空を泳ぎたかった 

 白黒の世界だった、と青年は言う。これで羽根でもあればもっと物語性があったのに、と。
「物語性は必要か?」
「必要さ。君を楽しませられる」
「別に私は人の不幸で飯が食えるタイプの人間じゃあないんだが」
「知っているさ」
でも楽しい方が良いだろう、と言われて首を振るほど性格は悪くない。
「いつか飛んでいけるような気がしていたんだ。いつだって呼ぶ声が聴こえていたから」
 君の声だ、と言われなくてもわかる。
 ずっと知っていた。きっと会えると分かっていた。
「鶴になれるものならきっと、もっとはやく君に出会えていただろうになあ」
でもそうならなくて良かった、と続ける。そうだった、本当にそうだった。鶴になっていたらきっと彼はもっと遠くへ飛んでいってしまって、今世では逢えなかっただろうから。



箱庭006 @taitorubot

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二人だけの墓穴を掘ろう 

 悪かったな、と彼女が謝ることはない。そもそも謝られるようなことをされたような記憶もないのでそんな言葉を願っている訳でもなかったが。なあ、と彼女は話し掛ける。
「今世は一緒に死んでやれるけれどもどうする、つる」
その申し出は、あの願いを後悔していると言っているようなものだった。きっと彼女にそんなつもりはないのだろうが。
「今世、今世かあ」
 考えるまでもない。
「君が良いというのならば一緒に死んでもらうのも吝かではないな」
なんだそれ、と彼女は笑った。彼女が笑ってくれることが、とても嬉しかった。



りょうきてき @ruktk_bot

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罪を呼ぶ傷跡 

 覚えているか、とは問わない。覚えていなくても構わなかった。手首には白い傷跡がある。覚えのない傷跡だった、少なくとも、今世≠ヘ。
「これが君へと導いてくれた」
すり合わせても血が交じることはない。何かが起こることもない。ただ、そういった事実を双方が認識するだけで。
「…相変わらずロマンチストなんだな」
「これをロマンチックだなんて言う君もなかなかだと思うぜ」



虹色えそらごと。 @nijiesoragoto

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きみは逃げるのがうまいんだね。でも残念、僕は捕まえるのが得意なんだ。 

 俺の勝ちだ、と唸る男を締め上げながら暫く待つと、軽い足音と共に彼女は現れた。その後ろには依頼主。
「捕まえたぞ」
「おつかれ」
この時代、遺産相続関連のごたごたに、まさか仲介人として呼ばれるなんて思わなかった。依頼人から金を握らされたのだろうと言われるのは覚悟していたが、まさか依頼人共々生命を狙われるとは思わなかったし、結局こうして大捕り物のようなことをするなんて思わなかった。
「君、仕事は選ぼうぜ」
「選んだつもりだったんだが」
 卒のないところは変わっていないがしかし、前≠謔閧熄ュ々全体的に気が抜けているような気がしていた。彼女には他の人間と違うような力はなかったし、両親は健在だし、この世界では戦争もなければ審神者という職業もない。だからこその気の抜け方なのかもしれなかった。
 これが、平和の力なのかもしれない。
 鶴丸国永≠ヘその結末はどうであれ、その原点は逆の場所にあるのでよく、分からないままでいたかった。
「しかし君は本当にすごいな。あっという間に捕まえた」
「ああ。だから君も俺から逃げようとなんてしてくれるなよ?」
「そんなつもりはない」
「でも君は逃げるのが上手そうだ」
「だから、そんなつもりはないと言っているだろう」
「だって、君は俺から逃げたじゃないか」
丁寧に約束までして、と言うのはそんなこと思ってなどいないからだった。いないからこそ、言葉に出来る。
「逃げたつもりはないよ」
「…知っている」
「君は言葉にして欲しいならそう言えば良いのに」
「………そう、だな」
 今も尚人間になりきれないでいるから、結局彼女には敵わないのだ。



確恋
http://85.xmbs.jp/utis/

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誰にも言えないなら? 

 良えんですか、と問う国行は(彼女がそう呼んでいるのでそれに倣っている)彼女より少し年下で、隣町に住んでいるらしい。
「自分らは何となく、此処にいる理由分かってますけど。主はんまでいるとなると話は違って来ますわ」
前≠ェ彼女の刀剣男士だっただけある、と思う。彼もまた、賢い。どうして自分が此処にいるのか、分かっているのだ。
「主はんがいるならあんさんはいつか来るとは思ってましたけど、思ってたんと違うふうに来ましたし」
「へえ、そうなのか」
「もっとページめくりみたいにして颯爽と現れて拐っていくんやと思ってました」
「………何なんだそのイメージ…」
分からなくもないが。
「良えんですか」
「良いさ」
「このまま主はんが気付かなかったら」
そんなことはないと思っているのに国行は問うのだ。だから笑って言ってやる。
「その時は墓まで持っていくだけの話さ」



