ふらり、と来たが私は根性で堪えた。やっぱりな、と言いたげな彼が私を支える。私の手の中には江雪さんの時と同じように幾らかの資源があった。三日月さんが預かる、と言ってくれたのでお言葉に甘えて預かる。
「…ただの贄と思っていたが、」
しばらく私を見下ろしたまま、三日月さんは静かに呟いた。
「おつかいくらいは出来るようだな」
 おつかい。そう表現したのは三日月さんなりの優しさなのかもしれない、と思った。むっとしたにはむっとしたが特に何も言わずに放っておく。何を言っても恐らく三日月さんには届かない。そもそも、私は私の言葉を彼らに届かせる理由があるのだろうか? 彼らだって一時的な措置として私が此処に留まることを許容しているのだろうし、私だって元いたところに戻りたいという思いは捨てていない。元いた場所にそう愛着がある訳ではないが、こんな意味不明な(付喪神を集めるなんて)ことをしているところよりかは絶対マシに決まっている。私はこれでも平和主義者なのだ。平和主義者なのだ。大切なことなので二回言いました。
 そのあとは結局審神者の部屋まで彼に支えてもらって、何とか戻ることに成功した。風呂は起きてからで良いだろ、と言われて目を瞑る。どうしてこんなに身体が辛いのだろう。分からないけれど、彼も説明するつもりもないようだったし、私もそこまで気になる訳でもなかった。本当に私の身が危ないだとか、そういうものであるなら彼はきっと言ってくれただろうから。
 そのまま、夢も見ないで落ちていく。

 起きると部屋にはやはり彼しかいなかった。
「光忠のやつが食事を用意しておくって言ってたぜ」
通りがかりに言っていっただけだけどな、と笑う彼の手元には本があった。戦術書のように見えるそれは、彼に必要なものなのだろうか。私にはその解えが出せない。
 寝ている間に小夜くんが尋ねてきてくれたらしい。また宗三さんの差し金かもしれないが、そういう難しいことは考えないことにした。そもそも私は此処に居候しているだけで、小夜くんに言ったように審神者とやらになるつもりも今はないのだ。それに、小夜くんは可愛いし。
「とは言え、君には審神者が出来る程度の能力はあるんだぜ?」
彼には私の考えていることなどお見通しらしい。
「そうじゃなけりゃ事故だってこんなとこに迷い込めたりはしないだろうよ」
それは私にとってとても要らない情報だった。私は審神者になるつもりなんてない。私は平和を愛して―――いや、愛していると言ったら盛りすぎだが。
 やっぱり彼には私が何を考えてるかはお見通しらしく、まあ大袈裟なことは言えた方が良いぜ、と言った。
「芝居がかった言い方っていうのはそれなりに耳や頭や心に飛び込むモンだ。嘘はおすすめしないが、そういうやり方が悪い訳でもないんだぜ?」



