![]() 貴方には審神者になって頂きます。 黒い猫を追いかけてまるで物語のようだな、なんて能天気なことを考えていたらひと気のない所にたどり着いてそのまま黒尽くめのスーツの人間に取り囲まれて誘拐されて人身売買…! とか思っていたらそんなことを言われた。目隠しやら何やらされていたので此処が何処かもよく分からない。 「………いやなんですかその審神者って」 「審神者と言うのは、」 一人が丁寧に説明をしてくれる。物の心を励起して付喪神・刀剣男士を呼び起こし戦う、なるほど分からん。私は分からないという顔をしていたはずだけれども彼らはこれ以上丁寧な説明は出来なかったのか、説明はそれで終わってしまった。そしてそのままこれから行く本丸―――これはどうやらその審神者とやらの職場らしい―――の説明をしてくれた。 どうにもその本丸において、前の審神者はわりと好き勝手していたらしく、一部刀剣男士が祟り神的になっているのだとか。言い訳のように普通は此処まで悪化することはないと付け足されたが現に悪化しているようなので聞き流した。知らんがな。けれども私の渾身の知らんがなも流されて話は続く。その祟り神的なものを普通であれば別の部署がどうにかするものなのだが、今回はいろいろあってどうしても後任をすぐにでも打ち込まなければいけないらしい。何だそれ。 「あの、その前の審神者ってどうなったんですか」 「刀剣男士に殺されました。下手人は分かっていません」 何でも、確実に審神者だと分かるようにか首だけがすりこぎのようなもので切り離され、門の前に置かれていたのだと言う。聞いただけでグロい。ホラーなら夏にやってくれ、いや夏でも嫌だわ。というか今、普通に殺人犯のいる隔離施設に行けって言われた気がする。流石にそれはないだろう。今二十一世紀だぞ。 あと私が猫だと思って追いかけていたのは狐だったらしい。マジかよ、猫だと思った。これから貴方のサポートを行います、ロボットのこんのすけです、と押し付けられた顔は確かに狐のように見える。 「えっまだ私審神者になるって言ってないんですが」 「申し訳ありませんが決定事項ですので」 何だそれは、責任者を呼んでこい。 そんなことを思いながらなんだか扉に押し込まれて、気が付いたら日本家屋の前にいた。 運命を愛せよ 何でだよ、と思うが先程の足りない説明を鑑みるに此処が本丸とやらなのだろう。というか、さっきの説明が本当ならこの突然渡されたぬいぐるみだけで放り込まれるような場所じゃあないと思うのだが。着の身着のままだぞ。流石に不安に駆られて腕の中のもふもふを抱き締める。もふもふ。良いもふもふだ。 「審神者様」 腕の中から声がした。気がする。 「審神者様」 「空耳かもしれないし…私疲れてるし…」 「審神者様、空耳ではありません」 諦めて私は腕の中に目を向けた。 「喋った!?」 「喋ります。ロボットですから」 「ロボット…? ホントに? だってもふもふしてるよ?」 「その辺りは科学の結晶とお思いください。自慢のもふもふです」 よく分からない。いや、正直分からないことだらけだが。 「審神者様、とりあえず入りましょう。此処では寒いでしょう」 「うん、寒いけど。入って大丈夫なの?」 「大丈夫です。此処は今日から貴方の本丸なのですから」 「そんな貴方の家ですなんてニュアンスで言われても」 「大体そんな感じです」 「ええ…」 後ろを振り返る。門があった。多分、此処を通ってきたのだろう。だから、此処を 通れば帰れるんじゃないか。 そんなことを考えているのが分かったのか、もふもふは首を振った。 「説明が足りていないのは私(わたくし)も分かっております。ですから適宜補足説明をしていきたいと思いますが、とりあえず。まず、貴方様が此処に放り込まれたのは呪いの所為です。その呪いがどういうものか精査せずに黒服たちは貴方様を此処に放り込みましたし、私の性能ではこの複雑な呪いを紐解くことは出来ません。ですが、此処から出ようとすれば貴方様に何かしらの不利益が生じることは確かです。貴方様のためにとどんな切欠であれ送り出された私といたしましては、貴方様の身の安全を確保するのが現時点での最優先事項となります」 付喪神が戦ってるとか瞬間移動したとかそういうのが飛んだ。呪い、とは。 「呪いって」 「二十一世紀生まれの貴方様には馴染みのないものかもしれませんが、そういうものは人間のいる限り生き続けるのですよ」 * とりあえず寒いのは確かにそうなので入ることにした。お邪魔します、と言ってみたが特に返事はない。