少女の夢 

 やっぱり曰く付きだったんじゃないのか、とへし切長谷部が思うのはその薔薇を使うのが既に三回目だったからだ。
「別にそういうんじゃないよ」
頬を膨らますにっかり青江に本当か? と問うことはしない。にっかり青江は嘘を吐かないことをへし切長谷部はこれ以上なく知っているからである。秘密は多い刀剣ではあるが、だからと言って嘘は吐かない。言えないことは言えないと言うか、なんとなく言葉を駆使してけむにまく。
 ひらり、また一枚花片が落ちていく。薔薇の、未だみずみずしく紅を保つ欠片が、何処ともつかない場所へと落ちていく。
「花占いなんて、可愛らしいじゃないか」
それをしているのが誰なのかにっかり青江は言わなかった。へし切長谷部も聞かなかった。
「花占いが終わるまで待てば良いのか」
「うん、まあそうだね」
「なんだその曖昧な返事は」
「いや、いい結果だったらこれだけで終わるだろうけど、悪い結果だったらねえ…」
「待て、此処から出られないなんて言わないだろうな? 今日俺は料理番なんだが」
「間に合わなかったら察した石切丸が変わってくれるって」
「そういう問題じゃない…!!」
「まあ」
 ひらり、また一枚、花片が落ちる。
「花占いなんて良い結果が出るまでやってこそだよ」



とじこめた一輪花をとくたびに波形はきみを更によみこむ / 琳譜

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「このまま今日が終わらなければいいのに」

 その言葉を聞いてしまったら振り返らずももう分かってしまった。この本丸に降りて来て人の身を得て感情を操るようになって、そんなに時間は経っていなかったはずだけれど。
「残念ながら俺はあいつほど優しくはない」
そう呟けば後ろのものは少し笑った気配だけを残してさっさと何処かへ行ってしまった。



孤独症候群 @s___syndrome

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ばかみたいに欲張りになってた 

 遠征から帰って来たにっかり青江を迎えたへし切長谷部は、顔を見るなり盛大にため息を吐いた。
「え、何だい。僕がいない間に何かあった?」
「いや別に」
「あ、その言い方は何かあったね。教えてくれないのかい?」
「言うまでもないことだ。話の種が尽きたら教えてやる」
「そんな、話の種が尽きる時なんて君にあるの?」
「ないかもな」
笑って、他の遠征メンバーが奥へ行ったのを見届けてから抱き締める。
 「お前と出会えたことはとてつもない幸運なんだなとそう思っただけだ」



https://shindanmaker.com/122300

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(だいすき。) 

 ねえ、君が僕を見つけてくれたことを君は喜びとして受け取ってくれる?



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指と指の隙間から、溢れていってしまうんだ 

 もう何も言わなくて良いとは思うけれどね、とにっかり青江はため息を吐く。
「それとこれとは別だ」
「君がそう言うのも分かってはいたけどね」
へし切長谷部の眉間の皺を伸ばすように遊んで、それからにっかり青江は笑う。
「君といるから、かもなあ」
「何が」
「石切丸の気持ちが分かってしまうの」
僕だって最初からこんなにあれこれなんでもやっていた訳ではないんだよ、と。
 分かるようなったから、余計に。少しでも、なんて。
「だから僕は石切丸を手助けしたいとそう思うんだよ」
それが君にとっての負担でもね、と言う言葉にはへし切長谷部は負担じゃあない、と答えるしか出来なかった。



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虹が出ましたらまた今度 

 日射しが強いね、というのはただの世間話だったはずだった。ただ突然何の前触れもなくビニール傘を取り出してまるでえいや、とそれが武器であるかのように突くものだから、そして其処から雨が吹き出すものだからちょっとやそっとでは驚かなくなっていたはずのへし切長谷部は流石に声を上げた。
「今の何だったんだ」
「さあなんだろうねえ」
 僕が何でも知ってると思っていないでしょ、とにっかり青江が笑うので、結局それもそうだな、としか返せなかった。