 結局その日はそのまま眠ってしまって、お風呂も食事も翌日に回してしまった。それからやることもないので部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、あ、と声が掛かる。
「よく会うなあ」
御手杵さんだった。よく会うと言ってもまだ二回目なのだが、もしかして私が気付いていないだけでもっと会っているのかもしれない。そう考えると怖いので普通に会話することにした。
「ああ、ええと、御手杵さん…でしたよね」
「そーだよ。って、俺、アンタに名乗ったっけ?」
「刀帳というので見ました」
「あー…そういえばそういうの、あったんだよなあ…」
あんま聞かないから忘れちまった、と続ける御手杵さんは少し寂しそうだった。
「刀帳というのは、審神者以外も見るものなんですか?」
「どうだろう。積極的に見に行くモンでもないんじゃないか? でも近侍…人間で言うと秘書、って鼓は言ってたかな。それになると、審神者の仕事手伝ったりとかするから、見ることもあったよ」
「御手杵さんも近侍をしたことがあるんですか?」
「最初はみんなで分担だったからなあ」
途中からそうじゃなくなったけど、と御手杵さんは聞けば何でも答えてくれそうな気もしたが、これくらいにしておくべきだろう。何処に地雷が埋まっているか分かったもんじゃないし、今すぐ聞かなければ困る情報もない。
 ので、本来の私の仕事に立ち返ることにした。
「私、刀剣男士の皆さんの…今後の希望を聞いているのですが」
本当は刀解処分希望のものの希望を叶える、なのだがあまり面と向かって聞くことでもないだろう。言葉は選ぶべきだ。
「おお。三日月から聞いてる」
「御手杵さんはもう決まっていますか?」
三日月さん仕事してるんだ…と思ったが言わないことにした。多分あの人は仲間に対しては協力的なのだ。優しいと、言えるのかもしれない。私にはその判断が出来ないけれど。
「俺は残る方、かなあ」
正直これは意外だった。友好的なように見えた光忠さんが刀解希望だったからかもしれないが、御手杵さんも刀解希望なのだと思っていた。
「刀解されたいってほど何かあった訳でもないし。でも、俺は刺すしか能がねえから、こうも休戦続きだと困っちまうなあ」
「それは…ええと、私にはどうしようも出来ない話なので…。報告書上げるように言われてるので、一応希望としては出しておきますが」
「ああいや、アンタが大変なのは一応分かってるから。今のは…こう、ボヤきみたいなモンだよ。そんなに気にすんな」
「そう言って貰えると、少し…ホッとします」
自分が何かをしなければいけないのではないか、そんな焦燥から少し遠ざかることが出来る。今の私にとってそれはとても貴重な瞬間だった。
「アンタも頑張るよな」
御手杵さんはそう言った。
「アンタは迷子で、此処に寝泊まりしてるのは確かにそうなんだけどさ、それって俺たちからしたら軒下に猫がいるのとそう変わんねえと思うんだよ。猫は餌くれてやんないとだめかもだけど、アンタは勝手に食べるし」
「まあ、…はい。そうですね」
「本当は何にもしないで部屋にこもってたって良いのに、そっちのが安全だろうに、アンタは外出回るから」
それは、外に出ない方が良いということだろうか。
 私の不安を察したように、まあ三日月もいるし大丈夫だと思うよ、と御手杵さんは付け足す。
「それに、鼓が居なくなってから食事とか風呂以外、あんま外に出る奴も少ないしさ。俺は、そういうのつまんねえと思うから歩き回ってるんだけど。だからこれからも会うかもしれないけど、足音はなるべく立てておくようにするから」
「お気遣いありがとうございます」
「ま、アンタも根詰めんなよ」
アンタはちょっと三日月と似てるから、と御手杵さんは言い残して去っていった。
 待て、最後の一言は何なんだ。
「ともあれ良かったじゃないか」
彼は横で他人事のように笑っている。彼もまた、そう思っているのだろうか。分からない。私はそもそも、三日月さんのことが全然分からないし、出来れば分かりたくない。分かってしまったらきっと、帰る時にしんどいだろうから。
 それでも私は御手杵さんを追いかけて真意を確かめることもしないで、そのまま見送った。

 御手杵、仮残留決定。



 突如現れた私という人間に対する不信感なのか、あまり関わってくる刀剣男士はいなかった。まあ私も希望があれば刀解を行う、ということで決まっているのでそれだけ刀解を希望する刀剣男士がいないというだけなのかもしれない。それでも一応全員に聞いてみないといけないのでは、という気持ちが浮かんでくるのはやはり何かしていないと不安だからだろうか。