もふもふの言う通りに進んでいくと部屋があり、障子を開けるとなんだか人がいっぱいいた。彼らが、先程聞いた付喪神なのだろうか。視線が突き刺さる。手厚いお迎えを期待していた訳ではないが、これはこれで何とも言えない。ざわざわした中から拾えた言葉は帰れ、だとか人間は要らない、だとか主などとは認めないだとかまあネガティヴオンパレードだ。 「審神者様、此処はわたくしめにお任せを」 私の腕の中でもふもふはこほん、と咳払いをすると、ケーン、と一声鳴いた。狐ってケーンって鳴くのか。 「この方はこの度この本丸に派遣されました机右様でございます。審神者の仕事に関しては何も知らない状態ではありますが、不肖こんのすけ、一心に机右様にお仕えし、彼女をお支えしますのでよろしくお願いいたします」 「よ、よろしくお願いしまーす…」 「では机右様! 部屋の方へ参りましょう! この本丸のデータはインストール済みですので案内は必要ありませんし、机右様の日用品も揃えねばなりません。任務が免除されていても忙しいですよ!」 「う、うん…」 正直私もこんなところに長々といたかった訳ではないのでもふもふを抱えたまま回れ右する。 誰も追ってこなかった。 少なくとも私には、そう思えた。 もふもふの言うままに進むとまた部屋にたどり着いた。 中に入ると電気が勝手につく。便利だ。障子を閉めると、とりあえず此処は安全地帯ですよ、と言われた。 「机右様。よく臆さずいてくださいました。第一印象は悪くはないでしょう」 「待って待ってキユウって誰」 「貴方様のことでございます。後で出来るだけ丁寧な説明を心掛けますが、今この時代は戦争中でありまして、その敵というものは国内にも存在するのです。もしかしたら、同じように審神者として潜り込んでいるやもしれません。審神者と言うのは演練―――仲間同士で切磋琢磨する場ですとか、勉強会、会議等情報交換の場に出ることも望まれます。その方がやはり、本丸の運営が円滑に進むようにもなりますから。ですがその場に敵が潜んでいましたら、審神者様の個人情報は抜き放題になります。本名さえ知ってしまえば後は出身地や誕生日が掴めれば確実です。そうなれば故郷の家族や友人ですとか、人質に取られることもあります。長くなりましたがそれに歯止めを掛けるためにもこの戦争に関わる者はすべて偽名を用いることになっているのです。貴方様を机右様と呼ぶのも、貴方様の周りの人間を守ることに繋がるのです。ご容赦ください」 「なんとなく分かった。でもとりこし苦労みたいな名前じゃなくても良くない? 良い名前ってもうお手つきとかなの?」 「いえ、貴方様の字は机の右と書いて机右様です。杞の国の人間が憂える方ではありませんよ」 「杞憂の語源ってそういうのだったんだ。キノクニってあの紀伊国屋とかの?」 「そちらは紀伊国(きいのくに)と言いまして、和歌山県や三重県南部のことですね。語源の方は中国周代の国名になります」 「あーそっか、中国か。ちなみに私の名前の方ってどういう意味なの?」 「机の傍≠ナす」 「はあ…」 一気に気が抜けた。何だろう、机の傍って。憂鬱な方より良いけれど。 さて、ともふもふは腕から降りた。 「私はこんのすけと申します。この形をしたロボットはすべてがこんのすけという名前でありますが、どうぞそのままこんのすけとお呼びください」 「ファービー的な…?」 「せめてロビでお願いします」 会話をしながら指示をされて、何かのスイッチを押した。ヴン、と音がして画面が浮き上がる。未来っぽい。簡易注文のページから日用品を選択すると、部屋の隅でドサッと音がした。ほぼタイムラグなしで送られてくるらしい。便利だが押し間違いが怖い。お金は大丈夫なのかと聞いてみたが、それくらいは前任の貯蓄から使って大丈夫だと言われた。それって泥棒じゃないんだろうか。 後が怖い気もするが、これで当面の生活は大丈夫だ。 「そう言えば黒服の人は祟り神とか言ってたけど、そうは見えなかったんだけど」 「そうですね、あれは分かりやすく脅すために言ったと思ってくれて構いません。刀剣男士が祟り神化する事案はない訳ではありませんが、此処で起こっているかと言うとそうではありません」 「ちなみに祟り神化するとどうなるの?」 「どうなるかは知りませんが、通常の人間では太刀打ち出来ないのは確かですね。例え呪いがあったとしても机右様のみを放り込んでどうにかなる事案ではありません」 「あ、そうだ、聞きたいことあったんだ。