白黒アイロニ @odai_bot01

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白い羽根は朽ちゆく母星(ほし)の欠片 

 君には本当に翼があったのかもな、と彼女は言った。唐突にこうしてロマンチストになることは、前≠謔闡揩ヲたと思う。
「おいおい、まるで天使を堕としたかのように言うんだな」
「君になら天使という言葉も似合うだろうな」
「俺がそういう意味で言ったんじゃないこと分かってるだろ?」
 手を伸ばしたら、簡単に触れることが出来た。これでも彼女はこれが翼だったら、なんて言うのだろうか。
「君を人間にした私は罪深いか?」
「馬鹿だな、君がもいだ訳でもなかろうに」
今だって楽しいさ、と言えば心底安心したように彼女はそうか、と息を吐いたのだった。



夢見る詩 @poemdreamer_bot

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知らなくてもいいことだらけ 

 彼は何でも知っているようで何も知らなかった。まるで占い師のように何でも言い当てることもあれば、まるで生まれたての雛のように驚いてみせることもある。忘れているだけさ、と彼は言うけれどもそれは結局すべて知っているというのと同じではないかと思う。
 そうして私について自分の入った建物の名前を二度見して、彼は大きく口を開けた。
「探偵!? 君、そんなことをやっているのか」
「恐らく勘違いしていると思うから先に言うが、推理したりはしない」
「何だ」
「失せ物探しとか、つまるところの何でも屋だ」
「それも結構わくわくしそうだな」
「わくわくするんじゃないのか」
「君、もっと表情に出して言ってくれよ」
本当にそういうところ変わらないな! と彼は勝手にソファにダイブして、それから思い出したように私を見上げて来た。
「なあ、君、」
彼は笑う。この上なくおかしいという表情で。
 「世界は、美しいかい?」



NASAなんの略か知ってる?知ってるよ、なんとかアンドスペースなんとか / 森まとり

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君の遺伝子の色は何色ですか? 

 同じ布団で眠る、なんて。前ではきっと何とも思わなかった行為だ。同じような身体を持っていても彼女は人間で自分は刀剣男士で、そう、それだけだった。主従、その関係が心地好くて幸せで、それ以上を望むことなどしなかったし、それ以上は何か違う気もしていた。
 でも、今は違う。
「一つ聞かせてくれ、君は人間なのか?」
「おいおい、セイレイにもそれは聞いたのか?」
「まさか」
 記憶があっても同じような姿形をしていても、結局此処は違う世界で違う人間と人間らしい何か(推定)だった。
「セイレイは人間だろう」
「そう思っているのに俺だけに聞くのはちょっとずるくないか」
「君が普通に現れれば聞かなかったさ」
「それもそうか」
頷くしかなかったので正直に分からん、と伝えることにした。
 彼女はそうか、と頷いただけだった。掌があたたかくて、それだけが幸せだった。



Cock Ro:bin
http://almekid.web.fc2.com/

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今度は人間みたいな理由で 

 愛してみたいんだ、と言ったらもう愛しているんだと思っていた、と受け取るものによってはひどく傲慢な返答が来た。あまりのひどさに笑ってしまう。
「君、まさか今までそんな言葉は俺以外に言っていないよな!?」
「君以外に私に愛を囁いて来た人間がいると思うのか」
「え、いないのか」
「隣にいつもセイレイがいるのに?」
「なるほど。いないだろうな!」
一通り笑ってから彼女の手を取って、それから小さな声で囁く。
「君のそういうところが、俺はとてもとても好きでたまらないんだ」



私はあなたのそういうところがすきなんだけど
あなたのそういうところをすきになる人は
もしかすると一生のうちで私しかいないかもしれないでしょう
だからそれだけの理由からでも私を大事にしてくれていいと思うの
(銀色夏生)

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いついつまで続くの人間ごっこ 

 人間の会話を聞いていると幸福だとか幸せだとか、そういう言葉が出て来ることがある。それは勿論日常会話ではなく、ドラマなどの創作物の台詞であったのだが。愛や恋はそれでも何となく分かるようになっていたが、その手の類のものはまだまだ難しかった。
 五条国永にとって幸せとは何なのだろう。その形は不確かすぎて、この手に収めることすら出来やしない。
「君は幸せの形を知っているかい?」
練習のつもりで口に出して、ああこれは違う、とそう思った。
 これは人に聞くようなことではない。鶴丸国永にとっての幸せは、人の子の幸せだった、それが自分だけだったのか、それとも鶴丸国永≠キべてに共通する願いだったのか、それはよく分からないけれど。
「俺の、俺にとっての幸せ、かあ…」
これは自分で答えを出すための問題だった。
 人間になるための、問題だった。

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20180323