![]() 物語は転がり出す あれよあれよという間に話はまとまって、オレの担当さんがこんのすけを連れて来て、そのまま月下さんの本丸で見習い研修となった。ちなみに担当さんはやたらと美少年だった。あとで聞いた話では担当さんは人間ではないらしいのだが、今は関係がないので置いといて。初期刀は講習の間に決めていたからもらうだけもらって、見習い申請を済ませて月下さんの本丸へと行く。向こうに着くと顔見知りの髭切がにこにこと笑っていた。こいつ、こうなること知ってて黙ってたな。何か一言文句でも言いたかったけれども月下さんの髭切なので我慢した。言葉で勝てる気がしない。それこそ月下さんが優しくオブラートに包んでくるところを有無を言わさずぶち込んでくるような奴なのだ。 「ほら、早く初期刀顕現してやりなさいよ」 「ちょっと待って下さい、オレにも心の準備というものが」 「別個体には研修の時会ってるんでしょ、ビビらないの」 「別個体じゃないですか! 主である審神者とちゃんと信頼関係築いてて、ちゃんと候補生に優しくしてあげなさいね、って言われてる言い方悪いですけど調教済みな個体じゃないですか!」 「………知ってたけど貴方、本当にコミュ障なのね…」 「そうですよコミュ障なんですよ。今までは幼馴染がいたからどうにかなってましたけど、幼馴染がいなきゃ友達一人作れないような人間ですよ!」 月下さんの心底可哀想なものを見るような視線を振り払って、いざ、と力を込める。 ―――どうぞ来てください。 審神者が刀剣男士の心を励起するのに必要なのは、願うことだと講習で教わった。人間の心に沿って生まれたのが付喪神であり、彼らの心なのだ。だからこそ、それに呼応するのは人間の想い、なのだと。 ふわり、桜が舞う。 「わしは陸奥守吉行じゃ。せっかくこがな所に来たがやき、世界を掴むぜよ!」 「あ、えっと、こんにちは。はじめまして。えっと、審神者名・砂尾と申します。よろしくお願いします。こっちは師匠の月下香さん」 「ほお! こがなお人に師事出来るらぁて…主もしょうえい経験をしてるのおし!」 「…すみません、後半分かりませんでした」 「あー…良い≠チて意味じゃあ」 「なるほど。ていうか月下さんってやっぱりひと目でヤバい人って分かるんじゃあないですかあ…」 「ヤバいとか言わないの。っていうか貴方、結局その名前使うことにしたのね。好きなの考えて良いって言ったのに」 「せっかく月下さんが考えてくれたのですし、慣れてるってのもあるけど気に入ってますし」 「そうなら良いけど」 気に入っているのは本当だった。だからそう言ったあとに月下さんが少し嬉しそうな顔をして、髭切が訳知り顔でにっこりしたのでオレも笑う。 「はい、ということで顕現もちゃんと出来たわね。えらいえらい」 「流石だねえ、砂尾」 月下さんと髭切に褒められて少し嬉しくなる。あれこれ危険を説いている時以外はこの二人(厳密には一人と一振りなのだが、どう見たってオレには人間と刀剣男士の見た目に差異があるようには見えないので二人)には裏というものがない。そう言った場面を見せないようにしてくれているのかもしれないが、とりあえずもらった言葉は素直に受け取れる。 「じゃあ次はチュートリアルに則って単騎出陣ね」 「ああ、あれかい」 「ちょ、ちょっと待ってください。単騎出陣って?」 当たり前のように話が進もうとしていたので慌てて割り込むと、代わりにオレのこんのすけが説明してくれた。 「審神者様の通過儀礼、とでも言いましょうか。刀剣男士を使役するということが一体どういうことなのか、戦争をするということが一体どういうことなのか、審神者様ご自身の目で確認していただきたく設定されたチュートリアルでございます」 「なんとなく分かったけどそれ、単騎って陸奥守が、ってことだろ? 危なくないか?」 「勿論チュートリアルの戦場は我々が吟味に吟味を重ねて選び抜いたものですので、破壊に至るようなことはございません!」 「待って、初っ端から破壊とか不穏な言葉聞かせないで!?」 思わず陸奥守吉行を庇ってしまった。戦争であり、刀剣男士を使役するという立場上、破壊のことも理解しているし、破壊に至るすべてが悪であるとは思えないが、一応こちとら今日から審神者業に就く身だ。初日からそんな不穏な話はしたくない。