もうなんか審神者っていうのになるのは今は仕方ないって分かったけど、………アレじゃん? 付喪神とか呪いとか、さっきの瞬間移動は科学かもしれないけど…」 「科学です」 「やっぱそうなんだ…。ええと、まあ、ほら、魔法使いみたいな感じじゃん。そういうのって才能とか必要なんじゃないの?」 「はい、突出した才能は必要とされませんが、最低限のラインはございます。机右様は私の出来る簡易測定を行った結果、最低限のラインも満たしておりません」 「えっ」 「ですが、呪いが一種の循環器官として成り立っているのでしょう。机右様には、あの最初の部屋にいたものたちが見えたでしょう?」 「うん、見えた。なんかいっぱいいた」 「彼らが刀剣男士です。素養がない者は基本的には彼らを見ることが出来ません。勿論、見ることが出来るようにするための道具は存在しますが…」 「私、何もしてないもんね」 「はい。呪いが原因で此処に居なければならない以上、呪いがその辺りのバックアップをしてくれるのでしょう。相手が意志を持たぬ呪いでありますから、過信は出来ませんが…暫くは気にしなくて良いと思います」 「めちゃくちゃ不安だけど、今はどうにも出来ないんだね」 「はい。申し訳ありません」 「謝らなくて良いよ。覚えておく」 というか、そもそもなんで呪いなんて掛けられたのだろう。前任については何も教えて貰えないが、実は知人だったりするのだろうか。そういうの嫌だなあ、と思いながらこんのすけの頭を撫でると、気持ちよさそうにむにゃむにゃと鳴いた。 * 日用品も揃ったので、あとは日常的に使う場所を回ろうという話になった。先程の 部屋は審神者の私室であり、簡易な台所はついていたが大きな台所は別にあるし、風呂も洗濯も部屋から出なければ出来ない。ついでにトイレも。お金があれば私室を魔改造することが出来るらしいが、今は前任の貯蓄しかアテがないので手を付けられないそうだ。 「でも、外歩き回って大丈夫なの? 私、歓迎されてないよね」 「それは大丈夫ですよ。歓迎していないものは勿論いますが、机右様を主として迎えようとしているものもいるようですから」 「え、そうなの? っていうか主?」 「ええ、そうです。ほら、今も」 こんのすけが尻尾で後ろを指したので振り返る。 廊下の向こうからこちらを覗いている影があった。 だらん、と長い髪が廊下についており、首の位置が低いことからしゃがんでいるのだろう。その上でこちらを覗いている。目が合ったことに気付いたのだろう、それはにっと左右で色の違う瞳を弛ませて―――私は急いで回した首を戻してで歩き出した。 「机右様、お話にならないのですか?」 「無理無理無理!! 私ホラーそんなに得意じゃない」 「でもこちらに来ていらっしゃいますが」 「ギャー!!」 もう振り返ることはしなかった。ダッシュ一択だ。この際庭にも降りてやる。というか広い庭だな。池まである。 「審神者様、裸足で庭に降りますとあとで掃除が大変ですよ」 「そういう問題じゃなくない!?」 人の腕に抱えられてるからってこのもふもふ、余裕過ぎやしないだろうか。後ろからホラーが追ってきてるにも関わらず。 「あっ、机右様」 「うわっ!?」 腕からこんのすけがスッポ抜ける。否、こんのすけがスッポ抜けたのではなく、私がスッポ抜けたのだった。次の瞬間ボチャン! と音がして、私は見事の池ポチャをした。音だけで言うなら池ボチャだ。痛い。冷たい。 「はあー!?!? なんで池! 池!! そう言えば池あったわ………」 「大丈夫ですか? 机右様」 勿論、そんなふうにして足を止めていたので、追手は追い付いてきている訳で。 「あ、主…大丈夫かい」 「その主って何!? どう考えてもさっき歓迎ムードじゃなかったよね!? ならそう呼ぶのに異論があるってことだよね!? 思ってないなら主なんて呼ばなくて良い!! あと大丈夫じゃない! 大丈夫に見えるなら貴方の目は節穴だと思う!! 寒くないのが怖いくらいびっしょり行ってるし風呂…風呂何処だっけ風呂…今から向かうとこだったんだっけ…風邪…風邪引くの? 此処って。もうよく分かんないしふざけんなって感じだしもう良いじゃんなんで私誘拐気味によく分かんないところに押し込められてんの信じらんない今何世紀だよ紀元前か? 基本的人権はどうした! 最低限度の文化的な生活に池に落とされるとかないでしょ普通!!」 「………別に、僕が池に落とした訳じゃあ」 「でも貴方が私を追いかけて来なきゃ多分落ちてませんでしたよ」 「………責任転嫁というものでは?」 