主様の方がモテモテになるんじゃないですか」 「…やってみねえと分かんねえかな、これ」 「かもしれませんね」 「じゃあ討伐数数えながらあとで合流にするか」 「捕縛優先ですか?」 「勿論」 「分かりました」 「じゃ、またあとでな」 そう言って主様と別れたミキは主様の言った通り、すぐに群がられた。主様の方へ行かなかったと思えば良い状況だとは思うが、それにしたって一体全体、彼らには矜持と言うものがないのか。それとも、根こそぎ取られてしまったのか。ミキは刀剣男士ではないしだったこともないし、似たようなものであったこともないので正直分からない。でも人間に振り回される感覚というのはなんとなく理解出来るような気がしたので、そこだけは同情と言うか、似たような感情は湧いてくる。えい、えい、えい、と向かってくる彼らを一つひとつ捕縛していくのは骨が折れるけれどもそこまで苦しくはない。彼らがこの先どうなるのか、何を選ぶのか、大体ミキには分かっているけれどもそれだって苦痛ではない。 こういう時の彼らは決まって言うことが同じだ。どうして、なんで、人間に協力するのだと。心の成れの果てというものを知っていてもため息が出る。誰が悪い訳でもない、きっと言うなら人間が悪い。分かっていてもそれはやっぱりミキには関係がないことなのに。同じ土俵に立っていると思われるのが、この上なく嫌だ。だからミキは聞かれる前に言うことにしている。捕縛作業を続けながら朗々と喋り出す。 「主様はね、私に全部をくれるって言ったの」 ミキは言う。自慢げに言う。だって自慢だから。 「全部だよ、ぜーんぶ」 全部って分かる? と両手を広げてみたところに何かが飛び込んで来た。抱き締めるように捕縛する。ミキはこういうことだって出来る。 「貴方たちとは比べ物にならない人だよ」 ミキの主様はただの人間だった、ちょっとだけ才能があってへこたれない、でもただの人間だった。努力の人、そう言っても良かったかもしれない。 「私ね、主様に聞いたの。貴方を食べちゃっても良いの? って。そしたらね、主様は笑ったの」 あの日のことを、ミキはきっと忘れない。 「オレの望みを叶えてくれるなら、それでも良い≠チて」 それがどんなに美しい言葉だったか! きっと彼らには分からないのだろう、人間に虐げられた彼らが再度夢を見ることが出来るようになるまでには、きっと途方もない時間が掛かる。 「だからね、私はいつか主様を食べちゃっても後悔しないように、今を働くの」 ミキには時間があった。彼らにも時間はあるけれど、きっと刀解という手段が示されれば彼らはそれに頷く。 「私はね、貴方たちとは違うよ」 ミキには、そんな逃げ道はなかったのに。 「人間に疎まれて、蔑まれて、消えてしまえって思っていたんだよ。愛されてなんかいない、愛されたことなんてない。でもね、主様は恨んで良いって言った。たった一人の人間を守るために、主様もその他の人間も、恨んで良いって。だから、私は頷いたの」 それなのに、どうして。 最後に残った彼が問う。そんなのは聞かれるまでもない。 「私は、主様が大好きだから!」 だからどんな悲しみも、苦しみも、恨みもつらみも憶えていないことも、全部許そうと思った。主様のことが大好きだから、すべて。 「だから全部我慢出来るんだよ。するんだよ。主様のためになるから」 全部、全部。 ミキの決めたことだった。 * (「あ、主様ー! 討伐数幾つでした? ミキは三十九でした!」「ほぼそっち行ったな…あとで何か奢ってやるよ」「やりぃ!」) *** 20190328 |