![]() さよなら僕らの楽園よ、愛し子よ。 悲しい、寂しい、と言うものがいた。ミキはその前に立って、そうですか、とだけ言う。言いたいことは分かるつもりだった。ミキもいつかそういった気持ちを抱いていたような気がした。もしかしたらミキではなかったのかもしれないけれど、ミキはもう、忘れてしまったから。忘れるというのがルールだったから。本当のことは、もう、誰にだって分からないから。 「どうしてだ」 元の形を持たないそれは言う。 「どうして…だってあいつは、………兄弟も。笑って………」 それがどういった扱いを受けてきたのか、ミキは知っていた。勿論、知識として。その事件に立ち会った訳ではないし、こうして見(まみ)えるのも初めてだったけれど。 それでも、分かるつもりが出来てしまう。 「そうだ、笑っていた…笑っていたんだ。俺を、見て…俺を見て、そうだ、言ったんだ」 ―――お前は美しいね、骨喰。 何処がだ、とそれは床に崩れ落ちる。 「何処がだ! こんな、姿も保てないような、俺の…何処が! どうして、あいつは俺をこうしたんだ、俺を、―――」 生かそうと、したんだ。 本丸番号・辰の五二六番の審神者名・鹿北(かほく)。彼は既に審神者ではない。特別法令違反をしたとして審神者資格を剥奪、現在は何処かの刑務所に収監されているはずだ。裁判に情状酌量は勿論存在するが、理由をもってしても減刑には至らなかった。それほどまでに、彼のした行動は、彼が骨喰藤四郎だったもの≠ノした行動は、外法中の外法とも言えた。少なくとも、力を貸してくれている%′葡j士に対してしていい仕打ちではなかった。 「さあて、私は鹿北様じゃあないので分かりかねますねえ!」 それだってミキに話し掛けた訳ではなかっただろう、けれどもミキは黙っていることも出来なかった。似ていた、と。その判断すら出来ないけれど。 「…お前は、」 「ミキはミキですよう。主様がくれた、唯一の名前。主様がミキだと言ったのでミキはミキなのです」 「なんだ、それは…」 お前の本質を無視しているじゃないか、と言ったそれにミキは笑う。 「人間とは得てして上辺しか見ない生き物でありますよう?」 そんなこと、ずっと昔から分かっている。分かっている、ような気がしていた。 「それが嫌なら変わるか変えるしかないんですよう」 ミキの言葉にそれは目を見開いた。見開ける目があるようだった。 「だってそうでしょう?」 覗き込む。徐々に人の形へと収束していくそれ。 「そうして人間たちは私のようなものたちを迫害したのですから!」 燃えた、燃えた、燃やされた。核が骨喰藤四郎であると言うのならば、それにも同じ記憶があるのだろうか。骨喰藤四郎と腹を割って話をしたことなどないけれど。 ミキ、と呼ぶ声がした。ミキは返事をしてじゃあ、さよなら、と言って其処を離れる。 ミキのいなくなったガラス張りの部屋の中で、しゅるしゅるとそれは人の形への収束を終えていた。それはいろいろな色を混ぜて黒くなったような髪の色、目の色をした、骨喰藤四郎によく似た少年の姿だった。 *** 20180323 |