「結果論の話をしています」 手を差し出されたのでありがたく借りておくことにした。あと風邪は普通に引くからこのままお風呂行こう、とその人が案内してくれることになった。案内はこんのすけで困っていなかったが、まあしてくれると言うのならしてもらうことにする。 「そうですよ、そもそも何ですか主って。此処は何世紀だ?」 「二十三世紀だよ」 「すみませんマジレスが欲しかった訳じゃあないんです」 「君はどの時代から来たの?」 「二十一世紀です」 どうやら会話は出来るらしい。 けれどもさっき追いかけられたことが結構私にとってはキていたのか、それ以上会話は発生しなかった。ずぶ濡れで何を話せというのか。こんのすけも何も喋らないでついてくるものだから(流石にずぶ濡れのまま抱えるのは申し訳なかったので自分で歩いてもらった)、無言のままお風呂場につく。 「ええと、使い方は多分、二十一世紀と変わらないと思うよ。…前任も二十一世紀出身だったんだけど、困っていた様子はなかったから」 「…前任って、男性だったんですか?」 「女性だったけど」 「………じゃあお風呂場で困ってるところとか、普通は見ないのでは?」 「………言われてみればそうだね。先に一通り見て、分からないことがあったら呼んで。僕は此処で待ってるから」 「ありがとうございます」 * お風呂場はTHE最新鋭! という感じではあったが使い方が分からないほど複雑でもなかった。助かる。湯船の温度調節は楽だし、洗い場も温かいし、出てからもドライヤーがシュンッと済んだ。カラッカラという訳ではないがこれくら乾けば充分だ。服もお風呂に入る前に洗濯機にセットしておいたら出た時には乾燥まで済んでいた。便利だ。 「流石二十三世紀…?」 「それもありますが、此処は前任が拡張工事をしたようですね」 普通の本丸の設備では此処まで最新鋭ではありません、とこんのすけは言う。仕方のないことだが、前任の存在が目の前にありあり突き付けられると複雑な気分だ。お前の所為で今私大変なんだぞ、何さっくり死んでるんだよ、みたいな気分になる。別に前任だって死にたくて死んだ訳じゃないだろうけれど。 ほかほかのまま外に出ると、さっきの人は待っていた。実のところ本当に待っているとは思わなかった。何かしら私と話がしたいをしたいというのは本当らしい。仕方ない、話しかけよう、と思ったところでお待ち下さい、とこんのすけが声を上げた。お前さっき話し合いには賛成みたいなこと言ってなかったか? 「もし机右様に危害を加える気がないのであれば、此処で仮契約でも結んでいただければ、私としては安心なのですが」 「えっ、何? 仮契約って何?」 「良いよ。本契約まではまだ待ってもらうと思うけど、後任受け入れ派の僕が仮契約もしないとなると、誰もついてこないと思うから」 「二人で話進めないでもらえます?」 当事者置いてけぼりだ。可哀想だと思わないのかお前らは。 「机右様、刀剣男士というのは主と主従契約を結んで初めて、その人の身を保つことが出来るのです。此処はまだ前任の…そうですね、机右様にも分かるような言葉を使いますと霊力ですとか、そういったものが残っていますので、彼らはまだ人の身を持って活動していますが、このまま誰とも再契約をしませんと、物言わぬ刀剣に戻ることになります」 「あー…なんか、励起とか、そういうこと言ってたね」 「はい。仮契約は言葉の通り仮契約でありまして、本契約で保証される互いの権利を一部省略したものを仮契約と呼んでいるに過ぎず、その内容は仮契約の分だけあると言っても過言ではないでしょう。この度、私から出させて頂きたい条件は幾つかありますが、まず第一に机右様を害さないことをお約束頂きたいと思います」 「うん、そのつもりだしね。良いよ」 「次に、机右様を謀らないことお約束頂けますか」 「それは…うん、とりあえず僕は@ヌいよ」 「こんのすけとしてはその言葉だけで充分です」 どうやら二人の話は終わったらしい。こんのすけが私に向き直る。 「机右様。最終的に決めるのは机右様ですが、今彼と仮契約をすることによって、ある程度の信用の確保には足るとこんのすけは判断いたしました。机右様は何も訓練をなさっていませんので、例え仮契約でも少しずつ増やして身体を慣れさせる方が良いかと思われます」 「…あー…ねえ、怖いこと聞いて良い?」 「なんなりと」 「今の話聞いてると、本契約だと害さない≠チていうのが組み込まれているように感じたんだけど」 「ええ、そうですね。