出来たら三日目くらいにして欲しい。 「そもそも此処月下さんの本丸なんだし、オレが勝手に手入れ部屋とか使えないし…」 「あら。手入れだけじゃなくて鍛刀も何回かやってもらわよ。刀装も。資材は余ってるし、奢ってあげる」 「えっ、そういうの乗っ取り防止で出来ないようになってるって」 「申請すれば出来るわよ。っていうか乗っ取れるものなら乗っ取ってみなさい」 「はは、無理でしょ…普通に考えて…」 素人目に見てもラスボスのすくつ(何故か変換出来ない)という感じである。 「一応聞きますけど今までにいたんですか? そんな命知らず」 勿論月下さんも月下さんの髭切も笑っただけで答えなかったから、聞いたらいけないこともあると思ってそれ以上はやめておいた。 * オレが月下さんと月下さんの髭切に逆らえるはずはなく(月下さんのこんのすけはオレに同情的な目線をくれた)(オレのこんのすけについては良い師匠をお持ちですね! と笑うだけだった)、陸奥守吉行を単騎出陣させることになった。刀装もなしである。講習を真面目に受けていたので刀装がどれだけ戦闘に影響を与えるのか理解しているし、正直不安しかなかった。なかったけれども陸奥守吉行自身がオレの肩を叩いて、 「会ってじきこがなことをゆうのは可笑しいかもしれんきねが、どうか、わしのことを信じてくれやーせんか。主が政府を信じられん訳じゃーないががは、このみぞい時間で分かっちゅう。やき、心配しちゅうのはわしの怪我のことながだと。主は優しい人ながにかぁーらん。やけど、戦はそればあじゃーなせやーせん。心を鬼にすることも、覚えなければならんがでよ」 なんて諭されたら主として腹をくくるしかないだろう。 勿論真剣必殺を出したあとに重傷を負って帰って来た陸奥守吉行を、オレは涙目で手入れしたのだったが。 涙目になったのを陸奥守吉行に慰めてもらい(流石に生で見る大怪我は心に来た)、刀装作成を済ませ(ここで初めて妖精さんを見て驚いた)(小さい人間が動いているのだ)、いよいよ初鍛刀という段になった。 「今はall50固定らしいけど、ま、おみくじ感覚で好きな数値入れてみなさいよ」 「え、月下さんの資材でしょう。オレが上限ぶっこみたいって言ったらどうするんですか」 「いいわよ、別に。資材ちゃんと確保してるし」 「いや…流石にそれはしませんけど…。月下さんの懐が広すぎて怖い…」 好きにしなさいよ、と言う月下さんのそれは一見丸投げのように見えるけれどもそうではないことをオレは知っている。知っているからちゃんと悩む。講習では何をどれだけ入れたらどんな刀が来るとか、来やすいとか、そういうことは一切習わなかった。ただ講師の先生は審神者専用のインターネットの存在を教えてくれたし、演練の場や審神者会議、勉強会などは情報交換がしやすい、とも教えてくれた。多分、情報収集をする癖をつけさせようというのが方針なんだろう、とぼんやり思う。 「んんん…どうしよう」 「主はどがな刀が欲しいがかぇ?」 「特に、これと言って欲しい刀がある訳ではないんですよね。まあ…初期は太刀がドロップ…ええと、戦場で仲間になってくれることをドロップって言ってるんですけど、しにくい、というかしない、らしいですし、敢えて言うならその辺り…ですかね」 勿論太刀を贔屓するつもりはないし、満遍なく来てくれたら良いな、とは思うが。先程の陸奥守吉行の重傷姿が瞼の裏から離れないのだ。なんだかとてもざわざわする。 「んんー…でも、そんなにたくさん使いたくないし、なあ…」 月下さんはああ言ったし本当に資材の確保はしっかりしてあるのだろうけれども、だからと言ってそのままご好意に甘えるのはなんだか違う。オレの中でも確かに月下さんはすごいし強いしかっこいい人なのだが、例え彼女の言うことを理解出来なくて信じることが出来なくとも、オレのために何かしてくれていることは分かるのだし、これ以上甘えるのもなんだかなあ、という感じなのだ。つまり、オレにもミジンコ程度のプライドはあるという話だ。 最終的にこれくらい、と設定した数値はall350だった。我ながら良い選択だと思う。妖精さんにお願いします、と頭を下げればぽんっと時間が表示された。三時間だった。オレのこんのすけが手伝い札を渡してくれる。これは普通にチュートリアルで支給されるものらしい。