ぐだぐだと文句を言いながら報告書を持ち帰るこんのすけを見送って、それから今度は仕事部屋の方に移った。此処の本丸は私室と仕事部屋が隣になっていて便利だ。防犯上どうなのだろうとは思うが、まあ、本丸に攻め込まれる自体はそうそうないので普通に審神者をやっていれば考えないことだろう。遠くにあるテロと同じで、自分たちがやっているのが戦争だと思わないのと同じで。
 安置されていた画面を開く。パスワードは既に初期化されていたので問題はない。仕事は普通に出来そうだ。今すぐにやるつもりは勿論なかったが、加州清光の練度上げの話もある。不具合がないか確認するのは雲上の役目なのだ。ああ本当に、一人でやる仕事じゃあない。
 改めて資料を見る。この本丸にいるのは三十二振りの刀剣男士。刀帳順に三日月宗近、石切丸、岩融、今剣、鳴狐、一期一振、鯰尾藤四郎、平野藤四郎、厚藤四郎、前田藤四郎、秋田藤四郎、乱藤四郎、五虎退、鶯丸、明石国行、蛍丸、愛染国俊、蜻蛉切、燭台切光忠、江雪左文字、宗三左文字、大和守安定、歌仙兼定、陸奥守吉行、堀川国広、髭切、膝丸、へし切長谷部、獅子王、太郎太刀、次郎太刀、御手杵。此処に名前がないものはそもそも顕現されていないか、折れたかのどちらかだ。その辺りも本当は端末で詳しい情報を確認したいのだが、この本丸の端末は行方不明なのだ。そもそもその端末から送信される月課レポートが送信されていないことが発覚したのが
今回の発端で、前任が上手く悪くしていたところであるので勿論端末の場所については厳しく追求されたのだが、それでも端末は見つからなかった。
「困ったよねえ」
「何が?」
「あ、さっき言ったことだよ。引き継ぎよりもっと大切かもしれないこと」
「俺が手伝えることだよね!?」
「うん」
加州清光がさっと姿勢を正して、薬研藤四郎も同じようにする。
「加州、端末の見本って見たことあったよね」
「うん。これくらいのうっすいタブレット…って言うんだっけ? 四角いやつでしょ?

「そう。アレ」
「それがどうしたの?」
「見つけたいんだ」
「ああ、そう言えば見つかってないんだったな」
薬研藤四郎が相槌を打った。
「あれには審神者の戦績とかそういうのがあって、月課レポートとかもそれで送られるんだよ。私の分は私の分として新しいのが支給されてるけど、それはそれ、これはこれで前任の記録が必要なんだよね」
「裏付け、ってやつ?」
「そう。こんのすけは回収出来てるんだけど、端末は行方不明でね」
まあ、実のところなくてもそこまで困ることはないのだが、あるはずのものがないのであれば探せと命じられるのは当たり前のことだ。
 あるはずのものがないのは、可笑しいことなのだから。
「だから、とりあえず目下の目標はその端末を見つけること。そしてこれはこの本丸の刀剣男士には言わないこと」
「…主は、此処の誰かが隠してると思ってるんだ?」
「そういうこと」
賢い。
「まあこの本丸の名義はもう書き換えてあるし、そういう時って端末って緊急ロックが掛かるようになってるんだよね。だから中身はどうにも出来ないと思うんだけど」
「その中の情報が必要?」
「そ。あった方が嬉しい。ないと悲しい」
「悲しいのはよくないね」
 若干返しが雑になってきたような気がするが、恐らく加州清光にとってその方が良いだろうので雲上は何も言わない。それに頷いてから、ふむ、と頷いた。
「大包平とかソハヤノツルキとか大典太光世とかがいないのが意外かな、とは思ったけど、まあ鍛刀運は正直なかったみたいだし、こんな状態じゃ編成も真面に組めないか」
「あー…なんだったか、連隊戦だったか?」
「そうそう。夜戦も室内戦も増えてきてたし、短刀が育ってる本丸は結構多かったんだよね。それでちょうどその前に極の発表も順次されてたし、フィーバーっていうか…」