八月の雨に溶けよう 透明な傘から空を君と見上げて / 足立尚彦

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何処どこまでも贄のように 

 ねえどうしようもなくなったら君は実力行使に出られるかい。いつもの柔和な調子で言われたけれどもどうせまた重要な話なのだ、これは。むっと眉間の皺を寄せてみればごめんごめん、と笑われる。
「別に長そうと思った訳じゃないよ、起こるとも限らないことだし」
「ならば何故」
「僕一人じゃ心もとないからかなあ」
なるほどそれが誰のことを指すのか、どうしてそうなるのか分かってしまって、その時は協力してやろう、とせめてもの上から目線でそういった。



逃げ水を追ったあの子は神隠しビルの向こうに夕陽は落ちる/君が見る夢/最後の楽園
松野志保

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いつかは君を離してあげなくちゃ 

 この戦争が終わればきっとこの本丸は解体だろう。もしかしたら主の体質のために主の師匠が何かするかもしれないが、それは石切丸や他の刀剣男士の仕事であろう。にっかり青江は確かに半ば石切丸にこき使われる形で主のためになることをやってはいるが、主に対して新たに働きかけをしているかと言うとそうではない。主とてにっかり青江が何か自分のためにしているとは思ってもいないだろう。にっかり青江も言ったことはなかったし、これからも言うつもりはない。
 だから、もし数振りが残されることとなっても恐らくそこににっかり青江は入らない。入らないし、きっとそれはへし切長谷部も同じだ。きっとこの戦争の一時終結と共にこの運命は終わる。だと言うのに。
「ああ、本当に僕は君のことが好きだなあ」



壊れかけメリアータ @feel_odaibot

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彼岸花と夏 

 ゆらり、ゆらりと揺れる景色がある。真っ赤だ、真っ赤な海のようだ。けれどもそれはへし切長谷部の知っているものではない。戦場の色ではない、血の色ではない。それでも幽冥に隔てる、現実感のないものだった。
「長谷部くん」
横でにっかり青江が呼ぶ。
「あまり、そういうことを考えるものではないよ」
 ああそうだな、と応える裏で、彼の隠された方の目の色は確かこんなものだったなと思っていた。



@sousaku_Kotoba

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その花が落ちる瞬間を誰も知らない 

 青江! と後藤藤四郎と厚藤四郎がやって来たのは、へし切長谷部がにっかり青江と話している最中のことだった。
「お、なんか邪魔したか?」
「いいや? 大丈夫だよ」
「お前たち、今日は掃除当番だったんじゃないのか」
「掃除はちゃんと終わらせてるよ」
長谷部は俺たちのこと何だと思ってんだよ、と厚藤四郎が頬を掻く。
「もしかしてお願いしていたことかい?」
「ああうん、そう、それ。引き継ぎノートにはまだ落ちてないって書いてあったし、俺たちも掃除始めた頃はまだついてたんだけど。掃除用具片付けて戻ったら落ちてた」
「…誰も見ていないんだよね?」
「今のところ、俺たちが確認した奴らは見てないって。あれ、あの廊下通らないと見えないだろ? だから兄弟に誰が通ったか見ててもらってたんだよ。歌仙と御手杵と日本号が通ったらしいけど、見てないって言ってた」
「そこまでしてくれたんだね、ありがとう」
 何の話をしているのか知らないが、またへし切長谷部のあずかり知らぬところで何かが起こっていたことは間違いなさそうだ。
「あとは僕たちが何とかしておくよ」
「ああ。気を付けてな。ノートには落ちたって書いておいた方が良いか?」
「そうだね。暫くは大丈夫だと思う」
「分かった」
そうして駆けていく背中を見送る。
「いつもの知らない方が良いことか」
「そうだね、そんな感じだよ」
さあ行こうか、と立ち上がったにっかり青江に、へし切長谷部がついていかない理由はなかった。

 行った先には花が落ちていた。美しい大輪の花であったがへし切長谷部が初めて見るものであった。そして何より、先程の話にあったように確かに廊下からしか見えない位置に落ちてはいるが、こんなところにこんな目立つ花が咲いていたことなんてへし切長谷部は気付きもしなかった。
「どうするんだ」
「燃やすよ」
根本的な解決にはならないけどね、とにっかり青江は言う。
「でもまあ、世の中ってそういうものだろう」
「…誤魔化したな」
「かもね。君もこの花のことは早く忘れてね。まあ、多分、」
 すぐに忘れちゃうんだろうけれど。



@sousaku_odaibot

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20170830