そういえばそもそも使うはずだった資材などは何処へ行っているのだろう。別に惜しいとかそういうことは言わないけれど。 陸奥守吉行の時と同じように、ふわりと桜が舞う。 「俺の名は獅子王。黒漆太刀拵も恰好いいだろ! 活躍すっから、いっぱい使ってくれよな。へへ」 「えっと、こんにちは、はじめまして…審神者名・砂尾と申します。よろしくお願いします」 「わしは陸奥守吉行じゃ! 主の初期刀ぜよ。へちは主のお師匠様やかー」 現れた獅子王は明るそうな刀剣男士で、陸奥守吉行と気が合いそうだった。オレはホッとして胸を撫で下ろす。 「これでチュートリアルは終了ね。今日の残りの時間は自分の刀剣男士と触れ合うこと、戦術や内番の見学、どういった本丸を作っていきたいか等々、交流を深めなさい。うちの刀剣男士にはもう貴方のことは言ってあるし、今までも話に出してるから大体貴方のことは知ってるから心配しないで」 「え、月下さんオレのこと話してたんです?」 「そりゃあ、話すことに事欠かないんだもの」 「待って、恥ずかしいこととか話してないですよね!?」 月下さんは答えなかったし、月下さんの髭切もとてもいい笑顔をしていたのでひどく不安になった。 * 結果的に月下さんが自分の刀剣男士に一体どんな話をしたのかは教えてもらえなかったが、月下さんの刀剣男士にはとても良くしてもらえた。あれこれ教えてもらうことを三人でメモを取って、あーでもないこーでもないと言い合えるまでに交流は進んだ。これはオレがコミュ障であることを考えるとすごいことである。陸奥守吉行も獅子王も、とても気配りの出来る奴で良かった。 一通り見て回って月下さんの采配を見学させてもらって、夕食を食べて風呂に入って。あとは寝るだけ、となったところで獅子王が口を開いた。 「そういえばあの石切丸は、お師匠さんの石切丸、で良いんだよな?」 「あ」 思いっきり忘れていた。 「あ、あー…えっと、師匠が言うにはオレに譲るつもりで鍛刀した、らしいんですけど…その…まだ一言も話してないんですよね…」 「えっそれってまずくね?」 獅子王がその大きな目を瞬(しばたた)かせる。睫毛長いな。 「だって、これから仲間になるってことだろ?」 「あ…」 「そうじゃ、仲間になるゆうんだなら、もっとよお話すべきちや」 「はい…」 分かっている。分かっているのだが。 「でも、そもそも引き継ぎするには双方の納得と、勿論当事者の納得だって必要なんですよ」 「そりゃそうだろうぜ。俺だってまだ顕現されたばかりだけど、主と引き離されるっていうんならそれなりに納得出来る理由がなくちゃあなあ」 「…そもそも審神者と刀剣男士の契約は、顕現した主を一番と思うようになっている、って言っても?」 「そんなん言っても、強制力ないやつだろ? 顕現された瞬間そーだな、って分かるし、まあ誘導みたいなもんだろ」 「誘導…」 確かに、そこまで強制力のあるものではないと分かってはいるけれど。 「だからさ、石切丸が主を一番って思うようになる可能性って、ゼロじゃないと思うんだよなー」 「別に…一番に思って欲しい訳では」 「でも仲良くはなりたいんだろ?」 「仲良くっていうか………」 オレは自問自答する。 ―――石切丸と仲良くなりたいか? 答えは、 否。 「違うんですよ、オレ、月下さんに言われたからその方が良いんだろうなって思ってるだけで、月下さんや髭切が嘘を言ってる訳じゃないって、分かってるんですけど…でもオレはどうしても信じられなくて、だって、見えないし、聞こえないし、触れないし、そういったものの存在を感じることだってなくて…。それって、今後も変わらないと思うんです。どれだけオレが月下さんを信頼して尊敬してても、オレはどうしてもそういったこと≠信じられない。だから、そのために石切丸が欲しいとは、言えない」 そこまで言ってから、あ、と思う。オレはまだ陸奥守吉行にも獅子王にも、オレが認められないオレの体質について話をしていないのだった。何の話か分からないだろうな、と思って説明しようと顔を上げたところで――― 「あ」 部屋の入り口に立つ人影に気付く。 はあ、と大きくため息を吐いたのは石切丸だった。 「君には呆れたよ」 * お世話になりました。 よさこい龍馬 http://www.roy.hi-ho.ne.jp/ken_jun/ 20161202 |