「なるほど。それまでの采配が良ければ―――いや、悪くなければか? その辺りは迎えることが出来ただろうな」
「だよね。連隊戦かー…それも今後考えないといけないのか…」
「ま、そういうのは頼ってくれて良いぜ?」
「頼りにしてます、薬研さん」
部隊の指揮はそう言えば初めてやるなあ、と雲上が言う横で、ねえ、と加州清光が声を上げる。
「極? ってそういうえば何?」
「何…って聞かれると難しいなあ…」
 そう言えば教えていなかった、と思い出す。薬研藤四郎もどう説明したら良いものか、と腕を組んでいる。
「薬研は極なの?」
「俺は違うぜ?」
「強いのに?」
「薬研さんが正規契約していた頃はまだ極がなくて、今までは政府所属の仮契約だったからね。仮契約だと修行行けないんだよね」
「ま、そういうことだ。政府所属と言っても本契約してる主がいれば修行は可能なんだが、俺は誰かと本契約してまで強くなろうとは思えなかったしな」
「ってことは今から行く?」
「今ならまあ、確かに雲上とは本契約結んだし、出来るか出来ないかで言えば出来るが…此処を放っておく訳にもいかんだろう」
「あー、そうだよね…」
薬研がいなくなるのは俺もちょっと不安、と加州清光が言うのは、もしかしたら他の本丸であったら少し珍しい光景なのかもしれない。とは言え、統計で初期刀として選ばれた刀剣男士は他個体よりは比較的しっかりするのだと出てはいるのだが。それにしたってあまりにしっかりしていると思う。自分だけでは力不足だと言うことを早々に把握し、頼るべき場所も分かっているがそれに頼りすぎない。自分でどうにか出来ることはしようと、そんな心も感じる。
 頼りになるだろうな、とは思った。とは言え、加州清光にだって向き不向きがあるだろうから、そんなに頼ろうとは思っていないけれど。
「ま、薬研さんはどっちにせよまだ修行に行こうとか考えてないんだよね」
「えっそうなの? 強くなれるのに?」
「修行って、強くなれるだけじゃないからね」
加州清光が首を傾げるので、雲上は説明を続ける。
「修行から帰って来た刀剣男士って、大体みんな、審神者のことをもっと大切に思うみたいな…こう、忠誠心みたいなのが上がるんだよね。でもそれって、地盤があってこそだと思うんだよ。だから、正直今薬研さんが修行行っても、確かにステータスとかは上がるかもしれないけど、なんていうか…気持ちの面? そういうのが追いつかなそうだなって思う」
「まあ、大体そんな感じだな」
「そういう場合のサンプルって流石にないけどさ、ステータスを活かせないことになるんじゃないかっていうのが、確か研究所の見解」
「宝の持ち腐れだろうなあ」
「珍しく研究所の方からもサンプルになってって言ってこなかったし、本当に推奨されないんだろうね。それとも実はサンプルってもう取れてるのかな」
「えっ、そんなのに参加する審神者がいるの?」
「さあ、どうだろうねえ」
参加なんて思っていなくても、サンプルを取ることは出来るからね、と雲上は付け足して、加州清光は何となく察したようだった。気を遣うように見遣られた薬研藤四郎が笑う。
「別に主と認めてねえ訳じゃないんだぜ? ただ、まあ、まだ大将≠チてよりはちょおっと頼りない雲上≠チて感じだよな」
「薬研さん、私の尻拭いする羽目になったこと根に持ってるよね」
「根に持ってはいないがあれで雲上の印象は固定されてはいる」
「それ、根に持ってるって言うんだよ」
「そういえば相談課でも言ってたけど、何があったの?」
「秘密」
「そのうち話してやるよ。まずは安心して酒が飲めるくらいにこの本丸をどうにかしようぜ」
「薬研さん…」
酒が飲みたいだけでしょ、と雲上が言うと薬研藤四郎はからからと笑った。



20181108