 蓬莱柿さんはまた顔を見せてくれた。一対一で会わせて貰えることは勿論なかったが、まあ聞かれて困る話でもないのでそこは放っておく。蓬莱柿さんのいいところはとても気が利くところだろう。どうしても私と蓬莱柿さんでは性別の差というものがあるが、蓬莱柿さんは特に気にすることなく切り込んでくるし、それがセクハラという感じもしない。妹さんのことをきっといつもこうやって気遣っているんだろうな、というのが感じられた。少しそれを羨ましい、なんて思う。私は一人っ子だったし、近所にも同じくらいの男の子もいなかったし、もしかしたら兄という存在に憧れがあるのかもしれない。
 その日、追加情報として手に入ったのは、此処が政府の管理する異空間であることだった。
「南天様が此処へ来た経緯が、本当に貴方の言ったそのままであるとしたら、何処かに綻びが生じている可能性があります」
「綻び」
「ゲートを通った記憶はないのでしょう?」
「はい。ないです」
「こちらでもゲートの使用履歴を確認してみましたが、履歴はありませんでした。南天様は本当にこの本丸に直接現れたようです。ゲートには別でカメラも設置してあるのですが、そちらにも映っていませんでしたし」
私は姿現しでもしたのだろうか。不思議で仕方ないけれども記録映像も残っていないとなればこれ以上の追求は意味がないだろう。
「綻びが生じていると、何が起きるんでしょうか」
何かしら不都合があるというのは分かった。そうでなければきっと蓬莱柿さんは言わなかっただろうから。
 それに、さっきから三日月さんが難しい顔をしている。この人が難しい顔をするということは、きっと私だけの問題ではないのだ。
「…そう、ですね。敵の襲撃を受ける可能性があります」
本丸というのはさっき蓬莱柿さんが言ったように異空間になる。それは政府が大体にして管理しているが、すべてが連なっている訳ではない。けれども一つが襲撃されればそこから逆探知は可能で、更には向こうから見たら敵勢力である審神者とその刀剣男士を倒すことが出来るのだ、と。
「結界の強度は上げておきますが、貴方自身を座標にされるようなことがあればそれもあまり意味はありません」
何だそれは、と思ったのが顔に出ていたのだろう、蓬莱柿さんは説明してくれた。まとめれば秘密の守り人を二重三重にしてどれだけ厳重に守っていても、隠れ家の中にポートキーがあれば意味がない、みたいな話だった。私もそこまでしっかり読み込んでいる訳ではないので、なんとなく理解を助けるために思い出しているだけだ。もしかしたら秘密の守り人を立てればポートキーも使えなくなるかもしれないが、まあそこはイメージの話なので以下略。
「…戦争でもしているんですか」
もう聞かないという選択肢はなかった。
「はい」
蓬莱柿さんは頷く。
「我々は戦争をしています」
「付喪神を使って?」
「はい」
 この戦争は時空戦争、と呼ばれているらしい。元々は仮名だったらしいが誰もそれを修正することなく戦争が続いているのだと言う。訂正したければ後世の人間が訂正するでしょう、というのが蓬莱柿さんの言だ。
 事の発端―――と言って良いか分からないが、戦争の起こる切欠となったのはとある宗教団体がこの時代から五十年ほど前に、神が降臨なされたと発表したことから始まるらしい。最初こそ多くの国が相手にしてはいなかったが、よりよい世界のために歴史を修正するという犯行声明が出され、その後歴史改変の事実が確認されたため、各国で内紛状態なのだと言う。歴史改変の事実が確認された、というのは正直よく分からないが、そういうのを確認するための第三機関があるらしい。あまり深くは聞かないことにした。怖いし。そして、十年と少し前に正式に歴史修正主義者を倒すため、とこの戦争は始まったらしい。心を励起して刀剣男士を喚び出す、審神者という職業が発足された。
「歴史修正主義者…」
「はい」
テレビでよく聞いていたような言葉を、まさか戦争する相手の呼び名として聞くようになるとは。
 そうしてはっと思い出す。岩融さんの、背中にあった空気。
―――現実ではない言葉によくないものが寄ってくる。
彼の言った言葉、いない今剣くんをいるように振る舞う、それが本当になる、それは、つまり、今剣くんが折れたという現実を捻じ曲げるということで。
 あの時の悪寒の正体が今やっと分かった。それと同時に、希望も湧いた。
 あれが敵だと思えたなら、私はやはりこの世界の人間なのではないか?
「と、これは用意が遅れましたが、サポート式神です」
サポート式神とは。いよいよ和風ファンタジーじみてきた。渡されたのは狐のようだった。隈取がしてあってますます和風ファンタジーだ。
「こんのすけと申します! 南天様、出来ましたら末永くよろしくお願い致します!」
「喋った…」
「喋ります。大抵のことは知識としてインストールされているので、分からないことがあったらどんどん聞いてくださいませ」
便利だ。
「餌代とかは…」
「むう! こんのすけをペット扱いとは南天様はやりますね!」
「え、なんかごめん…?」
「こんのすけはこれでもロボットを基盤にしてますので、特に食べ物はなくても動きます。充電に類することも自分で出来ます」
「便利ですね」
「でも食べることは出来るので、特にあぶらあげとか好きなようなので、余裕があったらあげて大丈夫ですよ」
「はあ…」
繰り返すが、便利だ。あと可愛らしい。
 こんのすけを渡して、蓬莱柿さんは帰っていった。蓬莱柿さんも蓬莱柿さんで忙しいらしい。
「相談課ってどんな部署なんだろう」
「…元々はそのままの部署だ。相談窓口だからな。本丸で困ったことがあればそこに連絡を入れれば説明が受けられたり、専門部署を紹介してもらえることもある」
驚いたことに私の呟きに答えたのは三日月さんだった。
「有名なんですか?」
「…どうだろうな。知らない者も多いだろう。俺が知っていたのは…」
 そこで言い淀んだ時点で察するべきだったのだ。
「前任が、よく相談をしていたからだ」
もう言うことは言ったとばかりに三日月さんは去っていったが、私はその横顔を暫く忘れられそうになかった。怒りのような、寂しさのような、哀れみのような、懐かしむような。綯い交ぜになった感情が美しい頬に乗る様は、とても迫力があって気圧された。
 そんな私に彼は、何事もなかったかのように話しかけて来る。
「君、蓬莱柿のことは信用しているのかい?」
「信用…と聞かれるとどうかな。頼りにしたいとは思ってるけど。正直頼れる人って現状あの人以外いない訳だし」
その答えに彼は少し、不思議な顔をした。感情が綯い交ぜになった、と言えば確かにそうなのだろうが、けれどもそれだけじゃあない、ような。
「そうか」
「何だか煮え切らない顔をするんだね」
「そりゃあな」
 彼は頬を掻く。
「別に蓬莱柿が敵ってことはないだろうさ。立場的にも、心情的にもな。でも、何でもしてくれるとは考えない方が良いだろうな。素体としては強そうだが、そこまで権力を持っている訳でもなさそうだし」
「…蓬莱柿さんより上の人、とかが敵になるかも、ってこと?」
「敵になるかもしれない、というのとは違うな」
大丈夫だ、と彼は言わない。
 「俺たちが彼らの敵となり得ることがあるってことさ」