組み込まれてはいます」 「…前任、刀剣男士に殺されたって言ってなかった?」 「言いました。その点はですね…そうですね、ざっくりと成り立ちからお話しましょう。刀剣男士との契約というのは元々術師…机右様も陰陽師などは知っておりましょう? 彼らが式と契約する際に自分の身を守るために使っていた契約を、言い方は悪いですが使い回ししております。術師でしたら特殊な訓練も受けておりますので、式を完全に縛ることも不可能ではありませんが、人外のもの。人間の力が完全に及ぶものではありません。ですから基本的には互いに害さない・利を与え合うという概念を守っております」 「うーん…? 術師はお互いに信頼し合って契約してるってこと?」 「はい。例外はございますが、大凡そうです。術師というのはその辺りの交渉力も必要になってくる場合が多いですね。人外のものすべてが人間に友好的な訳ではありませんから。それを考えますと、刀剣男士というのは刀剣から励起された心が付喪神となったものですし、人間に作られ人間に愛されてきたという歴史があります。それが術師が使う式と大きく異なる点です」 「余計になんで前任が殺されたのか分からなくなってきた。わりと無条件に刀剣男士は人間を信用してくれるみたいに聞こえたんだけど」 「基本はそうです。ですが、何処までも無条件に甘やかしてくれる存在でもないのですよ。彼らには心がありますから」 「………ええーっと、前任は甘えすぎたし刀剣男士の心を踏みにじった?」 「ざっくり言うとそうでしょうね。下手人は未だ不明のままですし、事情聴取も出来ていないので分かりませんが、刀剣男士による主殺害は大抵そういったことが原因です」 何とも言えない結論である。 「話聞いてるとコミュニケーション不足みたいに聞こえるけど、刀剣男士って何振りいるんだっけ」 「五十三振りです」 「その数と円滑コミュニケーションって結構無理ゲーな気もする…」 「一応そういったものを解消する手段として、政府の方でも一応受け皿はある、ということはお伝えしておきますね」 「へえ…」 「まあ机右様の場合は外部への通信が遮断されている状態ですが」 「はあ!? 黒服の人たちが外には出られないとか言ってたけど通信も!? …あれでも通販は出来たじゃん」 「あれは簡易版でしたから使えたようなものです。完全に通販を差し止めますと生命が危険ですし。ちなみに簡易版と完全版の違いは品数と、注文の際にコメント欄がつくかつかないかです。特定の刀剣男士にバレないように注文したい、などの要望を書く際に使いますね。あとはプレゼント用に包装して欲しいとか」 「そこで連絡取られたら困るって訳ね。徹底してるというか何というか…」 思わずため息を吐く。何処かに抜け穴があるかもしれないと思っていたが、今のところそういったミスはないようだ。仕事が出来るというのも考えものである。 「…で、仮契約はどうする?」 「あっ、はい、します。よろしくお願いします」 その返事を聞いて、彼は嬉しそうに笑った。それから居住まいを正して私を見つめる。改めて真正面から見てみると、あまり背は高くないし、まるで中学生か高校生のように見えた。付喪神と言うからには年齢だとかはあまり関係ないのだろうが。 「僕はにっかり青江」 「にっかり青江さん。………長いんで青江さんで良いですか? 刀剣男士って刀剣から励起? された付喪神って聞いてるんですけど、名前って刀剣そのものの名前なんですか?」 「うん、そうだよ。あと青江で良いよ。君の名前も教えて貰えるかな」 「えっと…偽名? の方で良いんですか?」 「大丈夫だよ」 「机右です」 「机右」 「意味は机の傍だそうです」 「ふふ、僕はまだ君のことを知らないけれど、君らしい名前だね」 何だろう、あまり嬉しくない。特に何も感じなかったが、こんのすけが強く頷いたのでこれで良いのだろう。 「怖がらせたみたいでごめんね」 「みたいじゃなくて怖かったんですけどまあ謝ってくれたのでよしとします。こちらこそみっともなく喚いてすみませんでした」 「一応言い訳すると、前任がアレだったから君はどうかなって僕が代表して様子を見に来たんだよ」 「だったらもうちょっとやりようがあったのでは!?!?」 私の渾身の叫びにも、青江さんは笑ってごめんね、と言うだけだった。それがすまなそうな感じではないので余計に私は何ともいえない気分になる。こう、手のひらで転がされているような。 「とりあえず君と話がしたくて」 やっぱりもうちょっとやりようがあったんじゃないかと思った。 20170814 |