 似合う? と聞けば彼はああ、と言って笑った。
 蓬莱柿さんに教えてもらった通販のページで、私はレプリカ先生をつけるためのベルトを買ったのだった。此処へ来てからずっと手に持って移動していたが、両手が空く方が良いに決まっている。まあ両手が空いたからと言って私に何が出来る訳でもないのだけれど。レプリカ先生が一緒であれば落ち着くので、やはり出来るだけ連れて歩きたかった。
「お揃いみたいだ」
そう言って彼の鶴丸国永を指差せば、確かにな、とまた彼は笑った。

 御手杵さんの忠告通り、用がない時は出来るだけ審神者部屋にいることにしていた。出歩くのは食事と風呂くらいだ。トイレは部屋のすぐ傍にあるので出歩いた換算にはならないだろう。
 昼食に行くのに、こんのすけはあくびをしていたので部屋に置いてきた。置いていっていいものか気になりもしたが、あの部屋はなんだかんだ結界とやらが張られているらしく、今は私と彼とこんのすけ以外は招かれないと入れないらしい。本当に便利だ。同時に江雪さんとか宗三さんとか小夜くんが入ることが出来たのはそういうことなのか、と思った。言葉というのは本当に力を持つらしい。
 気を付けないとな、と思った。此処では、私が思っているよりも言葉は強い力のようだから。

 昼食を終えて、こんのすけのために油揚げを少しもらって部屋に戻る途中、二人の刀剣男士に行く手を阻まれた。いや、阻まれたというのは少し違う。話がしたくて待っていたのだろう。ゆっくりご飯を食べていて申し訳なかった。
 平野藤四郎と前田藤四郎。刀帳を見た時も思ったが、とても似ている。
「はじめまして、平野藤四郎と申します」
「前田藤四郎と申します」
「南天と名乗っています」
まずは挨拶から。
「我らは粟田口派の意見をまとめるため、代表として貴方に会いに来ました」
「粟田口って言うと…刀派のこと、ですよね?」
「はい。現在刀剣男士の中では最大派閥と言われることもあります」
よく分からない、という顔をした私に彼が、刀派ごとでまとまることが多いんだろう、と耳打ちして来た。なるほど。
「前任は我らのことを理解しませんでした」
「短刀など、使えたものではないと」
「だからせめて盾となって散れと」
「それが出来ないのであれば死蔵されていろと」
「我らは戦うために喚ばれたのです」
「その本分を果たせなければ、いずれ朽ちます。使われぬ刀が錆びるように」
双子のような外見の彼らは交互に言う。まるでステレオだ。何だか耳がわんわんする。
「貴方は我らを使ってくれますか」
「ええと、」
困った。
 何故なら私はまだ審神者になるとか此処に残るとか、正直考えないようにしていたのだから。帰り方が見つかるまでの居候、そう思っていたのに、突然こういうふうに投げかけられると分からない。彼の方を見遣ると、正直に話してやれ、と表情で示された。
「その、ちゃんと伝わっていないかもしれませんが、私はただの迷子です。迷子で、行くところがないので、仮に今此処で刀解希望の方の願いを叶えるために、働かせてもらっています」
「はい、存じております」
「三日月殿に聞きました」
「あれ、聞いてるんだ…」
拍子抜けだった。どうやら三日月さんは私が思ってるよりもちゃんとほうれんそうをしているらしい。
「我らはその上で、貴方に問いたいのです」
「これは仮定の話、約束事ではありません。貴方の意見を聞きたいのです」
「そう、なんですか…」
聞きながら、やけに約束事≠ニいうのを強調するな、と思った。此処での付喪神という存在がどういうものを指しているのかは知らないが(何せ聞かなかったもので)、もしかしたらその名前にある通り神としての性質が強いのかもしれない。どちらかと言えば私の中のイメージは愉快な感じなのだけれども。
「…ええと、本当に初心者な質問をして良いですか」
「我らに答えられることであれば」
「どうして子供の姿の刀剣男士がいるんですか?」
「それは…難しい問題ですね。人間の想像する年齢が、僕たちの刀身の長さの由来するからではないかと推測されますが…」
「とは言え、蛍丸さんは大太刀でも子供の姿ですので、一概にそうだとも言えません」
「貴方たちは短刀でしたっけ」
「はい。今のところ短刀の刀剣男士は大抵がこのような子供の姿をしています」
よく分からないが結局人間のイメージに左右されるのかもしれない。置いておこう。
「…まだ初心者な質問は続くんですけど、」
「はい」
「どうぞ」
「短刀って、どういう場面で使われるものなんでしょうか。その、えっと、時代劇とかで見るのはこう、長い刀でしたし、うん、ちょうどこのレプリカ先生みたいな」
こんのすけを連れてくればよかった、と私は思う。こんのすけには必要な知識がインストールされているから、聞けばすぐに答えてくれるのだと私はもう知っている。
「そうですね、室内が多いかと思われます」
「貴方の見たものは外でのこと、ではありませんでしたか? もしくは、討ち入りなど」
「あー…言われてみると、そうだったかもしれません…」
流石にうろ覚えだ。正直時代劇なんてあんまり見ないのだし。
「短刀はそうだな、懐刀と言うだろう」
 流石にあんまりだと思ったからなのか横から彼が助け舟を出してきた。
「いろいろあるが、言葉の通り懐に入れるものもあれば、近距離戦で使うことが出来る。外に出れば戦場ではあれこれ飛んでくるなんてこともあったからな、室内戦の方が活躍出来るんじゃないか?」
「………君、何でも知ってるんだな」
「何でもじゃないさ。ただ君が知らないことが多いだろうからこれでも勉強してるんだ」
「それは…ありがとう」
「どういたしまして」
私たちの会話を静かに聞きながら、二人は私の答えを待っていた。
「ええと、もし、の話で良いんですよね」
「はい」
「はい」
「私は、正直貴方たちが子供の姿をしていることに、子供の姿をしたものを戦場に送り出すということが、怖いです。でも、貴方たちは刀剣男士で、戦うために喚ばれたのですよね。ならば、私は貴方たちを信じて送り出したいと思います。…とは言っても、私は戦場のことなんて知らないから、見たらやっぱり無理! とか言うかもしれません。でもきっと、貴方たちは私を説得してくれるでしょう」
 私の答えは、彼らにとって意外なものだったようだった。二人は顔を見合わせると、
「貴方の人となりは分かりました」
「我らはまだ様子見をしましょう」
そう言って笑った。

 粟田口一同連名で手紙を渡されたのは翌日のことだった。中に丁寧にずらりと書いてある名前を、私は丁寧に読む。
 一期一振、骨喰藤四郎、平野藤四郎、後藤藤四郎、前田藤四郎、博多藤四郎、乱藤四郎、以上七振り。仮残留決定。



20170814